Chapter 7 - 六発目
物信と奏莓が繁華街に訪れた翌日、放課後すぐに物信と奏莓は再び繁華街にと足を運ばせていた。しかし、行先は前回のバーとは違い、奏莓は物信を連れてゲームセンターにとやって来たのだ。
なぜゲームセンターにと連れてこられたのかを疑問に思いながら物信は奏莓の後ろを歩きながら一つのゲームの筐体にと連れてこられた。それを見て物信は「これは」と疑問の声を漏らした。
「見ての通りガンシューティングよ。これで銃の練習をしてもらうわ、ある程度の練習にはなる」
「いや、見て分かるが、流石にリアルと比べると劣るんじゃないか?」
「・・・私も初めはそう思った。だけどこのゲームの製作にアメリカのライフル協会?とか言うのが関わっているらしく結構ネットでは銃声とかその他諸々リアルらしいとの口コミよ」
奏莓の言うライフル協会とは全米ライフル協会のことだ。銃を作る者や銃愛好家が主な団体であり、現会員は三百万人以上であるためどれだけの大きな規模なのかが分かる。もちろん物信はそのことは知っており入会もしている。しかし、まさか全米ライフル協会が関わっているガンシューティングが出ていたことには今日が初耳であった。
「まあいい、それで何点くらい取ればいいんだ?その言い方だとやったことあるんだろ」
「そうね、上位ランカーは百万点前後が多いからとりあえず七十万を狙ったら。それに、得点の加算もちょっと複雑だから」
そう言うと奏莓は筐体に百円玉を入れて筐体に付いているリボルバー型の形をしたコントロールを握りゲームをスタートさせた。奏莓のゲームをプレイする姿を物信は見ることとした。
奏莓のプレイは実に軽やかで動き一つ一つに無駄のない動きであった。そのため画面に出てくる敵は画面に出るたびに倒されていった。その鮮やかさに物信は「ほう」と感心の声を漏らした。そして数分間のプレイの末にゲームをクリアーし、画面に出たリザルトには百十万点と表示され店内一位との表示がされた。
奏莓は一息を付いてすました顔で物信を見つめて言った。
「どう?こんな感じにやれば高得点が取れるわ」
「ありがたいほどに参考にならないな、と言うかこの二位と三位もお前が出した得点じゃないのか?」
物信は二位と三位が両方とも一位に近い得点だったことから奏莓の得点ではないのかと思いそう言った。しかし奏莓は首を振って言った。
「いいえ、これは私では無いわ。それと、さっき言っていた得点の加算なのだけど、コンボが関係しているの。一コンボごとに百点加算されていって最終的には六百点が一回の得点で最大だと思う」
「どう言うことだよ・・・まさか、リロードするとコンボが途切れるのかよ?」
奏莓はその通りと言うように頷いて言った。
「うん、コンボの途切れは被弾と弾丸を外すかリロードするかのどちらか。弾薬も拾ってもリロードしなきゃ意味がないから」
「なんか、色々な意味でリアルだな。それに、お前のプレイを見ていたから分かるがリロードもリアルなんだよな、よりによってトップブレイクとは」
トップブレイクとはリボルバーの銃身を折り曲げるような形でリボルバーの薬室、チェンバーを開けるという仕組みだ。トップブレイクは現在ではそこまで普及しておらず、一般的に多く知られているのはチェンバーを横に振りだすスイングアウトと言う物が現在では最も普及している。ゲームでリロードをトップブレイクにさせたのはきっとリロードする仕草をしやすくするためなのだろう。物信はそう信じて奏莓がさっきまで持っていたコントロールを手にして百円玉を筐体にと入れた。
物信の動きは最初こそは安定してはいたものの、敵の数が増えて来るステージの後半になってくるにつれ動きがずさんとなっていき多くの敵にと振り回され最初の安定した動きが無くなってしまった。そして最後に出てくるリザルト画面に出てきた得点は四十二万であった。
「普通に難しくないか?と言うか、最後の敵の数明らかにおかしいだろ」
「そう?そもそも物信は一体の敵に集中した方が良いわ。それに、敵の倒す順番も現れた順番に倒せばいいのよ」
奏莓のアドバイスに物信は「そうか」と頷いてため息を吐いた。見ている分には簡単そうに見えたのだが実際にやってみると奏莓がどれだけ凄いのかが分かった。そして、リアリティがあることも充分に分かった。まず、トリガーの引きの重さが実銃に似せて作られていたのであった。そのため狙いを定めて撃つのにもある程度の慣れが必要であった。
「ねえ、物信。あなたの目的は銃を使った戦いをすることよね?」
何気ない質問だった。奏莓は物信がなぜエンジェルバレットに参加しているのかは知っている。彼曰く自身の好奇心を満たすためだと言ったのだ。それでも奏莓は未だに納得できずにいたのだ。それを確認するためにも奏莓は物信に再確認をした。
「ん?まぁ、そうだな。それがどうかしたか?今更俺の考えにとやかく言うつもりか?」
「いいえ。でも、戦うことが目的ならなんであなたは私に手を貸してくれるの?教えて」
その質問に物信は頭を悩ませるように腕を組んで一呼吸置いて返答を返した。
「前にも言ったが、興味があるからだ。俺は実の親がいない、だがお前はいる。だからこそ俺は知りたい、親を想うお前のことを。――とまあ、それは建前だ。本当は、お前の役に立ちたい、一人で問題を抱え込んでいるお前が苦しそうに見えたからさ。偽善者でも思い上がりでもいいからよ、誰かを信じて誰かの救いの手になってやりたいんだ」
衝撃的な言葉であった、彼は戦いたいと思っている。それでも誰かの救いの手になりたがっている、奏莓は今まで一人で戦ってきた。それは強さあってのことだ。そしてなんでも一人でこなしてきた、誰の手を借りずに。それも強さあってだからだ。それなのに、彼は自分のことを苦しそうと言った。その言葉に奏莓は言葉にできない絶妙な居心地を持つ嬉しさを感じた。
物信の気持ちは心からのことであった。友に裏切られ全てに無関心であった、その無関心であった物信は奏莓にと惹かれた。そして彼女と共に行動していくうちに物信は奏莓を信じることができた。信じることができたから彼女の手助けになれないかを考え始めるようになったのだ。初めは単にエンジェルバレットに参加するためだけに利用しようと考えていたが今は違う。その気持ちに嘘偽りはないと物信は胸を張って言えるつもりであった。
「そう。前までのあなたには考えられない言葉ね。でも、今のあなたの方が誰よりも輝いて見えるわ」
「ありがたい皮肉をどうも。俺からも言わせてもらえば誰かを頼る今のお前の方がよっぽど魅力的だよ」
お互いに苦笑いを浮かべて言うと大笑いをあげた。その笑いになんの意味も無く意味の分からないままお互いは笑った。そして不意にお互いは思った、こんな日がいつまでも続けばいいなと。
「さて、私はちょっとお手洗いに行って来るわ。その間に少しはやって上手くなれば」
「お、いいだろ。お前が行ってる間に上手くなっててやるよ、驚くほどにな」
そう自信満々に奏莓に指を指して言った。奏莓は鼻で笑い「だと良いけど」と言い歩いて行ってしまった。その様子を物信は見て再び筐体に百円玉を入れてプレイをし始めた。
今度は奏莓に言われたように、できるだけ一体の敵に集中して出てきた順に撃っていった。安定性こそは前よりも長く続くがそれでも外してしまうことが多い。しかし、安定性が向上したため前回よりも得点は高く今回は六十一万であった。前回の四十二万と比べると腕が上がったとも言えるだろう。物信は奏莓のアドバイスに感謝してリザルト画面を見ていた。すると後ろから若い男性の声が聞こえた。
「すまない、次いいかね?」
見てみると物信の学校と同じ制服を着た男性が物信の後ろを立って順番を待っていたようだ。年齢は物信と同じくらいに見えたが物信は見覚えが無かったため別のクラスの者かと思った。
「えぇ、もちろん。プレイを見てもいいかな?」
物信は後ろにと避けて男にそう言った。すると男は「別に」と素っ気なく返した。
その後の男のプレイは凄まじいものであった。奏莓と殆ど大差ないくらいのプレイングテクニックでどんどんと敵を倒し得点を稼いでいったのだ。その凄さに物信は目を丸くして見ていた、開いた口もふさがらない程に彼の動きは出来上がっていたのだ。そして迎える最後の敵も倒しリザルト画面が出てきた。その結果は惜しくも奏莓の点には達してはいなかったが百八万との堂々の店内二位の表示が出た。
物信は彼に駆け寄って称賛の声をあげて言った。
「凄いな、お前。俺は鎖條物信、お前は?」
「ジュンだ、二年一組のな。今回も勝てなかったな・・・」
「へぇ、俺と同じなんだな。しかし、凄いもんだな結構リアルなんだぜこのゲーム」
物信はジュンが自分と同じ学年だと言う事に関心してそう言うとジュンは「そうなのか」と不思議そうにして言った。すると物信は自分の知識を自慢げにして言った。
「何でも全米ライフル協会の者が開発に関わっているらしいぜ。それにゲーム内のリロードが実際にある形式の中折れ式のトップブレイクだったろ?」
「ほう、実際にこう言った方法の銃があるのか。それと、全米ライフル協会とはなんだい?」
「ん?知らないか、まあ日本で知ってる人の方が少ないか。いわゆる銃好きの人や銃の製造者たちが入ってる団体だ。アメリカに本拠点があるんだが日本人でも入会はできる、その証拠に俺は会員だからな」
物信はいつも財布に入れているメンバーズカードを取り出して自慢気に見せて言った。しかし自慢気に見せていた物信は直ぐに財布の中にと仕舞い自慢気あった声とは正反対な落ち着いた静かな声で言った。
「はっきり言って引いただろ?そこまでして何なんだって、日本じゃそこまで意味ないって思ってるだろ?」
「そうかな?僕は凄いって思うよ。君を馬鹿にする人は凄さが分からないだけなんじゃないかな?それに、人の好きな物を他人がとやかく言うものでは無いだろう」
「驚いた、初めて会った人にそこまで言われるとはな」
「余計なお世話だったかな?」
物信はゆっくりと近場にあったベンチにと腰を掛けて「別に」とジュンを見ながら言った。物信は不思議とジュンと一緒にいることに違和感が無かった。違和感と言うのも変ではあったが何となく物信にはどこか自分と同じような気がして変な違和感を感じなかったのだ。それと同時に物信は自分の趣味を褒められたことが嬉しかったのか不思議とジュンのことが知りたくなり言った。
「なあ、ジュン。お前さっき今回も勝てなかったって言ってたがもしかして一位の奴にか?」
「ん?そうか、ついそう口にしていたか。まあな、何回かは一位を取れたが決まって次に来た時には記録が塗り替えられていてな、どうしても勝てなくてな」
そう言うと物信は合点した。彼が誰に勝とうとしているのかが、彼はどうやらさっきまで一緒にやっていた奏莓に勝とうと頑張っていたらしい。そして物信の予想では、何回も記録を塗り替えているのはきっと奏莓のことだろう。あんな奏莓にも意外と負けず嫌いなのだとこの時物信は思った。そう思うと不思議と苦笑が漏れて笑ってしまった。その様子を見てジュンは「どうしたんだい」と聞いた。
「いやな、そいつのプレイ俺さっきまで見てたんだよ。あれは並の腕じゃ勝てないぞ、なにせガチだからな」
「そうなのか、それってもしかして君の友達かい?」
そう言われると物信は少し迷った。確かに奏莓とは一緒に戦っていく仲の仲間なのは分かっているが、いざ友達なのかとどうかと問われるとあやふやな関係でどう答えればいいのかがわからず戸惑った。その戸惑いをジュンは何やら心配そうに、聞いてはいけなかったかのような気まずそうにして「どうしたんだい」と作り笑いをして言った。それにすぐさま物信は慌てて手を振って言った。
「いや、大丈夫だよ。ただ、あんまり友達に恵まれてないもんで何が友達なのかが分からなくて答えに迷ってて」
「・・・そうなのかい?だったら、僕で良ければ友達にならないか?そうして君の友達が何なのかが分かったら教えてくれないか。それに、君とならなんだか僕も友達になれそうな気がするんだ」
ジュンはそう言うと握手をするように物信に手を差し伸べた。物信はその手を取りジュンを寄せるように力強く掴み立ち上がりにっこりと笑顔を浮かべて微笑んで言った。
「そうだな、俺も不思議とお前となら友達になれそうな気がするよ、よろしくなジュン」
お互いは強く手を握り合い笑いあった。物信は彼となら友達になれると思い、彼を信じてみることとしたのだ。彼ならきっと本当の友達になれるだろうと思い。
「さて、僕はそろそろ帰るよ。この後父さんに頼まれたことがあるからさ、じゃあな」
どうやらジュンはこの後何らかの用事があり、物信に別れを告げた。物信もそれを返すように「おう」と言いジュンに手を振り言った。
物信は久しぶりにできた友達との会話に満足したのか鮮やかな顔で余韻を楽しんでいた時だった。後ろから「物信」と自分を呼び止める声が聞こえてきた。物信が振り向くとそこには奏莓が立っていた。
「随分と嬉しそうだったけど何かあったの?」
「あ、いやな、ついさっきまで友達と話してた。新しくできた」
「そう、それよりも餌が喰いついたわよ」
「そうかい、と言うことはお手洗いってことは噓で一人でバーに行ってたわけか」
物信は半分呆れた声でそう言うと奏莓は何も気にしていないのか「それが」と言った。物信も別にそこまで気にしておらず「いいや」と言い奏莓の後を追ってゲームセンターを後にして奏莓の後ろを歩いて行った。
向かっている方向は繁華街から少し離れた人通りの少ない木々に囲まれている山手にとやって来た。
「なあ奏莓、どこに向かってるんだ?山の方に来てるのは分かっているが目的地はどこなんだ?」
「あそこよ、あの工事現場。開発途中だから隠れる場所もあるから敵にとっては待ち伏せが出来て有利かもね」
奏莓が指を指す方向を見るとそこには確かに工事現場があった。開発途中と言うだけあって塀の奥には鉄骨の骨組が見える。そのことが開発途中だと言う事を際立たせるようにそびえ立っている。そして奏莓の言ったように隠れられる場所もあって敵にとって有利な環境であることも容易に感じ取れた。
「どうするんだ?敵が有利なら真正面から行くのは危険だろ?」
「そうね、だけど敵は私たちだと言う事は知らない。物信は裏から回って敵を探って、私が真正面から行って誘い出すから」
その提案に物信はどこも文句はなかったため「分かった」と言い物信は工事現場の裏にと回って行った。奏莓は物信が裏の方にと向かったことを確認すると奏莓は工事現場の入り口にと足を進めて奥にと入って行った。
工事現場の中は想像通り工事に使うと思われる資材などが山となって置いてあり奏莓の言った通りの待ち伏せをするには絶好の場所であった。そのため奏莓は所々に精神を張り巡らせて注意を尖らしていた。
日も下がり始め、段々と日の日差しが無くなり暗くなり始め奏莓は諦めを感じていた時だった。資材と資材の山の間から何かが光ったのを奏莓は横目で確認した。すぐ様に奏莓はその方に銃口を構えてその方向に神経を尖らし、じりっと一歩前にとその方にと足を出した。更に一歩前にと足を出すもその方からは何も反応は無い。奏莓は罠かもしれないとすぐ様に後ろを向くがやはり誰もいない。奏莓は再び光った方にと銃口を向けて足を前に前にと出した。そして遂に奏莓は資材の山の間にたどり着くとそこには鏡の破片が落ちていた。それが何を意味するのかを奏莓は直ぐに理解して後ろを向くと後ろの方にある鉄骨の骨組みの上から男性がこちらに銃を向け構えていた。奏莓は直ぐに資材裏にと隠れると同時に発砲音が鳴り弾丸が奏莓の横を通って行った。
奏莓がどうしようかと悩んでいた時だった、物信から電話が掛かってきたのだ。「こんな時に」と奏莓は内心苛立ちながら電話を取った。
『奏莓、こっちは敵と遭遇した。そっちは?』
「こっちもそうよ。と言うことは相手は複数いるってことね」
『そうか。奏莓、もう一度確認するがエンジェルバレットの参加者が使うのはリボルバーなんだよな?』
急な質問だった。物信には前にエンジェルバレットの参加者はリボルバーを使うと言った。そのため返答は「そうよ」の一言であった。それを物信は聞くと『そうか』とだけ言って電話が切れた。
奏莓はスマホをポケットにと仕舞い資材の裏から相手を見た。相手は鉄骨の骨組みの上から降りこちらにと向かって来た。それを見た奏莓は男の方に銃を向け引き金を引いた。男はそれに気付き直ぐに近場の物陰にと身を潜め、そこから銃を奏莓にと向けて引き金を引き弾丸を発砲させた。奏莓は銃口を向けられたのに合わせるように再び資材の裏にと身を潜ませた。弾丸は奏莓の頭上近くの資材にと当たり大きな金属音を上げた。
両者ともに物陰から様子を見ては隠れのジレンマで中々と肝心の一手が決まらなかった。それでも奏莓は焦らず決め手となる一瞬を待っていた。戦いで大事なのは精神力、そして判断力。そう奏莓は教えられた、だから奏莓はジレンマの中で心を落ち着かせ待っていた。そうして待っていた時だった。大きな発砲音が工事現場にこだまして辺りに響き渡った。その発砲音は奏莓の使う銃からも鳴るマグナム弾と同じ音だった。それを聞いた奏莓は物信が撃ったのだと思った。これでは相手に二人以上いるのだと分かってしまうと奏莓は最悪な状況を考えていたが、その考えとは裏腹に物陰に隠れていた男は驚いたのか顔を出した。もちろん奏莓はそれを見逃すはずも無くその男に銃を向け引き金を引こうとした瞬間であった。自分の後ろから大きく、さっきの音とは比べ物にならない程大きな発砲音が響いた。弾丸は奏莓の髪をかすり男の頭にと当たった。男の頭からは血が垂れ流れるように出てその場にと倒れ込んだ。
奏莓はこの発砲音に聞き覚えがあった、その聞き覚えのある発砲音は自分を負かした相手が使った銃の音だ。忘れる訳もない、そしてその者は自分に生きる方法を教えてくれた。ゆっくりと奏莓は後ろを向いた、ああやっぱりあの人だ。奏莓は内心後悔と嬉しさと悲哀の混じった感情で彼女を見た。
「久しぶりね、ストロベリー。さあ、撃たせてくれ」
その女は夕暮れの光に照らされる金髪の髪を夏至夜風でなびかせながら自分の構えている銃のハンマーを起こして言った。
その言葉と共に彼女の指が引き金にと掛かり発砲すると連想させられ奏莓は直ぐ様にその場を離れようとバックステップをして後ろにと下がった。彼女はそれに合わせるように引き金を引き奏莓がさっきまでいた地面にと弾丸は当たった。奏莓は後ろにと下がると同時にその女にと向かって発砲した。しかし女はその動きを呼んでいたかのように横にと避けてさっきまで奏莓が隠れていた資材の裏にと身を潜ませて言った。
「あなたから離れてどのくらいが経ったかしら?今でも生きているなんて嬉しいわ」
女は大声でのんきそうな声でそう言った。生と死の間際だと言うのに彼女は嬉しそうであった、そして戦いそのものが遊びのように彼女は楽しんでいた。
奏莓はさっきまで自分がいた、今では彼女が隠れているである資材の山にと注意を向けていたその時だった、奏莓から左奥にあるプレハブの裏から女が現れ銃を向けてこちらにと撃ってきたのだ。奏莓は横にと転がり避け、立ち際に女のいる方にと銃を向けて発砲した。しかし、立ち際だったためか弾丸は彼女には当たらず代わりにプレハブの壁にと当たった。女は弾丸が外れたことを感じ取り獲物をつかみ取るような鋭い眼光で奏莓の足元に二発の弾丸を足元目掛け撃ち込んだ。足元の地面にと当たった二発の弾丸に奏莓は怯みその場に尻込みをして倒れてしまった。倒れてしまった奏莓はそれでもまだ戦えることを意思表示するかのように銃口を女にと向けようとした時だった、女は弾丸を奏莓が持っている銃にと当てて奏莓の手から離れさせ、ルガーGP100は弧を描くように宙に舞い遠くに落ちてしまった。
「さて、私はお前を撃つために必死だった。だから何発撃ったのかは覚えてない、五発か、六発か。ストロベリー、どうする?まだやる?」
状況は最悪であった。奏莓の使うルガーGP100は手元にはなく遠くに転がっていた、更に自分は無様に尻込みをしてその場に倒れているのだ。その状況で女は奏莓に銃を向けている、完全に負けだ。奏莓は二度目の敗北を味わい死ぬのだと思い諦めに浸かろうとした時だった。物信がこちらにと近づきながら彼女に銃を向けながら言った。
「六発だろ?途中でリロードしてなければお前の銃には弾丸は無い。それと、そのセリフはダーティハリーのオマージュか?」
女は物信の方にと振り向き親指でハンマーを起こして言った。
「それが分かるとは良い趣味してるねボーイ。試してみるかい?」
物信は至って真剣な眼差しであった、それでも奏莓は心配であった。本当に彼女の銃の弾丸があるのか無いのか。「どうした?」と物信は女を挑発するようにして言った。そして物信に待っていたのは引き金を引く彼女では無く、ハグをしてくる彼女であった。そのあまりのことに物信は「はい?」との呆れた、間抜けな声を漏らした。その様子を奏莓は睨みながら見ていた。
「良いじゃないあなた?その度胸気に入ったわ、あなた名前は?私はキャロル・クイーン。キャロルでいいわ」
「何のつもり、師匠。物信、撃っていいわよ、どうせ私たちの敵なんだから」
「お、おう・・・って師匠!?それって前に言っていた人だよな、お前にエンジェルバレットでの生き方を教えてもらったって言う」
物信はキャロルから距離を離すように奏莓の元にと近付き、キャロルを見ながらそう言った。するとキャロルは嬉しそうに手を振って言った。
「ストロベリーからそう聞いているの?嬉しいわ、そう言う風に言ってもらえて」
「別に、感謝しているかは別としてそのままのことを言っただけよ」
奏莓は相変わらずキャロルを睨みながらそう言った。なぜかは分からないが奏莓は不思議とキャロルに嫌悪に近い感情が沸いた。それがなぜ沸いたのかは分からないが間違いなく嫌悪に近い感情であった。その様子を物信は横目で見ながら「嫌いなの?」と聞くと言葉の代わりに舌打ちを返した。その様子にキャロルは手を叩きその場を打開しようと笑顔で言った。
「そこまで、場所を変えましょう、話はそこで。さあ奏莓も銃を拾って付いて来なさい」
そうキャロルは身勝手にそう言うと足を動かし歩き始めた。