Angel Bullet

Chapter 15 - 十発目―幕引き―

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 奏莓が倉庫を後にしてどのくらい経ったかは分からない、それほどキャロルは眠っていた。体はやはり動かないが声は出せる程度には意識はあった。その意識を糧にして喉から声を出してキャロルは近場にいる彼女にと話しかけた。

「いい加減怒ってないで出て来てくれないか?メル」

「怒ってません、ただ腹立たしいだけです。あなたが」

 すると何処からともなくと、身長はキャロルよりも低いがキャロルと同じく金髪の女が暗い倉庫の奥から現れた。その女は腕を組んでキャロルを見下ろすようにして言った。「腹立たしい」とは言っているも彼女の声からはそれに反した呆れた声であった。

 それでも彼女は内心怒っていた。なぜならば、自分の言ったことを聞かずに勝手に戦った。それが許せなくて内心は少し怒っていた。それが見抜かれたのかメルはあっさりと認めて言った。

「そう言うのを怒っているって日本では言うんだよ、メル」

「はいはい。それで、どうして戦ったの?銃を使っての戦闘は無理って言ったのに」

 メルと言う女はキャロルのすぐ隣にと膝を下して座り、心配そうにして言った。しかしキャロルは心配そうなメルに反して愚痴をこぼすかのように口をななめにして言った。

「実際に戦えたじゃないか、最後の方で腕が震え出さなければ――何をしたのメル?」

 その問いかけにしばらくの沈黙が続いた。意地でもキャロルは聞かなければならなかったが返って来たのは沈黙だった。

「別に責めてるわけじゃない。ただ、私が敗北した理由が知りたいだけ」

 キャロルは優しい眼差しを向けて言った。それでもメルは沈黙を続けた。その対応がやるせないキャロルはうだうだした声で「何が気に食わなかった」と自分を責めるようにして言った。するとメルはその言葉には沈黙では無く言葉を返した。

「だって、あなたは本来であれば彼女のお父さんの再婚相手になるはずだったのでしょ?だけど事故によって会いに来れなかった。それに、私のことを彼女の前ではなんて言ったかしら?本当は姉妹なのに・・・本当にあなたはこれで満足だったの?」

 メルの言うことは正しかった。本来であればキャロルは奏莓の父の再婚相手であった。しかし奏莓の父、功成は事故により彼女に会うことは終ぞ叶わず、奏莓に知らせることも無かった。そしてメルとキャロルは姉妹であったのだ。

 その言葉にキャロルはただのただ黙り続けていた。なぜならば返す言葉が無かったからだ。満足かと言われれば満足では無かったがそうでも無かった。まだやるせない自分とやり残したことは無いと二つの気持ちが入り混じっていた。しかし、それでも自分の考えは変わらなかった。

「アレだよ、自分の娘に変な気を持たせたくない、だよ。私だって彼女の父の再婚相手としての母性?保護者的な眼差しもあったさ。だけど、このままで良いのかなって思ってさ。父のために人殺しさせて、自分が再婚相手だってことを隠して、そう思うと自分は罪深くて人でなしでさ。こんなお姉ちゃんで満足?メル」

 その言葉は紛れもなく心の底からの言葉であった。だからこそメルは心を痛めた、自分の大好きな姉が自らを責めるのが見ていて辛かった。だから精一杯の励ましの言葉と真実を涙の交じった声で言った。

「満足だよ、満足だよ、お姉ちゃん。私なんかには釣り合わない程、だって、だってまたお姉ちゃんに抱きしめて欲しくて右腕から少し腱を削って左腕に継ぎ足したんだよ。そんなことしなければ勝ててなのに――」

 言葉で自らを責め、言葉の自傷行為をするメルにとキャロルは最後の力を絞って手を指し伸ばした。そしてメルの髪を撫でて笑顔を浮かべて言った。

「バカだな、そんなことしなくても抱きしめてあげるさ。私を誰だと思ってる、メル。最強のクウェール・ペンネだぞ、ルガーは無くしたが最強の銃を手に入れた私だぞ」

 その笑顔は童心に戻ったかのようにあどけなく、陽気のある笑顔であった。その童心に戻ったような笑顔がメルにはまるで、まるであの頃に戻ったように嬉しかった。メルとクウェールが笑い合って、遊び暮れていたあの頃に戻っていた頃のように。

「ねぇ、クウェールお姉ちゃん。最後に、最後にお願いを聞いてくれな?」

「なんだ、メル。最後って、最後じゃないかもしれないだろ?それでも聞くけどさ。それで、なんだい?」

 キャロルはそうは言うものの、メルにとっては最後の気がした。今日、この日がキャロルとの決別の日であり、どんどんと刻々と近づいて来る気がしてやまなかった。

「私のことを、あだ名なんかじゃなくて本名の方で呼んで。なんでもいいからさ、それで呼んでよ」

 それだけで良かった。メルはキャロルにもう一度あの名前で呼んで貰いたかった。決別の別れをする前に、もう一度メルは彼女に自分の名前を呼んで貰いたかった。

 メルの髪を撫でていた手の力が抜け、バタンと地面にと落ちキャロルは安心しきった声で「そうか」と言いメルの顔を眺めながら幸せそうにして言った。

「ごめんな、メルベル。不甲斐ない姉ちゃんで、私がもっとお前の事をもっとしっかり見れていたらこうにもならなかったのにな、いつからこうなっちゃったんだろうな。それと、奏莓に言っておいてくれ。榎枝正明には気を付けろってな」

 その言葉を最後にキャロルは目を瞑り深い眠りにと再び就いたのであった。それは夏の夜、暑くも無ければ涼しくも無い倉庫内でのことであった。キャロルの最期は自分の妹のメルベルに看取られ永い眠りにと就いた。

「バカだな、姉ちゃんは。間違ってたのは私で姉ちゃんは最後まで自分の正しいと思ったことを貫き通したじゃない」