Angel Bullet

Chapter 11 - 八発目

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 朝の八時半過ぎ、物信は慌てながら二階にある自分の部屋から出て駆け足で階段を下ってリビングにとやって来た。いつもとは違う様子の物信を見て正明はどうしたものだと思い不思議そうにして言った。

「どうしたどうした?そんなに慌ててよ。今日は土曜日なんだからもうちょっと遅くまで寝てていいんだぞ」

 不思議そうに正明は言ったもののそれでも正明はリラックスしたようにコーヒーを飲みながら物信を眺めた。それに反して相変わらず物信は慌てながらパンを食べながら言った。

「これからデートなんだよ、昨日言い忘れてたけど」

 その言葉を聞いて正明は「そうかそうか」とコーヒーを飲んでいたが突然とコーヒーを吹き出して目を丸くして物信を見て驚いた声で言った。正明自身もまさか物信からそんな言葉が出るとは思っていなかったのだ。

「ホントか!?お前にも遂に彼女ができたのか、よし、今日は赤飯と鯛だ。奮発しちゃうぞー」

 嬉しがる正明を見てなんだか物信も慌てていた気持ちよりも嬉しさが沸き上がった。それでもまだあやふやな奏莓との関係に自信を持てずちょっと不安な声で正明を見て言った。

「でも、恋人同士かどうかと言われるとまだちょっと不安かな。デートをするんであって恋人同士かはまだあやふやだからさ」

 不安がっている物信の様子を見て正明はどうにか励まそうと考え陽気な声で、それでいてどこか人を落ち着かせる声で物信にと近づいて言った。

「だったら、お前がそいつと恋人同士になれるように俺は応援する。それしか俺にはできないからさ、それで相手は誰なんだよ?」

 正明の質問に物信は少し恥ずかしながら言うのを戸惑いながら言葉にした。

「奏莓、ほらあの時夜に来てオヤジのカレーを食べていったさ」

「あぁ、あいつか。なかなか手強そうに見えたぞ、なんて言うかクールで口数少なさそうだしさ」

 正明の言ったそれはある程度合っておりそのことが可笑しいのか物信はつい笑い声をあげてしまった。それにつられるように正明も笑い声をあげて「どうしたんだよ」と言って物信を肘で突いた。それに対して物信は「別に」と言って時計を眺めた。すると時計を見ると針がさっきよりも進んでいることが分かり再び物信は慌ただしさを取り戻して玄関を目掛けて駆けだし正明に「それじゃあ行ってくる」と言葉だけを残して行った。

 物信は駆け足で駅の方に向かって走って行くと、駅前の方には既に奏莓の姿が見えた。物信は奏莓にと手を振りながら近づいて行った。

「すまん、遅れちまった。待ったよな?」

「えぇ、十五分くらい。だけど待ち合わせは九時だから私がむしろ早く来てしまったみたい」

 奏莓は気を使うようなことはせずいつも通り正直に物信に言った。その様子に物信はいつも通りの奏莓だと思ってクスッと笑みをこぼした。その様子に奏莓は「どうしたの?」と言い物信の様子を伺った。

「いや、なんでもないさ。なんか、いつも通りだなーって。それと、そっちの方もいつも通りだな」

 物信は奏莓の服装を見て苦笑いを浮かべて言った。なぜならば、奏莓の服装が普段学校で着ている制服姿であったのだ。その姿もまさにいつも通りの奏莓であり、なんだかそれが物信には面白くて苦笑いを浮かべたのだ。

「それで、デートって言っても何かプランとかあるか?」

 その問いに奏莓は顔を横に振って「ない」と言った。それもそうだろう、なにせ昨日のキャロルの提案によってデートをすることを決めたのだ。デートを誘っておいてプランを考えていなかった奏莓自身も悪くは思っているがこう言うのは慣れていないもので、むしろ奏莓は物信の意見が聞きたかった。

「そうか、だったらまずは服屋にでも行くか。お前の服を買ってからその後のことは考えよう」

 物信のその返答に奏莓は不思議そうに自分の服装を見て「この服じゃダメ?」と首を傾げて物信を見て言った。その質問に「多分ダメだろ」と曖昧な返答を物信は返した。

「分かった、じゃあまず始めは服屋に行きましょう」

 そう言い奏莓は物信にと手を差し伸べてきた。その意味がいまいちと分からない物信は「どう言う事?」と不思議そうにして奏莓の顔を伺って見た。それに対して奏莓は何の不思議も無いように物信を見つめて言った。

「デートはお互いに手を繋ぐらしい、だから。違う?」

 奏莓の意見は確かに理にかなっているのだろう。物信の知識でもデートではお互いに手を結ぶと言う行為は理解できなくも無かった。しかしそれは恋人同士ならばのことだ。奏莓との関係は確かなもので友達、それ以上の関係となるとあやふやなため物信は頭をかきながら奏莓を見て言った。

「なあ、奏莓。俺とお前は友達なんだよな?ほら、なんだ男と女で手を繋ぐのはなんて言うか恋人同士だろ。そう考えると俺たちはどうなのかなーって」

「物信が嫌なら別にしないけど、それより行きましょう」

 上手く物信の言うことが伝わらなかったのか、奏莓には物信が手を繋ぐ行為が嫌だと捉えたのかそう言い先にと先行して行ってしまった。物信は慌てて奏莓を追って横を歩くようにして言った。

「いやな、そういうわけじゃなくてな。ただ俺たちの関係ってどんなんなのかなーって」

 するとその言葉に反応するかのように、引っかかるようにして奏莓は物信にと振り返り顔を見つめた。その時の奏莓の顔が物信には真剣そうに見えたためか物信は固唾を飲み込んで「なんだ」と応答した。

「いえ、物信はそこまで人との関係を明確にしたいのかなって。それとも、物信はなにか怖がってるの?」

 突然の奏莓のその問いに物信は「え?」との声を漏らした。関係を明確にしたいと言われれば少しはそうだと言えるがそれは何故だろう。そして怖がっていると言われると何に怖がっているのだろう。その質問に物信は答えが分からず放心していると突如と奏莓が自分の腕を掴んで引っ張られ、それにつられるように物信は奏莓にと連れられて足を動かしていた。

「悩んでいても仕方ないから行きましょう。それに・・・これはデートなんだから」

 その言葉に物信はこれがデートなのだと再び思い出した。そう思うと確かに奏莓の言う通り悩んでいても仕方ない、今はただ楽しもうと思い物信は笑いの混じった声で、その笑いが作り笑いであったとしても物信は奏莓の横を歩き今度こそは手を繋いで服屋を目指して歩いて行った。

 物信がやっとデートなのだと思い出して奏莓の手を繋いでくれたことに奏莓はやっといつもの物信になった事にクスッと小さな笑みで物信の手を確かにと掴んだ。

 そうして奏莓と物信は小洒落た服屋にと入りお店に並ぶ、鎮座する服を見てお互いは「おぉ」と歓喜に似た驚いた声を口にした。奏莓も物信も普段から服屋に行くことは無く、むしろ普段から安物で済ましているためこのようなお店にはあまり入ったことは無いのだ。お互いに少し困惑しながらも物信は少しでもこの環境に慣れようと頑張って奏莓にと声を掛けた。

「な、なあ。奏莓は何か気になる服は無いのか?少しはおしゃれしても良いんじゃないか?」

「そうね、私も良く分からないから物信にお願いしてもいいかしら?」

 その言葉にあまりにも責任重大だと思った物信は心を決めて「分かった」と力んだ声で奏莓に似合いそうな服を探した。しかし、似合いそうと言っても何が似合いそうなのか分からず頭を悩ませた。そこで物信は奏莓には申し訳ないが自分の直観力を頼って選んでみることとした。そうして探していると物信の直感がこれだと言う物が見つかった。それは白く、青いリボンのサマードレスであった。物信はそれを持って奏莓にと見せて「これはどうかな」と聞いた。それを物信から奏莓は受け取り、まじまじと見ると「分かった」と言いそれを持って試着室にと向かった。

 試着をしている奏莓を物信は期待と、不安で待っていた。しかし、はっきりと言うと不安しかなかった。なぜならば物信は女子の服を選んだことも無ければ誰か他人の服を選んだことが無いからだ。それでも今は信じるしかなかった、自分の直感力を。

 そしてまた奏莓も不安であった。物信が選んだこの服が自分に似合うかどうか。なぜならば、奏莓自身の率直な意見なのだがこの服は可愛い、その可愛いが自分に合うかどうかが不安だったのだ。今まで着ていた服はどちらかと言うと地味であまり目立たない物であった。しかしこの服は違ったのだ。それでも奏莓は物信の選んだこのチョイスを信じて着てみることにした。そうして奏莓はその服を着て、勇気を出して試着室のカーテンを開けて物信にと見せるように試着室から出て「どう?」と聞いて物信の前にと現れて言った。

「うん、良いんじゃないか?俺的には似合っていると思うぞ」

 物信はあまりにも奏莓のサマードレスの姿が似合っており大きな声で歓喜の声を出した。それが恥ずかしかったのか奏莓は顔を少し赤らめて「大きな声出しすぎ」と物信にと注意をした。それに対しての物信の応答は平謝りで「すまんすまん」と言って笑みを浮かべて言った。すると店員がこちらにとやって来て声を上げて言った。

「お似合いですね、試着したままでもお買い上げできますがどうしましょうか?」

 その言葉に奏莓が答える代わりに物信が代わりに「それじゃあお願いします」と言ってしまった。その対応に奏莓は少し怒っているようなそぶりで物信を見て言った。

「ちょっと勝手に進めないで。まだ買うと決まった訳じゃ・・・」

「でも似合うのはそうだぞ。それとも何か気になる服でもあったのか?」

 その言葉に奏莓は返す言葉が無かった。なぜならば奏莓自身が気になる服が無かったからだ。正確に言うのであれば自分では探していなかったのだ。物信に任せていたため大丈夫だと思い自分ではそこまで考えていなかったのだ。それに、彼が言うのであるから奏莓は大丈夫だと思ったのだ。それでも少し恥ずかしさがあった。

「まあ、嫌なら別の物を探すが、どうした?」

 奏莓は物信の裾を引っ張って赤い顔を隠すため顔を俯かせて「これでいい」と小さな声で言った。その様子がいつもの奏莓からは感じ難く、物信は少し困惑しながらも「お、おう」と言い了承した。

 そうして奏莓は物信の選んだ服を買うため会計を済ますため会計に行き、さっきまで着ていた制服は店員にお願いして袋にと仕舞ってもらった。

「さて、奏莓。ここは俺が支払うから大丈夫だ、お金、必要なんだろ?」

「でも、これは私のだから、それに・・・」

 物信は奏莓にと変な気を使わせないようにと元気な声でグッドポーズを作って言った。

「大丈夫だよ、それにお前には色々とお世話になってるし。それに」

 そう言う物信に奏莓はオウム返しするように「それに?」と聞いた。なぜ物信がここまでしてくれるのかが気になる奏莓は物信の心情を探るようにして言った。

「俺はさ、お前に命を救ってもらっただろ?それに、苦しみの先には幸せがあるとはよく言うもんだ」

 その言葉がどう言う意味なのか奏莓には分からずどう言う意味なのかを考えていると物信が会計を済ましてしまっていた。それに口を出すように「ちょっと」と言うも物信は呆けた顔で「どした?」と言った。払った物は払った物で仕方ないと奏莓は堪忍して「なんでもない」と言い店を後にして次は何処に行こうかとお互いに悩みながら行った。

 すると物信は何かを思い出したかのように「あ」と大きな声を上げて言った。その様子に驚いて奏莓は「どうしたの?」と物信の顔を伺い見て言った。

「あぁー、いやな、ただ今日が銃の雑誌の発売日だと思い出してな。ほらお前も読んでいるあれだよ」

「なるほどね、じゃあ行きましょうか。私は私で見たい物もあるし」

「そっか、だったら丁度いいな。遠くでもないしいいかもな」

 そう言いお互いは次に行く場所を本屋にと決めて本屋を目指して歩いて行った。物信の言う通りそれほど本屋には遠くも無く時間はそれほどかからず、ほどなくして本屋にと辿り着き中にと入って行った。

「じゃあ、俺は買いたい物を買って済ませるからその間に奏莓も見たい物見てくれ。時間が掛かるかもしれないからその時は先に見せの前で待っててくれ」

 その言葉に奏莓は承諾するかのように「分かった」と言いお互いはお互いの目的を果たすためにそれぞれの場所に向かって歩いて行った。奏莓は文房具のある所に、物信は雑誌の置いてあるコーナーにと。

 物信は目的の銃の雑誌を取ろうと手を差し伸べると、そこには見知った顔、とは言ってもつい最近見知ったのだがジュンが物信の目的である物と同じ銃の雑誌を立ち読んでいたのだ。物信はつい「よっ」と言ってジュンにと話しかけてしまった。そしてジュンも物信にと気が付いたのか雑誌を置いて物信の方を向いて言った。

「やあ、物信君か。こんな所で会うとは奇遇だね、あれから僕も銃について知りたくなってね」

「そうなのか?だったら今度俺が色々と教えてやるよ、今はちょっと忙しくてさ」

 そう言い物信は目的である雑誌を手に取って笑いながら言った。その様子にジュンは気にかかるようにして物信に「何かあるのかい?」と不思議そうにして言った。

「まあ、なんだ、デートだよ。俺でも信じられないがな」

「そうか、上手くいくと良いね。デート経験はないけど女の子をリードしてあげるのが男だからね、頑張ってね」

 ジュンの応援に物信は元気よく「おう」と言い答えて見せた。

 今思うと物信の今の生活はこれ以上にないくらい充実していた。しかもそれ以上に無いほど上手くいっており怖いほどであった。新しくできたジュンと言う友達に物信は深く実感した、友達の素晴らしさに。そして奏莓に会えて変わったこの日常に感謝をしなくてはと。その嬉しさに物信は誰に語るでもなく言葉にしていた。

「こうやって、確かな友人がいるって嬉しいな。誰かに利用されてばかりだと思ってたけどさ、昔教えてもらったように苦しみの先には幸せがあるってことみたいで」

 物信の独り言にジュンは何かが引っ掛かるように「物信君、君は」と何かを言おうとしたところで物信は逆に奏莓を待たせているのではないのかと思って急いでジュンにと「わりぃ、また今度な」と言い会計の方にと歩いて行ってしまった。

 ジュンは物信の言ったあの言葉が妙に頭に引っかかり物信のことが気になった。しかしそれを聞く前に物信は行ってしまった。彼も急いでいたようなため無理に呼び止めるのも悪いと思いジュンは静かに物信の背を静かにと見送った。

 会計を済ました物信は早歩きで店を出て奏莓の姿を探した。しかし奏莓の姿は見当たらず、自分の方が早かったのだろうと思っていた矢先に店から奏莓が出てきた。物信は奏莓のもとにと駆け寄り「どうだった?」と聞いた。するとその返答に言葉の代わりに奏莓はリボンに巻かれた小さな紙袋を物信にと渡した。それを受け取り物信は不思議そうに見て「なんだ?」と紙袋と奏莓を右往左往するようにして見て言った。

「メモ帳とペン。さっきのお返し、とは言ってもあまり良いものでもないけど」

「そんなことないって、お前からのプレゼントだ。良い物に決まってるさ、ありがとな」

 物信は奏莓からのプレゼントがとても嬉しくそのままの率直な感想を奏莓にと伝えた。その感想に奏莓もまたとても嬉しくいつもはクールな表情なのだがこの時は不思議と、自分でも分からないくらい自然と笑みが浮かんだ。その時の顔と言い表情が物信の選んだサマードレスと相まって想像以上の可愛さと可憐さを引き立たせ物信は驚いたようにして言った。

「お前って、そう言う顔もできるんだな。いつもクールで凛としてるからビックリしたぜ」

 その言葉に奏莓は自分がどんな顔をしているのかを身をもって知り、突如と恥ずかしくなりそっぽを向き歩き出した。それを追うようにして物信も歩き始めて「どうしたんだよ」と言い奏莓のもとにと駆け寄って行った。

「別に、それよりも少し喉が渇かない?」

「ん?まあ、そうだな。早いが飯にでもするか、軽く済ます程度にさ」

 その提案に奏莓も賛成するように頷いて「そうしよう」と言った。そうして物信と奏莓が選んだのは言わずとも知れた有名な全国チェーン店のカフェ店であった。

 物信と奏莓は共にアイスコーヒーを頼み、昼食としてサンドイッチセットを頼んだ。そうして頼んだ物が届きそれらを飲むなり食べるなりしてしばらくして物信は始めに奏莓にと言われたことを思い出し、手を止めて言った。

「そう言えばさ、奏莓。あの時怖がっているって言ったよね、多分何に怖がっているのかが分かった気がするよ」

 その言葉に奏莓も手を止めて物信を見つめて「うん」と言って物信の次の言葉を待った。物信自身も己が何に怖がっていたのかが分からなかったが本屋で自分の日常が満たされていることに気付き物信は自分が何に怖がっていたのかが分かった。

「多分だけどさ、俺はまた誰かに裏切られるんじゃないかと思ってさ。そしたらなんか怖くてさ、多分それで明確にしたかったんだと思う。悪いな、変な心配かけちゃって。だけど、もう大丈夫だからさ」

「そう、だといいけど――物信、私は最後まであなたを裏切らないから。だって私とあなたは・・・」

 それ以上のことを言おうとした時だった、物信が奏莓の代わりに「仲間、だろ?」と言い答えた。その返答に奏莓は満足のいく、思って板通りの言葉に笑みを返した。物信はそれが何故だかおかしく奏莓同様に笑みを浮かべて笑い上げた。

 しばらくして食べるものも食べ、飲む物も飲んだ物信たちは、次は何処に行こうかと考えていると奏莓は何かを思い出したかのようにして言った。

「物信、一緒に来て欲しいところがあるんだけど。いい?」

 その問いに物信は「もちろんだ」と言い何に自信を持つのでもなく自信気にそう答えた。そうして会計を済ました物信と奏莓は、奏莓の生きたい場所に向かい足を動かした。

 バスにと乗り、奏莓と共に歩き辿り着いたのは病院であった。物信はその病院を見て、もしかしてと思って「ここは」と奏莓を見て呟いた。すると奏莓は「行くよ」と言い病院の中にと入って行った。そうして奏莓は病院の受付で何らかのやり取りをして「付いて来て」と言い物信は奏莓の後を追い見知らぬ病院を歩いて行った。

 奏莓の後を歩き、しばらくすると一つの病室の前にと辿り着いた。物信は壁にあるプレートを見るとそこには「|呱々葉《ここは》|功成《こうせい》」とかかれており、物信はやはりと思った。

「ここに誰かと一緒に来るのは家族を含めてあなたが初めてよ・・・」

 そう言い奏莓は何かを言おうとした時、物信は顔を振って言った。

「気持ちは嬉しいけどこの先は、奏莓一人がいいよ。俺は邪魔しちゃ悪いしさ、それに、会うにしも一段落してから会いたいしさ」

 物信は不思議と邪魔しては悪いと思いそう言った。自分が邪魔しては悪いと言う訳ではないが、今奏莓が家族と言える唯一の父との時間を邪魔してはならぬと思い物信はそう言った。奏莓は静かに「分かった」と言い病室の扉を引いて病室にと入って行った。

 しばらくして物信は長椅子に座り廊下で待っていると白衣を着た男性が物信の隣にと座り物信にと話しかけてきた。

「君は、奏莓さんのお友達かな?僕は功成さんを担当している医者の|濱部《はまべ》と言うんだ」

「そうですか、俺は物信と言います。まあ、友達と言われればそうですね」

 すると濱部と言う男は手を組み安堵の声のよううな声で「そうか」と呟いて物信を横目で見て言った。

「今まで彼女は、医者の僕の目からは余裕が無いように見えてね。友達を作ることすら、ましてや学校生活を楽しんでいるような余裕すらも感じ取れなくてね」

 そう、濱部の言うことに物信は「はい」と返答するだけであった。それでも物信は心の中で、ああ、そうだったのかと合点がいった。奏莓がなぜ一人で苦しそうだったのかが分かった。彼女は一人で全てを背負い、誰にも相談できずに悩みや苦悩を抱えていたのだろう。だから奏莓のことが一人で苦しそうに見えたのだろう、だから自分は彼女を救ってあげたいのだと思ったのだろう。

「はい、そうですね。だけど、もうそんな思いはさせません。奏莓ちゃんが苦しむようであればその時は俺が彼女を支えますから、とは言ってもいつも彼女に支えられっぱなしなんですけどね」

 物信は頭をかきながら少し恥ずかしそうにして言った。その言葉に濱部は小さな笑みを浮かべて「そうか」と言い、安心したとも言うかのようにして言った。それに返すように物信は「そうです」と言った。

「それなら安心したよ、物信君、これからも奏莓さんを、彼女をよろしく頼むよ。君となら彼女も心を打ち解けられそうだからね」

 その言葉に合わせるように病室の扉がガラガラと音を立て病室から奏莓が出てきた。物信は椅子から立ち上がり奏莓にと近寄り「どうだった」と聞くが奏莓は首を横に振った。それに対して物信は「そうか」と言うしかなかった。それ以外の言葉を言う資格は物信にはないと思ったからだ。すると濱部は物信たちの下にと近寄り言った。

「安心して下さい、功成さんの容態は完全では無いが回復しきっています。あとは目覚めるだけです。そうすれば完全に回復したと言えます。それじゃあ僕はまだ仕事があるので」

 そう言い濱部は手を上げて軽く会釈をして行ってしまった。その背中姿を奏莓と物信はお辞儀をして見送った。

 そうして物信と奏莓はデートと言うものを楽しみ、帰り道にと就こうとしていた。その帰り道で物信は勇気を振り絞り、奏莓を呼び、足を止めさせてこちらを振り任せて言った。かなりの勇気が必要であったがこの時の物信は恥と言う恥を全て捨てて奏莓を見つめて言った。

「なあ、奏莓。お前がシルバーバレットを集めて、やることをやってからでいい。俺と、俺と、今度は恋人として付き合ってくれないか?」