Angel Bullet

Chapter 8 - 七発目

Follow

 物信と奏莓はキャロルの後を付いて行きたどり着いたのは、工事現場からそれほど遠く離れていないファミレスであった。平日なためかファミレス内はそこまで人はおらず数える程度であった。キャロルは窓際の席を選び座り、キャロルに対峙するように奏莓は座りその隣に物信が座った。

 キャロルは席に座ると手を上げて店員を呼びコーヒーを頼むと、手を振りキッチンの方にと行く店員を見送った。そのやり取りに物信は彼女のことを能天気でどこか正明に似た何かを感じた。するとキャロルは物信をにやりと見つめて期待の目で言った。

「物信と言ったわよね、何人殺ったのかしら」

「師匠、いくら何でも不謹慎よ。それに、物信がエンジェルバレットに参加してまだ日は浅いわ」

「奏莓は黙っていなさい。今回の殺しが初めてじゃないでしょ?」

 キャロルの言葉は声とは裏腹に真剣な質問であった。そのためか、奏莓のことをストロベリー、とは言わず奏莓と呼んだのだ。それだけのことで物信はすぐに彼女が本気で自分に質問しているのだと分かった。物信は固唾を飲んでゆっくりと口を開いて言葉にした。

「今日合わせて二人です、一人目は学校の教師でした。そして、今日の人は明らかにエンジェルバレットの参加者ではないと思います」

 その言葉に奏莓は驚かされ物信の顔を見た。物信は確かにエンジェルバレットの参加者ではないと言った。思われるではあるが彼は確かにそう言ったのだ。奏莓は右往左往するようにして物信とキャロルの顔を見た。するとキャロルは大きなため息をして言った。

「やっぱりね、相手が使ってた銃がリボルバーじゃなくてオートマチックだったからね――って、危うく話を脱線させられるとこだった。感想は、人を殺して、教師を殺してみての感想は?」

 あまりの質問に奏莓は身を乗り出しそうとしたが物信が手を奏莓の前にと出して止めた。奏莓は乗り出しかけていた身を戻してキャロルを見た。

「はっきり言ってしまえば、こんなもんなのだなって感じですね。不思議と罪悪感はありません、それに・・・」

「それに?なんだい、私は責めないしきっとストロベリーも何も言わないわよ、ね?」

 キャロルは奏莓にウインクをすると奏莓は顔を横に向けて窓を鏡にするようにして自分の顔を見た。

「生きてるって感じがしました、ただ生きてるんじゃなくて今を必死に、好奇心を満たしながら、求めながら生きてるって。でも、それは二割で八割は違いました」

「ほほう、面白いことを言うね?残りの八割は一体どんな感じだったのかな?」

「それは、誰かの役に立ててるってことかな。そもそもエンジェルバレットに参加した理由は二つあるんですよ」

 その言葉に奏莓はぴくりと反応した。その言葉は今日物信から聞かせて貰ったことなのだろう、そう思うとまた心が嬉しさを感じた。

「一つは自分の好奇心、銃を使いたいと言う。そして、奏莓を救ってやりたかったからです。思い上がりでも偽善者でもいい、一人で苦しそうな奏莓を救ってやりたいって思ったんです。だから、エンジェルバレットで奏莓の役に立てないかと思い参加することを決めました」

 それを聞いて奏莓は「物信」と彼の名を呟いた。その様子を見てキャロルはファミレスであることを忘れたかのように大笑いをして言った。

「面白いわねあなた、それにストロベリーが一人で苦しそうか。いい男見つけたじゃないか、ストロベリー」

「別に、そんなんじゃない。ただ一緒に戦う・・・友達だから、趣味の合う」

 その言葉に物信は歓喜な声を上げそうになった。奏莓は確かに友達と言った、その言葉が物信は何故だかとても嬉しくて思わず飛び上がりそうになった。それでもそのテンションを抑えて落ち着いた素振りを取った。そしてその様子を見てキャロルはチャチャを付けるようにして少し色っぽくキャロルは言った。

「ダチか、だったら私が彼を貰っちゃおうかしら。物信君って銃とか詳しいでしょ?」

 奏莓は嫌悪の眼差しで彼女を見るが物信は至って平常で落ち着いた声で言った。

「貰うとか、そもそもなんで銃について詳しいって思ったんですか」

「真面目ね、物信君。まあ、銃が詳しそうに見えたのはダーティハリーを知ってるのと、私が撃った弾の数を数えれたことかしら。私の使っている弾は何かしら?いい機会だからストロベリーも聞いてなさい」

 その言葉に奏莓は固唾を飲んで物信の言葉を待った。とは言っても物信が奏莓とキャロルの戦いの中でキャロルの撃った弾の数え方はとてもシンプルなものであった。しかもそれは陽平と戦った時と同じで音の違いだ。

 物信が敵と戦闘を終えたと同時に聞こえてきた発砲音は明らかに奏莓がいつも使うルガーGP100の357マグナムとは違う大きな発砲音がした。その後に聞き慣れた357マグナムの発砲音がしたため撃ち合いが始まっているのだと分かった。

「そうですね、リボルバーですから44マグナム辺りが妥当かと・・・もしかして、キャロルさんの使ってる銃ってダーティハリーと関係してます?」

 物信は期待と不安の声で言うが、銃のことをあまり理解してない奏莓にはただの弾の違いだけで何を言っているのかが分からない。そもそも銃のことを知っていてもダーティハリーと言う映画を知ってなければそれを意味することが分からないだろう。

 キャロルは指を鳴らして物信にと指を指し何かを言おうとした時だった、キャロルが注文していたコーヒーを店員が持ってきたのだ。キャロルは一旦話を止めて店員からコーヒーを貰いさっきのように手を振り店員を見送った。店員が完全に離れたことを確認すると再び話を再開させた。

「ザッツライト、君が何やら期待しているようだからここは言葉を借りて言おう。この銃は、世界一強力な44マグナムだ。と言うわけで私の使う銃がS&WのM29、もちろん銃身は6.5インチにしてあるからね」

 キャロルは店の中であることを忘れているかのように銃を出して指で回して見せた。その銃に物信は見せられ目を輝かせて見た。奏莓は何がなんなのかが分からなく、呆けた声で「はぁ」と言葉を漏らした。しかし直ぐに奏莓はキャロルに問わねばならないことを思い出した。あの時言っていたエンジェルバレットの参加者ではないとのことだ、キャロルはやっぱりと言ったのだから何かあるのだろう。

「ねえ、師匠。エンジェルバレットの参加者ではない者ってどう言うこと。それに、リボルバーじゃなくてオートマチックって・・・」

「あぁ、それね。エンジェルバレットの参加者が使う銃はリボルバー、そのことは知ってるわよね。でも今日相手にした敵はリボルバーでは無くオートマチックを使ってた」

 コクリと奏莓は頷かせて返した。そんな事はエンジェルバレットの参加時に渡される手紙の所に書かれていた。それに奏莓でもリボルバーとオートマチックくらいの違いは分かる。リボルバー、これはいわゆる回転式銃のことであり弾丸の装填数は少なく最大でも六発くらい連射できるとは言え長期戦となると難しい。そしてオートマチックは自動拳銃と言われる銃で総弾数も少なくとも七発で十発や十五発などリボルバーと違って総弾数も違う。その点で現代の軍で使われるほとんどの拳銃はオートマチックが多い。

「つまりは誰かからの命で動いているってこと。今回のケースはやっぱり黒鵜とか言う男かしら。さて、銃が詳しい物信君なら分かると思うけど今回敵が使っていた銃はFNハイパワー、さてなんで私がこれだけの情報で黒鵜だって分かったでしょう?」

「・・・元S.A.Sの者が関与しているからですか。FNハイパワーは第二次世界大戦頃のイギリスが使っていた銃。元S.A.Sの者が味方している黒鵜なら簡単に手に入るから?」

 物信はたどたどしくも、言葉を整理しながら言葉にした。FNハイパワーは物信の言う通り第二次世界大戦時にイギリスが使っていた銃であり今現代の銃でも引けを取らないであろう。

「まあ、私もそんなところじゃないかってとこだけどね。それ以外だと・・・確か暴動団体だっけ?そう言う団体なら銃の一つや二つ持っててもおかしくなさそうだけどね」

 そう言われるとおかしくも無い話であり辻褄も合う。相手は暴動団体の主犯格、となれば銃をいくつも持っていたとしてもおかしくはない。それに部下もいるのだからそれなりの数だということも。そのことを考えると物信と奏莓は自分たちが敵としようとしている者がどれだけの規模なのかを再び思い出した。相手は暴動団体の主犯格、暴動団体その者だと言う事を。どう考えても一人では勝てないと物信は思い身を乗り出してキャロルに向かって「キャロルさん」と続きを言おうとした瞬間キャロルが手を物信の顔の前にと出して制した。

「言いたいことは分かる、協力しようでしょ。でもエンジェルバレットは本来一人でやるゲーム、私はあなた達と共に戦えないわ。それに、明日私が殴り込みに行く予定だから黒鵜のシルバーバレットは私が貰うからあなた達は手を出さないで頂戴」

「待って、師匠。いくらあなたでも複数に勝つなんて難しい、多勢に無勢が分からないあなたじゃないと思うけど」

「あら、心配してくれるの?でもそんな気遣いは要らないわよ。それに私たちは敵同士、馴れ合う必要は無い。そうでしょ、奏莓」

 その瞬間キャロルの手にはいつの間にか銃を手にして奏莓にと向けられていた。そしてそれに合わせるように奏莓も銃を抜きキャロルにと向け構えていた。その状況に追いつけくことができてない物信は慌てふためいて二人を見た。お互いの目はただお互いの目を見ているだけでそこに私情の混じった感情は無く、ただ冷たくお互いの顔を捉えていた。そうして先に銃を下したのはキャロルであった。そしてそれに合わせるように奏莓も銃を下した。そしてキャロルはコーヒーを一口飲むとため息まじりの安堵の声で「ふぅ」と漏らして言った。

「まあ、明日は土曜なんだから二人はデートでもしてゆっくりしてなさいよ。あなた達が楽しんでいる間にチーズは私が貰うからね」

 キャロルの言葉に物信は困惑しながらも明日が休日の土曜日だと言う事を思い出した。奏莓は相変わらず表情を変えず落ち着いた素振りを取るように鋭い目つきでキャロルを捉えて言った。

「・・・いいわ、その代わり約束して。黒鵜の相手はあなたに任せるけどシルバーバレットについては私と勝負してから換金して。それまではあなたが持っていて」

 その言葉を聞くとキャロルは目を丸くして暫く放心状態となった。それでもすぐに平然な態度に戻り全てを悟ったように言った。

「なるほどね、いいわよ。それまで黒鵜のシルバーバレットは私が預かっていてシルバーバレットの行方はあなたとの戦いで決める・・・言うようになったわね、昔はただの戦いに彷徨える狂戦士だったけど今は違うってことかしら」

「奏莓は、こいつは狂戦士じゃないですよキャロルさん」

 奏莓に代わって、話に割り込むようにして奏莓を庇うようにして物信が声を上げた。それに対してキャロルは興味深そうに「ほう」と言い物信の次の言葉を待った。物信はそれに応えるようにして再び語りだした。

「奏莓は父を救うためにエンジェルバレットに参加した。そのために必死ならばそれは狂戦士じゃない、少なくとも俺はそう思う。それに、狂戦士は俺とあんたの方じゃないか?」

「へぇ、私が狂戦士ねぇ。あながち間違いじゃなわよ、その解答。だったら、最後に聞くわよ物信、あなたは人の願いを踏みにじることができる?それが大切な人の願いでも」

 難しい質問であった。それでも物信の心は決まっていた、人を二人殺した今更迷うほどでもなかった。だから物信は迷わず、躊躇わず心を決めてキャロルと目を合わせて言った。

「それが、大事な人の為なら俺はどんな願いだって踏みにじれます。二人殺してるんですから、人を」

 キャロルはその言葉が返ってくることを知っていたかのように鼻で笑い、お金をテーブルの上にと押さえつけるように置いて立ち上がって言った。

「その言葉が嘘でないことを願うわよ。とは言っても、ストロベリーがいるから大丈夫だと思うけれど」

 そう言葉を皮肉交じりで、どこか楽しげに言うとキャロルは手を振り風が去るかのようにファミレスを去って行ってしまい物信と奏莓はファミレスにと取り残されてしまった。

 そんな状況に呆気になった物信はその場の空気を変えようと思ったのか奏莓の肩を叩き聞いた。

「なあ、キャロルさんっていつもあんな感じなのか?なんか変わった人だな」

「・・・まあ、変わった人だと言うのは間違いないわ。それより、明日は早いから私は帰るわ」

 折角ファミレスに来たのであるから何か食べて帰ろうと物信は思ったのだがどうやら奏莓はもう帰るらしい。しかしよくよく考えれば時間も時間であった。それでも家で食べるよりは久々にファミレスで食べるのも悪くないと物信は思ったので自分はここで夕飯を済ませてから帰ると奏莓に伝えた。

「うん、それじゃあ明日は朝の九時に駅で」

「?あぁ、明日って何かあったか、忘れてるのかもしれないから教えてくれ」

 奏莓の言う明日の待ち合わせ時間と場所に物信は見覚えが無く申し訳なさそうに奏莓にと聞いた。

「キャロルが言っていた・・・デート。せっかくだから、物信とならいい」

 率直なその言葉に物信は顔を赤くしてそれを隠すようにそっぽを向いて「分かった分かった」と言い家にと帰る奏莓に別れを告げた。

「まったく。・・・こんなでいいのかね、俺となんかで」

 物信は愚痴にも近い事故非難を呟きながらメニューを見ながら「どうするか」自問自答に悩みながらデートと何を頼むかに悩まされながら時間を費やしていった。