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山羊文学

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墨と菫

美大を出て、広告代理店に就職しても、生活が華やかになるわけじゃない。 上がってくる線画に色を塗る毎日。こんなことバイトだってできる。そして実際、私の給料はバイトとさほど変わらない。 それでもこの仕事から離れないのは、時折任されるデザインの仕事があるからだった。企業ロゴ、パンフレット、メニュー……。社内で何人かがデザインをしてひとりが選ばれ、さらにクライアントの秤にかけられる。 しかし私はここでまだ勝ちを拾ったことがなかった。大学の同期や同僚が名をあげる度に動揺してしまう。コンペで負けるならまだしも、私は会社の中ですら抜きん出ることができない。 『街の野草』 市立の植物園が三月から行う企画展のパンフ。それが今、自分と同僚四人に任された仕事だった。この案件はコンペではなく発注。会社で勝ちを獲れば、確実に自分のデザインが採用される。 絶対に獲りたい。 そう思う裏で、どうせ無理だろうという思いがよぎる。頭に浮かぶのは同僚の顔。皆、経歴も実力も折り紙付き。歳は変わらないのについた差。焦った心は諦めることでバランスを取ろうとする。 クライアントの資料を手に取る。スミレの写真が目に入った。街の野草と

墨と菫