Chapter 9 - 1カートリッジ
静かな夜、一人で物事を考えるも静寂に浸かるにも最適な時間。大きな平屋の一室で黒鵜は考え事に浸かりながら虚空を眺めていた。
黒鵜は悩んでいた、果たしてこの男を信用していいのかどうか。
パーシェと言うこの男は突如として黒鵜の前にと現れた。そしてこの男は自分の部下五人と自分を負かした。明らかに戦力の差はこちらが有利だと言うのにパーシェは難無く、鼻歌を歌いながら自分らを負かした。そこまではいい、負かせた上でこの男は自分を手助けすると言ったのだ。
その時自分は頭が真っ白になった、負けたのに彼は自分に手助けすると言うのだ。本来であれば逆のはずなのに彼は確かにそう言った。
今でも彼は椅子に座っている私の隣にと立ち陽気な声で言った。
「そんなに俺のことが気に食わないか、黒鵜さんよ」
「当たり前だ、私を負かせておきながらお前は手助けをすると言った、ましてや敵の情報まで教えてな。これを怪しまずしてなんだって言う」
黒鵜はパーシェを横目で睨みながら細心の注意をしながら腕を組みながら言った。黒鵜にとってはいつパーシェが裏切ってもおかしくなかった。だからこのような些細な会話でも黒鵜は細心の注意を怠らなかった。それでも相変わらずパーシェは黒鵜の細心の注意など気にしておらぬかのように陽気な声で語りかえた。
「別にいいじゃないか、俺はただ単にお前を手助けしたい?手助けに理由が必要か?」
「私の部下五人を殺したお前が言うセリフではないな」
事実であった、パーシェは黒鵜を負かしたと同時に共に戦った黒鵜の部下五人を殺した。部下は全員黒鵜のことを想い、共に志を目指しているからこそ今まで、これからも付いてきてくれる。その部下を手に掛けたパーシェを黒鵜は当然良く思っていない。いや、心の底から吐き気を催すほど最悪だ。
そのことを触れてもなおパーシェは陽気な顔で会話をしている。それが酷く気に入らず黒鵜は怒りの目でパーシェを睨みつけた。しかし相変わらずパーシェの陽気さは変わらず代わりに無理に怖がった素振りをして部屋の出入り口の扉にと足を歩かせて言った。
「それと、相変わらず自分の息子の名を呼んでいないのかい?」
「ん?キャンサーの事か。仕方のないことだ、情報の漏洩は避けたい。そのためには仮初の名を与え呼ばなきゃいけないからな」
「そうかいそうかい、だけど、ちゃんと名前で呼んでやんないといつか忘れちまうぜ」
パーシェはそう言うと後ろで椅子に座っている黒鵜に手を振りその部屋を後にして廊下にと出た。すると廊下の奥から一人の少年が黒鵜のいる部屋にと近付きながらパーシェにと問いかけてきた。
「父さんの所で何をしてた、パーシェ?」
「なーに、ただのお話だ。それより、面白い話があるんだがどうする?」
パーシェは壁にともたれかかってキャンサーを横目で見て言った。キャンサーもパーシェのことはあまり良く思えていないため少しためらいながら、注意しながらパーシェの様子を伺いながら一呼吸置いて「なんだ」と鋭い声で言った。するとパーシェは何処からともなく一つの箱と一丁の銃をキャンサーにと投げ渡した。キャンサーはその銃と箱を不思議そうに見ながら「これは」と呟いた。
「オートマグだ。弾丸はその箱に入っている弾丸を使え、絶対だぞ?じゃないと高確率でジャムる。なにせオートジャムとまで言われる代物だからな」
「そんな物を渡して戦えと?そんな危険な橋渡りを僕がすると?」
キャンサーは声量を抑えながらも憤怒の声でパーシェに鋭い眼光で睨みつけながら言った。するとパーシェは両手で手を振るいながらキャンサーにと近づいて言った。
「とんでもない、それにオートジャムって言うのは昔のだ。ステンレス加工が未熟な昔であればオートジャムだ。だが、今現代の加工技術で作ったそれは間違いなくオートマグだ。それに、その弾丸もそれ用に仕上げた特注品だ。せいぜい上手く使ってやってくれよ」
そう言うとパーシェはキャンサーの横を通り部屋の扉からパーシェは離れるように歩き出した。キャンサーはパーシェの足を止めるべくするために声を掛けた。彼にはまだ聞かねばならないことがあった。そのためキャンサーはこのままパーシェを返すわけにはいかなかった。
「待て、行く前に聞かせろ。なんでお前はここまでする?僕たちを殺すことが容易いお前がなぜ僕たちの手助けをする」
キャンサーの疑問は父、黒鵜と同じ疑問であった。その答えを聞いてどうするかはキャンサーの一存では決めれないが聞く権利と義務があった。そのため、答えが聞けなくともキャンサーは聞かねばならなかった。するとパーシェは呆れかえったかのような態度でキャンサーを見返して言った。
「またその話か?・・・まあいいだろう、お前にだけ教えてやろう。罪滅ぼしだ、誰のとは言わないがそのためにお前らに手を貸している」
「驚いたな、鼻歌を歌いながら父さんを負かしたあんたがそんなこと言うなんて。いったい誰のだ?」
「そんなこと言うなよ、それに言ったろ、誰のとは言わないって。だが、いつかは教えてやる、それまで生きていればの話だが」
そう言うとパーシェはキャンサーの肩を叩きその流れで行ってしまった。結局パーシェの具体的な心境を探ることはできなかったが全くの収穫が無かったわけではない。そう、パーシェは罪滅ぼしのために自分たちに手助けをすると言った。具体的ではないがはっきりとそう言ったのだ。キャンサーはその収穫を持って黒鵜のいる部屋を訪ねた。
「失礼します、父さん。さっきパーシェに会いました、そしてなぜ彼が手助けをするのかを具体的ではありませんが掴みました」
「畏まらなくていい、それよりあいつはなんて言っていたのだ?」
その言葉を聞いてキャンサーは近くにあった椅子にと座り黒鵜に向かって姿勢を正し、軽く、気を抜いた声で言った。
「罪滅ぼしのため、だと。あの人からは程遠い言葉だけど確かにそう言った、誰のかとは言わなかったけど」
「そうか、罪滅ぼしか。確かにあいつには程遠い言葉だな・・・・・罪滅ぼし」
黒鵜はそう言うと顔を俯かせて考えを巡らせた。キャンサーの言う通りパーシェが罪滅ぼしのために手を貸すとなると慎重に動かねばならぬからだ。そしてそれが誰の為なのかが分からなければ尚更であった。なにせ自分は世間でいう暴動団体の主犯格なのだ、仲間以外でも人を死、もしくは不幸に招いている。そう言った点で罪滅ぼしと言うのは自分にとっても恐ろしいものでもある。
キャンサーにとって黒鵜は自分の父だ。それが例え偽りであってもそれは変わりなかった。だから自分はどんな時でも黒鵜の隣でいた、いや隣でなければならなかった。そうでないと自分の生き場所が示せないからだ、キャンサーの生き場所は常に黒鵜の隣であったからだ。例え黒鵜が世間から敵と見なされても自分は黒鵜の隣しか生き場所は無いだろう。
「父さん、僕が、僕が代わりに戦おうか?今回の敵って言っていた奏莓とか言う女は僕と同じ高校生なんでしょ?だったら僕が・・・」
「それは最悪の手段だ。それに、あの女は明らかに私たちとは違う次元だ。言うなれば生まれながら殺す者としての素質を持った女だ、軽んじるな」
その言葉はキャンサーにとって嬉しくも悔しい言葉であった。黒鵜は自分のことを想って言ってくれている、しかしそれと同時に自分がいかに黒鵜に戦力としてしっかりと見られていない悔しさもあった。その悔しさを噛み喰いキャンサーは「分かった」と言い下がった。それを聞いて黒鵜は一安心したのか安堵のため息を漏らして座っているキャンサーの前にと行き、目線を合わせるようにしゃがんみ両手をキャンサーの肩にと置いて言った。
「いいか、お前は私にとって大事なんだ。例え私が死んでも、何があってもお前だけは生きろ。そして、その時は私の代わりとして皆を導いてくれ。お前を一人の、私の息子としてお前にお願いしたい」
そう言い黒鵜はキャンサーを両手で包むように抱きしめて言った。そのぬくもりが何よりもキャンサーは嬉しく、ぬくもりに浸かるように目を閉じて心を落ち着かせ、安らぎを掴むように手を握り確かな生き場所を感じて言った。
「はい、父さん――ですが、僕も父さんの役に立ちたいです。あなたの子として親孝行をしたいんです」
「・・・それがお前のやりたいことなのか?」
黒鵜は抱きしめていた手をほどき、キャンサーの顔を見つめ手を伸ばしてキャンサーの髪を撫でながら言った。
心を決めたキャンサーはキリッとした顔で黒鵜を見つめた。その眼は尊敬する父に向ける眼差しに満ちていた。その眼差しを裏切ることはキャンサーの父である黒鵜には許し難く、そしてつらい選択であった。それでも黒鵜はキャンサーのことを自分の息子として信じてやることにした。
「いいだろう、お前は私の隣として若大将をしてもらおう。明日は早いからもう寝ろ」
その言葉があまりにも嬉しくキャンサーはつい笑顔で「はい」と言ってしまい、そのことが恥ずかしくなったのかキャンサーは立ち上がり「失礼します」と言い立ち上がって部屋から出ようとしたところだった。キャンサーが扉のドアノブをひねろうとした時だった、黒鵜がキャンサーを呼び止めて言った。
「これを持っていろ、私のシルバーバレットだ。私は既にそれを合わせて三個持っている、お守りだとでも思ってくれ」
そう言い黒鵜はポケットから自分のシルバーバレットを取り出してキャンサーにと投げ渡した。それを確かにとキャンサーは受け取り確かめて「ありがとう、父さん」と言いキャンサーは自分のポケットにと仕舞った。