Chapter 14 - 悔恨の洞窟:3
女神様。
セレナだって自宅にある書籍の類はほとんど読み尽くした本の虫だ。
勿論その女神の名を知っている。
だがその女神の写真すら見たことのないセレナは、タイタンの言うことがにわかには信じられなかった。
その女神の崩壊は旧世界の終焉の象徴、そして史上最悪の災害として今も語り継がれる。
正式名称は「世界を照らす自由」。
アメリカ合衆国の独立100周年を記念して、フランス人の募金によって作られた93mの巨大な銅像。その手には純金の松明を掲げ、足元には引きちぎられた鎖。
弾圧、抑圧からの解放、そして人は皆自由で平等であることを表現したその彫刻は自由の国アメリカの象徴。アメリカ合衆国が世界一の多民族、多文化国家として語られる際に、人々は必ずその女神の名を讃えるのだ。
いくら女神様と言っても、ここから脱出するための助力になるわけではない。
そもそも服を洗うために水場を探していたはずだったが、この湖が海水で満ちていた以上、それすら達成できていないのだ。絶望的な事実は2人の活力を奪うには十分すぎた。
「それはそうよね。塩水を乾かしたら・・・塩になるわね・・・。」
風邪を引くよりはいいと服を乾かしたが、髪も服もごわごわして気持ちが悪い。
焚き火を消してきて良かったとタイタンは心底思う。火災になったら目も当てられない惨事になっていたに違いない。
もう日付が変わるような時間だろうと、仕方なく眠ろうとするタイタンを横目に、今度はセレナが活動を開始した。
「・・・あんた。流石に寝たほうが。」
「少しだけ」
そう言ったセレナがポケットから取り出したのは。
「どうやって拾ったんだ!?」
タイタンが削ったあのグリムメタル。金色の大きな鉱石がセレナの手の中で煌々と輝いていた。
「鎖で巻き取ってやったの。・・・せっかくタイタンが命がけで採ってくれたものを無駄にはしないわ。」
ふふん、得意げなセレナの笑みがこれほど頼もしかったことはない。
足を引っ張ったのは自分だが、それでも目的の1つくらいは達成できていたのはせめてもの慰めになる。
「どうせ水量が落ち着くまで出られないもの。ちょっと調べて・・・って。これ・・・。」
気合い十分で鉱石に向き合ったセレナの表情はすぐに固まる。
何度かグリムメタルを握り、離し。そして床に置いた。
「・・・これ、加工済みね。もう使えないわ。」
「加工済み?」
「グリムメタルに一度覚えさせた魔道を消すことはできないから。・・・ああ、そういうこと。目的はわからないけど、お母様がやったことは分かったわ。」
セレナは自分の脛の、まだ固まりかけのかさぶたをべろりと剥がした。
「・・・痕になるぞ。」
「手近な水分がないんだから仕方ないでしょう。それにこのほうがわかりやすいわ。」
たらたらと再び流れ出した血。それをセレナはグリムメタルの表面にべとりと塗りつけた。
すると、セレナの血液はみるみる透明になる。
透明になった血液を、セレナが小指につけて舐めてみると。
「やっぱり、海水になったわ。・・・このグリムメタル自体にそういった魔道が込められているんでしょう。さっき生き延びたのは奇跡だったわよ、タイタン。」
どういう意味か分からない。
セレナの口から奇跡という言葉が出たことに怯えながら、タイタンは先を促す。
「・・・いい?これはどんな水分でも問答無用で海水に変化させるのよ?人より体の小さい魚ならぶつかって出血しただけで血液を失って死んでしまうでしょう。もしさっきの濁流で、グリムメタルの砂つぶを大量に飲み込んでいたらどうなっていたか・・・分かるわよね?」
「・・・ッ!魚が居ないのはそれが理由か!」
ぞっとする。胃液、唾液、人体に必要な液体は様々。
グリムメタルを飲み込んだり、グリムメタルの破片が体に刺さったら、タイタンの体液が海水に変化させられる。生命維持に必要な体液がまるごと海水に変化させられたら。医療に詳しくないタイタンでも恐ろしい事態になることぐらいは想像がついた。
まさに死の海。数多の命を奪った死の鉱石だ。
「効果範囲はそうでもないわ。水が循環するのを想定しているのね。ぶつかって出血するくらいじゃ体躯の大きい人間は死なないでしょうけど、砂を大量に飲み込んだら手遅れよ。」
タイタンは口にざりざりした感覚と、僅かな塩味があることに気づき慌てて吐き出した。
さっき意識を取り戻した時に大量の海水を吐いた。きっと心配はないだろうが、もしもを思うと体の芯が冷え上がる気持ちになる。
「・・・久しぶりに思い出した、あんたのお母様がどんな人間だったか・・・。」
「お母様のミスさえなければ完璧な生態系がここにあったんでしょうけど。・・・一度の失敗が数多の命を奪うことになると、そういつも説いていたのはお母様でしょうに。」
セレナは水面にしゃがみ、小さく手を合わせた。
楽しく泳ぎ回る魚たちがうっかり鋭い鉱石にぶつかる情景を想像する。
お母様に持ち込まれたのか、作られたのかは知らないが、魚たちはきっと苦しい死に方をしたのだろうと、そう思うだけで小さく胸が痛んだ。お母様も天国で悔やんでいるに違いない。
思えば、お母様は不慮の事故がない限り、セレナに失敗作や試作品を見せることはなかったように思う。
勿論セレナの見ていないところでは数え切れない失敗や試行錯誤があったのだろう。
それでも、お母様はセレナの前でそれをほぼ完璧に隠し通した。完璧なものしかセレナに見せないし、食べさせないし、着せないし、使わせない。
それは母としての意地か、大魔導師のプライドだったのか、今はもう知る由もないけれど。
ここにはお母様の悔恨が確かにある。
久しぶりにそれを目の当たりにし、苦い感情がぎりぎりとセレナの頭を締め付けた。
やっとの思いでそれを飲み下し、セレナは再びタイタンへと向き合った。
「・・・あとはこの、ええと、女神様の像だけれど・・・あれ、1つの魔道も込められていない、ただの青銅の塊なんだもの。これは、これ自体がなにか意味を持つわけじゃなくて、ここにこれがあるという事実が意味を持つのだと思うわ。」
「意味って?」
「分からないわ。お母様の気まぐれかもしれないし。とりあえず調べるだけは調べるけれど、私は・・・これ以上なんの情報も得られないと思うわよ。」
セレナの言った通りだった。2人は像の外周を歩き、材質や魔道の痕跡を探った。
しかしこれはやはり「自由の女神を模した青銅の像」に過ぎず、これが周囲に何か影響を及ぼしているとか、異常を起こしているとか、そういった事象は見られなかった。
「・・・この洞窟で他になにか異常が起きているなら真っ先に疑うべき場所だが。それを調べられない以上今はどうしようもない。」
「まあ、諦めて眠るのが賢明よ。・・・明日になってまだ水量が落ち着いていなかったら、魔道で脱出を試みましょう?」
セレナは海水でべたつく地面に寝転び、目を閉じた。彼女に促されるようにタイタンも地面に座る。
彼女は眠ろうと言ったが、全身も気持ち悪いし寒いし、今日はきっと眠れないだろう。
タイタンは無理矢理に目を閉じ、女神の青銅像にもたれかかった。巨大な像は勿論、タイタンがもたれたくらいではびくともしない。
間も無くセレナの不規則で疲れ切った寝息が聞こえてきた。いくら不測の事態とはいえ、彼女を巻き込んだのは自分。守ると言ったのにこの様か、と申し訳ない気持ちが膨れ上がる。
「・・・はあ。」
ひう、ひう。セレナの普段よりはやった寝息から逃げるように、タイタンは意識を沈めた。
記録再生。
「セレナ?どうしたの、その大きな荷物は・・・。だから、そんなに怯えた目をしなくてもいいのよ?貴方がこの森から出ようとするなら全力で止めるけれど、貴方を虐めるために魔道を使ったりはしないわ。だから、大丈夫よ。・・・安心して。その毛布の中身が何だったとしても、私は貴方を怒ったりしないわ、私は貴方のお母様だもの。」
セレナも自分に少しは慣れてきたと思っていたが、頭を撫でようと手を翳すだけで飛び退くのは変わらない。
母親とは難しいものだ。本で読んだ通りにするだけでは上手くいかない。
ため息をつく自分に、セレナはびくびくしながら、手に抱えた毛布をそっと自分に渡した。
何かあたたかいものが毛布に包まれている。そっと包みを開くと、中に柔らかい毛皮の塊が見えた。
「・・・狼?」
中に包まれていたのは今にも死んでしまいそうな子供の狼だった。自分の両手にすっぽりと収まってしまうほど小さな狼は、酸素を求めて苦しそうにひゅうひゅうと喘いでいた。
よく見れば足が本来あり得ない方向に曲がってしまっている。
きっと森の最北部からやってきたのだ。
狼は子を崖下に落として教育するという。きっとこの狼は高い崖から落とされ戻れなくなり、親に見放され、ここまでたどり着いたのだろう。
セレナの目には、お母様なら助けられるでしょう、と縋るような色が滲んでいた。
「大丈夫、私は大魔導師だもの。きっと助けるわ。・・・そうね、セレナ。お手伝いを頼んでもいいかしら?蓬山・・・あの鹿のいる大きな丘。この間貴方が隠れていた場所。分かるわよね?あそこに生えている小さな黄色いお花を5本、摘んできてもらえないかしら?この間朝食のお茶にしたのとおんなじ、葉に産毛の生えた小さなお花よ。狼さんのご飯に混ぜたら腫れがすぐに引くと思うから。・・・できる?」
セレナは小さく頷き、家を飛び出して行った。
随分頼もしくなった小さな背中を見守り、狼をベッドに横たえた。
初めて我が子が不器用ながら信頼を向けてくれたのだ、何としてでも応えなくては。
まるで弟ができたような感覚らしい。
狼はゆっくり歩行できるまでに回復し、今日もセレナと家の前で日向ぼっこをしている。
きっと自分だけではここまでセレナの心を解くことはできなかった。
ここに来たばかりの時のセレナの、獣のような振る舞いを思い出す。
食事を床に叩き落されるなどは日常茶飯事。
食事を拒絶してどんどん弱る彼女に、眠っている隙に栄養剤を飲ませなんとか命を繋いでいたのもそれほど昔のことではなく。
傷が回復し、自由に動き回るようになると、今度は毎日のように脱走を試みるようになってしまった。
閉じ込めると今度は恐怖で泣き喚くのは目に見えていた。敢えて鍵をかけることはせずに毎晩彼女の脱走を許し、そしてなるべく優しく連れ戻すことを続けた。
「セレナ。」
差し出した手は魔道で焼かれる。
「セレナ。」
敵意に満ちた月光。
「セレナ。」
部屋に張り巡らされた鎖が自分を拒絶する。
「セレナ。」
兎用の罠にかかって小さな足から血が吹き出していた。
「セレナ。ルゥを連れてこっちにいらっしゃいな。干し葡萄のパンが焼けたわ。」
声をかけた玄関の外、午後の日差しを湛えた月光が幸せそうに緩んだ。
ぶつん。
「・・・タイタン!」
切り込むような声に体が飛び上がり、タイタンは目を覚ます。結局眠ってしまったのか。
こちらを覗きこむ丸い瞳は、夢で見たのと同じで、綺麗だ。
・・・いや、夢というにはあまりに鮮明だった。
きっと自分はお母様の視点でセレナの過去を見たのだ。
だんだんと覚醒する意識。そして今の自分の状態に気づき、驚き、タイタンは体を大きく震えさせた。
「タイタン、顔をよく見せて。・・・そう、そのまま私の目を見ていて。」
「・・・っ、あんた、なにして!」
寝ていたはずのセレナが自分の足に跨って密着している!かっと頭の奥に血が上った。
「いいから!動かないで頂戴!」
ざり。タイタンのブーツの踵が大地を削って音を立てる。
伸ばした膝に跨るように乗ったセレナが、壁に寄りかかったタイタンの頰に手を当てている。
腿に当たる熱い感触、息を吸い込むと潮と甘い肌の香り。
呼吸すら間近に感じ取れるその距離に身を強張らせたのはタイタンだけ。
セレナは真剣にタイタンの瞳を覗き込み・・・そして諦めたように体を離した。
「・・・もう痕跡がない。どういうこと?・・・タイタンの記憶を消したのは、お母様・・・?」
ぼそりと吐き出された言葉は、これほどの近距離でなければ聞き逃していただろう。
「・・・いいから一度離れてくれないか。年頃の女の子が男に跨るものじゃない。」
我ながら震えた声が情けない。
「何よ。この間は抱きしめたじゃない。今更照れることじゃないでしょう?」
「シチュエーションというものがあるだろう。・・・それにあの姿になると距離感がおかしくなるんだよ、今更冷静に突っ込まないでくれ。」
不満げなセレナを引き剥がし、長く息を吐く。一時的にかもしれないが雨は止み、上空からは濁流の代わりに太陽の光が降り注いでいた。
どくどくと心臓がまだ跳ねている。急に近寄らないでほしい、心臓に悪い。
人の恋心を弄ぶなと、文句が言えたらどれほど良かったか。
「・・・で、どうした。何かあったのか。」
切り替えるようにセレナに問いかけるが、返事は要領を得ないものだ。
「何でもないわ、別に・・・」
「それはないだろ。あんなに焦っていたくせに。」
明らかに何かをはぐらかした態度に少し苛立ち、タイタンは語調を強めた。
「だって・・・その、タイタンの隠し事に踏み込むわ、多分・・・。」
彼女はびくびくとしながら、それでもはっきりと告げた。嘘が下手なりに正直に振る舞うことにしたらしい。
その姿に平素の上品で落ち着いた振る舞いはない。何かに怯えるようなその態度は、彼女にしては珍しい。タイタンは自分の首を絞めることをわかりながらセレナに先を促した。
「・・・構わない。あんたはさっき何を感じ取った。」
「タイタンの体が魔道を帯びたから・・・おかしいと思って。何かに、干渉されたというか・・・貴方の記憶に働きかけるみたいな・・・もの?もし貴方がそんな風に干渉されて記憶を消されたなら・・・どうしてあの時私はそれが分からなかったの?魔道の痕跡が見えないわけがないのに・・・。」
ぶつぶつ。彼女は俯いて考え込んでしまった。その手は焦りで震え、昨晩の研究者の冷静さを失っていた。
そして、ぽつりと、唇が紡いだ言葉は「まさか」。
動揺するタイタンにセレナはもう一度掴みかかった。
「そうよ!あの時分からなかったのに、見覚えがある!ねえ!貴方は誰に何をされたの!?」
「・・・すまない。それは・・・知らないんだ。」
「だって!だって!これはお母様の魔道なんだもの!分かってしまったんだもの!貴方の消えてしまったものも。そのあとに注がれた何かも!正体が分からなくたって、それを仕掛けた誰かの匂いくらい分かるわよ!!ねえ!?貴方はお母様に会ったんじゃないの!?」
セレナは殆ど半狂乱で叫んでいた。同じ近距離でも、今度は恋心が踊り出すことはなかった。
セレナの目に、出会った頃の孤独が滲んでいた。お母様を失った埋まらない大穴が、セレナの心に黒々と口を開けていた。
ああ、俺はまだそれを埋められていなかったのか。
「・・・死んだんだろう、あんたのお母様は。あんたはそれを見たんじゃないのか。」
迷いながら絞り出した言葉は、小さく震えるセレナを傷つけた。
事実を突きつけただけだ、などと割り切ることはタイタンにはできない。
なぜなら、今見てしまったもの、セレナの過去、お母様の記憶のせいで、それを失ったセレナの悲嘆が前より一層タイタンには想像できてしまったから。
彼女にとって、お母様が世界の全てであったという言葉の意味が、分かってしまったから。
その事実を投げかけることに、躊躇してしまった。
「そうよ。お母様は死んだわ。でも、そんなのこの際どうだっていい・・・。ねえ、前にも言ったでしょう。」
セレナはそのまま、タイタンの首に小さな頭を埋めた。
普段より数段高い体温が、じわじわ自分の肌に溶け込んでいく。大穴の空いた心から、紅玉の血液が滴り落ちる音がする。
「もしお母様が、自分の計画のために貴方を巻き込んだなら。貴方の記憶を奪ったり、貴方が人間であることすら奪ったなら・・・私は大切なお母様すら憎んでしまうって・・・。」
背中に回された小さな手が、弱々しくタイタンのシャツに縋った。
「お母様が生きているとか死んだとか、貴方にこんなことを聞いたって答えられないだろうとか、これは聞いちゃいけないって約束したことだとか、そんなの分かっているわよ。だけど・・・だけど・・・!」
「セレナさん。」
「今まではよかったの。何が犠牲になろうと、それよりお母様の方が大切だったから。・・・だけど、今は。同じくらい貴方と、貴方と過ごす世界が大切で・・・。」
セレナの不安が眼前に広がっていた。暗雲がタイタンの眼前で渦を巻き、悲しみがしとしととタイタンの首を伝っていく。
言い訳のしようもない。だってその通りだからだ。
自分はお母様の世界を救う計画のために記憶を奪われ、よく分からない血を注がれた。よく分からない記憶を注がれた。それはまぎれもない事実。
たとえタイタンが望んだことだとしても、その事実は変わらない。自分は既に、セレナと世界を救う計画のため、たくさんのものを闇に葬ってしまった。
セレナが泣いてしまうほど嫌ったことは、もうとっくに現実に起きてしまった。
きっとその予想が当たったことを知ればセレナはお母様を憎み、あの過去の屈託のない美しい笑顔は忌まわしい思い出に変わってしまう。
それが失われないでほしいと思った。彼女の美しい思い出を美しいままにしておきたかった。
だからタイタンは嘘を重ねることにした。
自分は彼女より人を騙すのが上手い。その自信はあった。
「・・・お母様は関係ない。あと・・・これだけは本当のことを言っておく。記憶をなくすことを選んだのも、人であることを捨てたのも俺の選択だ。あんたの見たものが何かは分からないが、きっと勘違いだ。心配しなくていい。」
「・・・勘違い!?」
声を荒げたセレナをなだめるように背中を撫でる。
「あんたが感じたものを否定するわけじゃない。だけど、お母様が関わっていないのは事実なんだよ。・・・考えすぎだ。こんな慣れない場所に流されて不安なのは分かる。家に帰ってゆっくり眠って、それから改めて考え直せば、見えるものも違ってくるかもしれない。」
「・・・タイタン、貴方。」
セレナは、傷ついたような顔をしたように思う。
しかしその傷は、一度瞬きをする間に隠れてしまった。後に残ったのは少しだけ冷たくなったセレナの手の温度だけ。
タイタンは淀みを吐き出すために、上を見上げて大きく息を吐いた。
遥か高み、女神像は真正面を見据え、足元に座り込むタイタンの目を見ない。
そのほっそりとした指が、遠い記憶の中、狼を抱きしめたお母様の指に重なった。