Chapter 46 - 師匠と教え子
雨は嫌いだ。
降る度に、嫌なことを思い出すから。
見ないよう、出くわさないよう、避けて通れば通るほどに実感させられる。
――雨は、嫌いだ。
それに気づいたのは、外へ続く扉を開けてからのことだった。
「……しまった」
今回ばかりは失念していたと言わざるを得ない。すっかり話に夢中になってしまい、ふと確認した時刻に青くなったのが少し前。慌てて帰り支度を整え、あいさつもそこそこにして、外に出てきたその矢先だった。
「あららら、降ってきちゃったねぇ……」
「はい」
後ろから覗き込んできた女性に場所を空けようとするも、「あ、いいのいいの、すぐに入るから」なんて断られてしまっては、こちらとしても諦めるしかない。
花や木々を潤す、恵みの天候。上品に降り注ぐ滴――雨である。
前もって予報はされていたのだ。出された予報は朝一番。頭には入っていたはずだったけれど、今のこの事態を考えるに、それは言い訳にすらならない。いつの間にかきれいさっぱり忘れていたのだから。
周囲の国から、アルティナ王国は天候すらも操れる国だと噂されている。その噂はあながち間違っていない。降らせられる範囲は限られるけれど、雨乞いの術を用いれば、いついかなるときでも雨を降らせることができるからだ――と言われている。
自分の職務ではないから、どのように雨乞いがされており、どのように降らせているのか、その詳しいことはわからない。けれども前もってなされる、何日の何刻に雨が降ると告げられる予報が一度たりとも外れないのだから、アルティナ王国では天候は意のままにできるのだろう。
一度に降る雨は、それほど長い時間降り続くわけではない。とはいえ、外に出たらどうしたって濡れてしまう。それに、雨の予報が来たらその時間は外には出ないという、誰が決めたわけでもない了承がされている。
王宮まではここから四半刻。歩いてここまで来たのだから、当然帰れる距離ではあるけれど、どうしたって雨の餌食になってしまう。
諦めて雨の中をつっきるか、それとも雨がやむまで待つか。アルティナの常識を掲げるなら、圧倒的に前者だ。
「セーミャちゃん、雨宿りしていくかい? 奥に椅子もあるし、ゆっくりできるけど」
「――いえ」
顧みた背後のおかみさんに、荷物を示して見せる。
「急ぎの要件がありますので、このまま帰ります」
嘘ではないけれど、口実でしかない。あまり足止めを食らいたくないのが本音だ。これは自分の落ち度でもあることだし。
それに、あちこち水たまりができている。それほど降っていたのなら、もうすぐやむはずだ。
「そうかい。気をつけて帰るんだよ」
「はい、いつもありがとうございます」
セーミャは外衣についている帽子をかぶる。いつもは日差し避けくらいにしか使わないけれど、こういうときには役に立つ。あまりそれをやりたくないのは、アルティナの決まりごとがあるからではなくて、単なる自分のわがままにすぎなかった。
荷物を小脇に抱え、飛び出してきた雨の中。むわっと押し寄せる土の匂いを嗅ぎながら、早足というよりは小走りで帰路を急ぐ。
濡れて困るような荷物でなかったのは幸いだ。とにかくできる限り、ここからかかる時間を短くして帰らないといけない。どういう経路で帰ろうかと逡巡《しゅんじゅん》して、路地に目を走らせ――唐突に腕を取られたのはそのときだった。
「ふわっ!?」
横からの力に加えて濡れた地面。足の踏ん張りがきかなくなって、セーミャはたたらを踏んだ。そこにあった柱に無我夢中でつかまるも、その拍子にぽんと宙を飛んだ鞄がひとつ。
「あああ……」
伸ばした手も空しく、舞った鞄はべしゃっと音を立てて水たまりに着地する。あれは決して高価な品ではない。けれども、自分のお気に入りの鞄だったのだ。
ああ、それでも託された荷物を持っている手でなくて良かった。この荷物だけは落とさないように死守できて、本当に良かった。その代わりとばかりに犠牲になったのは、自分の荷物だったけれど。
――泣きたい。
「ああ、思ったとおり。セーミャだ」
項垂れたセーミャの耳に聞こえてきたその声は、つかまっていた『柱』からだった。思わずそこから一歩退く。柱だとばかり思っていたら、それは人ではないか。
「お師匠、様……?」
仰いだその顔には、確かに見覚えがあった。見覚えというよりも、顔を合わせすぎていて、そろそろ一日や二日くらい離れてもいいのではないかと思うくらいで。
驚きを隠せなかったのはここで遭遇したからではない。この人がこの場にいることがまずあり得ないからだ。
こんなところで会うなんて考えもしなかった。そもそもこの人が王宮から外に出ているのを、一度として見たことがなかったから。
「うん」
それほど外出の似合わないセーミャの師は、ごくごく自然に答えたのだ。
止まっていた時間を動かすべく、セーミャは口を開く。
「お――驚かさないでください! 危うく転ぶところだったじゃないですか」
罵詈雑言を並べたてかけて、方向を修正する。話してもこの上司にはうまくかわされるだけだし、言ったところで後悔が募るばかりだ。自分の代わりに犠牲になった鞄とか、師が今ここにいる疑問とか、言いたいことの全てを心の奥底へと押し込めた。
「転ばなかったからよかったでしょう」
「……そうですね」
結果論だけを言われても、腹に据えかねるものはあるわけで。ふつふつと湧き上がってくる感情は、残念ながら治まらない。
「もしセーミャが転んだそのときは、助け起こしてあげるよ」
「……ありがとうございます」
「鞄はごめん」
「まったくです!」
ついでとばかりに言われた最後のひと言に、ついつい声を荒げてしまった。誰のせいでこうなったと。
あることないこと、さらに日頃の恨みつらみとを加えてまくしたてたくなったけれど、そこは辛うじて抑えた。常日頃のたまものというと聞こえはいいが、今一度思い返してみると嫌な慣れである。
「そういえば、どうしてあなたが街まで出ているんです? 珍しいじゃないですか」
セーミャの知る限り初めてだ。珍しいことが起きると雨が降るのだと、誰かが話していた。
――いや、雨が降るのは前からわかっていたのだった。だから、この因果関係は逆かもしれない。
「人を引きこもりのように言わない。頼まれたものを引き取りに来ただけだよ」
込められた感情は薄く、淡々と返される。
「あなた、引きこもり以外の何だと言うんですか――頼まれたもの?」
「うん。お嬢様ご所望の品物」
師が口にした『お嬢様』。セーミャの頭に浮かんだのは一人きり。
「へえ……キーシャ様からのご依頼でしても、よく引き受けましたね。部屋からめったに出ないあなたが」
「ほらまたそれ。別に出てないわけじゃないし、僕は出かけるのに不精なだけだよ」
「ぜひとも双方の相違をお聞きしたいところですね。わたしの記憶だと、これが初めてのように思えますけど」
しかし、なんと不毛な会話だろう。
「君の思い違いだよ。相違……ひと言で終わるか否かじゃないかな」
「そうですけど……いえ、そうじゃなくて!」
師は本当に、心臓に悪いことばかりをしてくれる。それでいて自分の調子を貫いていくのだから余計に性質が悪い。
「鞄は本当にごめん。でもあれ、君が手を離さなければ飛ばなかったよね?」
「……そうですね。あなたに引っ張られて体勢を崩したりしなければ、ちゃんと持てていたかもしれないですね」
でなければ、今こんなに涙目になって抗議してはいない。
お気に入りだったのに。使い勝手もよくて、重宝していたのに。腕をつかまれたりしなければ、濡らさずに今もこの手で持てていたかもしれないのに。
「それ、暗に僕のせいだって言ってる?」
「……そうですよ」
暗にどころか全面的にそうだと話しているのに、一体何を聞いてくれているのだろう。
「いつも教えてるけど、君はもっと予想外のことに対応できるようにならないと駄目。臨機応変が大事だよ」
「く……っ」
どうしてだろう。言っていることは正しいとわかる。わかるのに、心の底から、まったくもって納得ができない。自分が転びかけたのも、鞄を飛ばしてしまったのも、一体誰のせいだと。
全ての元凶をにらみつけるも、どこ吹く風という顔をされては意味がない。
――ああもう、この人は!
もう我慢ならない。決してそんなつもりではないだろうけれど、しらばっくれようとして見える横顔に向けて、セーミャは声を張り上げるべく口を開いた。
「それより、どうしたの? 君が雨の中出てるなんて、それこそ珍しいじゃない」
ばくばくと疾走していた心臓がふっと鎮まる。出そうとしていた文句も引っ込み、失った言葉で口ごもった。
吸い込んだ息が重い。
静かに見つめてくる師の瞳に、ここでこうして出くわしたのはお互い様だと、見透かされたような気がした。
「――行きつけの店のおかみさんと話し込んでいたら、すっかり遅くなってしまったんです。予報、忘れてたんですよ」
ふいと外した目が、地面を濡らす滴にたどりつく。ぽたぽたと、止めどなく降り続く雨が、変わらずそこにあった。
いつ止むのだろう。この雨は。何もかも全部雨のせいにしてしまえたらどんなに楽か。
「へえ、そんなこともあるんだ。君が」
「聞いていなかったわけではないんですけど、頭から抜けてしまって……」
言葉にしながら思う。なんて言い訳じみた答えだろうと。
普段ならば決して忘れはしない。セーミャにはそう言えるだけの自信があるのに、今日に関してその自信は、欠片ほどもありはしなかった。
「ふうん、意外」
わざわざ反省なんてしなくてもわかる。気を取られていたからだ。雨の予報が頭の隅に追いやられるほど、別のことを考えていたからだ。
出かけた先で遭遇した事態と、そこで出会った少女と、そしてすれ違った男性と。アルティナへと着くより早く、船内からいなくなってしまった二人組のことで、頭が占められていたからだ。
つむった目、呼吸をひとつ。開いた目が師を映す。
「――ご心配をおかけしてすいません」
浮かんできた顔を奥へとしまい、忘れるよう努めた。
「一応、君の師匠だからね」
「ところでお師匠様」
「ん?」
「これ、どうしたんです?」
見上げた空には天井があった。人一人が入れるくらいの小さな屋根に、二人して収まっている。服に備えついている帽子なんかよりも便利だ。これならば持っている荷物も濡れないだろう。あいにく、セーミャには見覚えがないけれど。
「傘、っていうらしいよ。雨の日にでも出かけられる道具なんだって」
「へえ……初めて見ました。こんなのあるんですね」
「必要ないんでしょ。アルティナは雨の日に出歩く習慣がないからね」
「他のところはあるんですか? その、雨の日に出かける習慣です」
師の言い方だと、他の国や地域では出歩いているような雰囲気がする。
「そうだね。僕の故郷では、天気にかかわらず出かける人が多かったかな」
「へえ……」
雨を遮る小さな空間。その空間に入れていない足元は変わらず濡れるけれど、少なくとも帽子だけで歩いているよりはずっとましだ。
「僕も帰るとこだし、どうせなら一緒に行く? 二人くらいなら入るよ」
「ええ。では、お邪魔します」
「どうぞ。狭いけど」
それと、なんて続ける。
「早いとこ君の鞄拾っておかないと。中まで染みない? あれ」
「…………そうですね!」
いつものように話していて、大事なもののはずなのに頭から消え失せていたなんて。
大慌てで傘から抜け出し、無残な姿となった鞄を迎えに行く。しゃがんでぐっしょりと濡れそぼった鞄を助け起こすも、その冷たさにセーミャは、気分が激しい勢いで沈んでいくのがわかった。
――やっぱり泣きたい。
けれど、そんなことは口が裂けても言えない。盛大なため息を吐きたくなったセーミャの足元に、影がすっと差しこまれた。同時に、セーミャの後頭部を容赦なく濡らし続けていた冷たさが遮られる。
「拾っておいでとは言ったけど、君が先に行ったら濡れるでしょう。なんで僕を待たないの」
なんでと言われても。入れ替わりとばかりに降ってきた小言に、セーミャは不満を露わにして師を仰ぐ。
「帽子を被っているから平気ですよ。お師匠様に出くわさなければ、これで帰っていましたし」
恨みがましい口調になっているのを自覚しながら、そこに立ち上がった。
頭上を指し示して、セーミャは自身の格好を見せる。荷物は濡れてしまうかもしれないが、濡れても問題はない品物だ。鞄に関しては濡れるどころかずぶ濡れになってしまったけれど、それも今更だ。
「でも今は僕がいるよ」
「けど、すぐそこでしたし。別に問題ないですよ」
「僕が嫌なの」
「……駄々っ子ですか、あなたは」
「違うよ。酷いこと言うなあ」
言わせているのは誰のせいですか――そう言いたいのをぐっとこらえ、黙って先を歩き出す。
動いた影と足音と。セーミャのすぐ後ろから出されていた傘が、やがて隣に並んだ。
「君、何か悩んでることでもあるの?」
「なんですか、やぶから棒に」
「んー、気になって。ほら、こうやってゆっくり話をするのも久しぶりじゃない」
「そうですけど」
近頃話をできなかったのは、セーミャが遠方まで出かけていたこともあるけれど、一番の理由は隣にいる師が部屋から動かないからではないだろうか。
まず治療室の外で出くわさないことがひとつ、セーミャとていつも治療室にいるわけではないし、いたとしても落ち着いて話ができる環境ではないことがひとつ。
しかしながら、今の状態でもいけないのはわかっているのだ。あちこち気にしすぎていつもの感覚が薄れている。気が気じゃないのはまずいとわかっているのに、いつの間にか考えごとに気を取られてしまう。
先刻もそうだった。頭からすっぽ抜けてしまった予報に、状態が悪化してしまった自分の鞄に――師のせいだと抗議しても、それは八つ当たりでしかない。大本にある原因は、セーミャも嫌というほどわかっている。
「困ったことがあったら僕に言ってね。教え子の憂慮は気になるから」
「はい、ありがとうございます」
「仕事に影響しても困るし」
「……心に留めおいておきます」
そうやって痛いところに刺さないでほしい。なんて、思っていたら。
「僕じゃ、頼りないかもしれないけど」
加えられたひと言に、はからずも吹き出してしまった。
「あなたがそれを言いますか」
堪えきれなかった笑みがこぼれ落ちる。ひとしきり笑った頃、師がこちらをじっと見つめているのに気づいた。
「なんです?」
「うん、元気になったね」
引っ込んだ笑みの代わりに、師の真面目くさった顔を映す。感情に乏しい、その表情を。
「この前帰ってきた時から気がそぞろだったから。何かあったんだとは思ってたけど、聞ける機会がなかったしね。君、なかなか捕まらないんだもの」
「それはあなたが部屋から出ないからでしょう」
「そんなことないよ」
軽口を返すも、師の洞察力に内心舌を巻く。やはり気づかれていたのか。
「すいません、たいしたことではないんです」
「本当にたいしたことないなら、君が予報を忘れるなんてしないでしょう」
はぐらかそうとした口がぐっと詰まる。どうしてこの人は、そういうことを言うのだろう。
二人の沈黙を埋めるように雨はしとしとと傘に落ちてきて。静かではないけれど、小さな空間が気まずい。思いきってここから走り出して帰ろうか。そうすればこの気まずさもなくなるだろうし。いっそのこと雨に打たれれば、頭も冷えるだろうし。
「お師匠様、あの――」
「セーミャが話したいときに話してよ、それ」
決した言葉はしかし遮られて。見上げた師は決してこちらを見ず、前を向いて言うのだ。
「話を聞くくらいだったら僕にもできるよ。僕が聞いていい話ならね。言いたいことがあるならちゃんと口に出す。呑み込むのは君の悪い癖だ」
「……はい、いつか」
いつか。
語れる日が来るのだろうか。セーミャが出会った、少女と男性の話を。唐突に姿を消してしまった彼らの話を。
「いつか、お話しできたら……」
「別に無理しなくていいからね。僕が脅してるみたいじゃない」
師の言葉に再度吹き出す。
「なんですそれ、上司命令ですか」
「違うって言ってるでしょう、人聞きの悪いこと言わない。――うん、でもこれ、役に立ってよかった。買ってみるもんだね」
師につられて、セーミャもそれを仰ぐ。雨を遮る、魔法の道具を。
「どこから見つけてくるんです、こういうの」
「探してたのは違うものなんだけどね。セーミャにあげるよ、これ」
「いえ、そんな! お師匠様が買ったんですから、お師匠様が持っていてください。これでちゃんと出かけられるじゃないですか」
「僕は別に濡れてもいいんだけど」
「何のために買ったんですか。経費は無駄遣いしないでくださいと言ったでしょう」
思わず突っ込んでしまった。そうでなくても与えられた部屋を医務室に改造するわ、それとは別に治療室を設けるわ、さらに治療室の奥に昼寝部屋なんてものを作らせるわ、自分専用の枕を特注するわ、何を考えているのだろうかと思うのだ。快適さを求めるその意欲だけは認めるけれど、何もそこに力を注がなくともいいだろうに。
「無駄じゃないよ」
その無表情は真面目くさって見えるけれど、その実何も考えていないのではないだろうかという気にもなってくる。本当のところは、きっと本人にしかわからない。
「ほら、だって」
師はしれっと言うのだ。
「これがあれば、雨嫌いの君だって濡れることはなくなるでしょう?」
予想外のひと言に足が縫い止められて、立ち止まったセーミャの手に傘が渡される。
論点がずれている。
セーミャは何も、濡れることが嫌なわけではない。雨が嫌いなだけだ。
「いつも頑張ってくれてるから、ご褒美だとでも思ってくれればいいよ」
そこから一歩外に出た師が、不思議そうに上空を見やった。何か見えたのだろうか。
「あれ、晴れたねえ」
「――え? あ……」
明るくなったと思ったら。いつの間に雨が上がっていたのだろう。
そういえば、今日の予報は通り雨だったか。王宮に着くまでにはやむだろうと思ってはいたけれど。
「雨上がりは気持ちいいね。いい昼寝ができそうだ」
「やっぱり引きこもりじゃないですか」
「快適さを求めるのは大事だよ」
違う、話したいのはこんなことではない。
「あ、そうそう。これ、小さくできるから」
セーミャの手から取られた傘は、細く閉じられてまた戻ってくる。傘についていた雨粒が、ぽたぽたと地面に落ちていった。
「――お師匠様、どうもありがとうございます。おかげで助かりました」
「教え子が困っていたら助けるのは当然でしょ」
ひょうひょうとうそぶいて、師はさっさと歩いて行ってしまう。
どうせ向かう先は同じだから、またすぐ顔を合わせる羽目になるだろうに。
師のことだ。言葉のとおりまた昼寝でもするのだろう。そうして用事が来たら、セーミャたちが苦労しながら起こしに行くのだ。いつもと変わらない、日常の光景。
「当然、か」
雨が好きになったわけではない。鞄もぐっしょりと濡れそぼったまま。けれども師と出くわしたときより少しだけ晴れやかな気持ちになった気がした。
浮かんでくる笑みをこぼしながら、セーミャもその後に続く。
目的地の王宮は、すぐそこに。