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山羊文学

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放置の町

煙草の煙を追い出す為に車の窓を開けると、代わりにプラスチックの溶けた様な臭いが入り込んできた。右手には巨大なコンビナート。この町の子供は皆、雲は煙突から生まれるのだと思って育つ。自分もそうだった。 2tトラックの荷台には、大量の塗料が積まれていた。その多くが建築現場で使われる防水塗料で、全てこの町のコンビナートで生産されたものだ。 窓を閉めるとプラスチックの臭いが残った。この町には、この臭いだけだ。色も活気も、プラスチックの粒子と石油の煤に覆われて霞んでいる。 抜け出したい。 物心ついた頃から抱いていた思い。大学を中退して家業を継いでからも、その思いは強くなる一方だった。ただ自分は、この町に染まり始めていた。同業者も取引先も皆知人。町を歩けば知人のひとりや二人には必ず会った。母は自分が生まれる前からあるスーパーに毎日通うし、父は親友のやっている煙草屋で何十年も煙草を買っている。何年も会っていない友人の髪の色を、床屋で不意に知らされたりする。 狭い、狭い、狭い。しかし窮屈なくせに居心地は良かった。それが、酷く恨めしく思えた。 夕方、煙草を吸いに家を出た。倉庫が併設されている我が家は常にシ

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