Angel Bullet

Chapter 5 - 四発目

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 夜の十一時、時間帯はすっかり深夜となり街並みはすっかり暗く、人通りは少なくなっていた。そんな中物信は深夜の街並みを走っていた。待ち合わせは確かに十一時であった、あったのだが物信は深夜に待ち合わせをしていたために仮眠を取ったのだ。そしたら物信は仮眠を取りすぎて目が覚めた時には十時五十五分であった。普段であれば電車を使って学校にと行くのであるが、時間が時間だったため物信は走って学校にと向かったのであった。

「流石に、学校まで走ってくるのはきついぜ」

 物信が半ば息を切らして校門にたどり着くと、そこには奏莓が立っており既に銃を抜いていた。物信は息を整えて奏莓を見つめて「待っててくれたのか」と聞いた。

「別に、たまたま私も遅れてきただけ。待ってたわけじゃない」

「そうりゃそうか、好きにしろと言った奴が待ってくれるわけないしな」

 物信は奏莓の言う言い訳をそこまで気にしていないような素振りで言った。

 その後は物信と奏莓はお互いに何も言わずに校門の奥、学校の方にと足を動かして行った。そして学校内にと入った時だった。物信は動かしていた足を止め、奏莓にと言葉を掛けた。その言葉に奏莓も足を止めて物信にと振り向き、声は小さいながらも尖った鋭い声で物信に行った。

「分かってるの、そんなの銃を持ってないあなたが一番危険なのよ」

「まあな、そんなの百も承知だ。だが、真正面からのやりあいでやれば間違いなくこちらが負ける」

 物信は真正面からでは駄目なことを充分理解できているから分かる。奏莓が使っているルガーGP100ではM360PDと真正面でやれば明らかに最新のM360PDが勝つだろう。他にもマグナム弾を使用するルガーGP100は反動が大きいがM360PDは小型であり、通常弾を使っているため何発もブレの少ない連射できるため真正面からでは分が悪い。

「それに、暗い中どうやって狙いを定めるの?」

「それは簡単だ、俺が廊下とかの明かりをつけて明るくする。お前は俺と先生が戦っている中遠くからでも気づかれない距離で撃てばいい」

 物信の言うことは銃のことを知らない奏莓にとってこの上なく信用できるものではあるがリスクが高い。もしも、陽平と物信が戦っている間に物信がやられてしまえば居場所が掴めなくなる。そうなれば物信の言う不利な状況になるかもしれない。奏莓は二つの不安にジレンマを感じながら迷っていた。

「なぁ、奏莓。やはり俺の考えは信用できないか?それとも、俺じゃ心もとないのか?」

「・・・そういうわけじゃない。ただ心配で、不安なだけ。誰かと一緒に戦うのは初めてだから」

「奏莓、お前って今まで一人で戦ってきたのか?――いや、悪い一人が当たり前なんだよな」

 物信は途中まで言って本来一人で戦い合うのが当たり前なのだと察した。奏莓はそれを全く気にしていないように淡々と語りだした。

「私は、今まで一人だったから、一人を好んでいたから誰かと一緒に戦うなんて考えたことが無かったから今日みたいなケースが初めてだから」

「そうか、一人を好んでいたか、俺とは違うな。俺さ、中学でできた友達に裏切られたことがあるんだよ。そして高校でやっとできた友達もそうだった。最近知ったんだけどな、いいように利用されているだけで本当の友達じゃなかったんだよ」

 奏莓は物信のその言葉で一人を好んでいた奏莓でも物信の寂しさが分かった。誰かに裏切られる、想いに裏切られるなんて誰だって辛いことだからだ。奏莓は何か物信に言おうとした時だった、物信が再び話はじめたのだ。

「でも、今はどうでもいいかなって思えた、友達なんてクソ食らえだ。だから、奏莓も俺のことを考えずにいつも通りにやってくれ。ただ単に狙うのは陽平だってことで俺のことは気にせずにな」

 物信は苦笑いを浮かべて止まっていた足を動かして再び歩き始めた。すると奏莓も歩き始め、物信の前を歩き言った。

「分かった。いいわ、その案に乗るわ」

 その時の奏莓の表情は暗く分からなかったが、物信には笑っているように見えてほんの少し足が止まったように感じた。それでもすぐに物信は自分の成すべきことを思い出し小走りをさせた。

 その後物信と奏莓は二手に分かれた。物信は夕方陽平に襲われた廊下にと向かった。物信は直ぐに明かりを付けれるようにできるだけ壁沿いを慎重に歩いて行った。

「おーい、いるんだろ。いるんなら出て来てくれないか」

 物信は定期的にこう言うことで自分の位置をわざと陽平にと教えて反応を伺っていた。こうすることで陽平の注意をより自分にと向けることができる。そうすることで自然と陽平にと会えるとの寸法である。

 そうこうしていると、物信は陽平に襲われた廊下にとやって来た。すると案の定なのか、廊下の奥からは陽平の声が聞こえてきた。

「自ら自分の場所を教えるとは、君の狙いが分かりませんよ」

「分からなくて結構。その方が俺的にはありがたいからね」

 物信は陽平の声を確認して直ぐ様に明かりを付けた。すると、廊下には陽平の姿と物信の姿が照らし出され、お互いは静かに睨み合った。

 照らし出された物信の姿を見て陽平は疑問に思った、奏莓の姿が無いのである。物信がいるのであればあの場に同席していた奏莓もいることが必然的なのだが辺りを見回しても奏莓の姿が見えないのであった。

「奏莓さんがいないようだが、一緒では無いのかな?」

「さぁ、俺は知りませんよ。彼女がどこにいるかなんて?」

 物信はそう言った瞬間に走り出し、陽平との距離を詰めて陽平にと回し蹴りを顔にと当てて陽平の姿勢を崩し、その場に尻込みをさせた。

「ダメですよ先生、これは戦いなんですよ。相手が目の前にいるのに馴れ合いなんて」

 陽平は右手で銃を抜こうとした時だった。物信は右手を足で踏んで銃を引き抜こうとした手を防いだ。

「グァッ、まるで夕方とは違う戦い方ですね物信君。これが本来の戦い方ですか?」

「さあ、自分の本当の姿って案外こんな感じなんでしょうね。俺今まで自分の想いに正直じゃなかったんですよ、だけど俺は自分の想いに正直になることを決めた。俺は、もう二度と誰にも利用されない。便利に使われているだけはご免だ」

 物信は踏んでいた手から足を退けて陽平の顔に再び蹴りを入れ、陽平を後ろにと転がり飛ばした。

 あくまでこれは時間稼ぎであった。それでも呆気ないほどに陽平は話に夢中になってくれたおかげで隙が生じた。その隙ができたおかげで物信は陽平にと奇襲とまでは言えないが近い攻撃ができた。

「確かに、ある程度は防げてもまだ左手がある」

 そう言うと、陽平は左手で銃を構えて引き金を引いた。どうやら陽平は先の蹴りで飛ばされた時に物信に悟られないように左手で銃を抜いたのだろう。物信は直ぐに銃口とは別の方向にと転がり避けた。だが、今度は陽平が物信の転がり避けた方向にと銃を構え撃った。それに合わせるように物信は前にと転がり避けて陽平との距離を近づき、陽平の懐にと潜り込んだ。いくら小型な銃でも至近距離の下からの方向には直ぐには向けることはできず狙いを定めるのにも時間が掛かった。物信はその間に立ち上がり、陽平の腹にと強いパンチを入れた。その一撃に陽平は足を一歩引いて腹を抑えるようにしてその場を後にするようにして物信にと背を向けて残った力を振り絞って走り出した。物信は「待て」と言ってくるが陽平は聞く耳を持たずに走り出し、その場から逃げるようにして逃げることに集中した」

「私には、まだやることがある。娘の、|桐栄《きりえ》の為にも。お金が必要なんだ」

 陽平は多額の借金を抱えていた。その借金は妻が詐欺によってだまし取られたことによりできた借金であり、今までは愛する妻と共に働いて地道に返済していた。だが、妻を昨年に亡くしてしまったのであった。死因は仕事による過労死であった。降りた保険金は全て借金を返すためのお金となったがそれはどうでも良かった。陽平が悔いたことは二度も妻を救えないことであった。一度目は詐欺で騙された、そして二度は仕事で無理をしていた妻を助けられなかった自分を悔いた。この罪を償うには借金を返さねばならない、そして娘の桐栄をこれ以上泣かせてはいけない。

 二階にと続く階段にと差し掛かった時だった、階段の奥から誰かの声が響いてこちらに聞こえてきた。陽平は「誰だ」と階段に向かって声を投げた。

「残念だけど、あなたはこれで終わり。二人での共闘は初めてだったけど案外悪くないわね」

 奏莓はゆっくりと階段を一段一段降りて行き、銃口を陽平にと向けて言った。陽平は自分にと向けられた銃口を見て奏莓を睨み言った。

「奏莓さん、やはり本命はあなたでしたか。あなたは、人の願いを踏み滲むことができるのですか」

「えぇ、できるわ。そう教えられたから、戦いは人の想いに耳を傾けてはいけない。あなたの願いはここで終わりよ」

「それはどうでしょうね、私は往生際が悪いのが癖でね」

 陽平は自分のポケットに入れていたスマホのライトをオンにして目晦ましとして使った。この時の陽平は逃げることだけを考えていたためか奏莓に攻撃はせずその場から逃げてしまった。奏莓は直ぐに陽平が逃げたと思われる足音のする方にと走り出した。運動のできる奏莓の足の速さでは余裕で陽平にと追いつくことができるはずだった、しかし陽平を追って着いた場所は学校の校舎外であった。校舎外はあまり遮蔽物が無く、近くにあるのは二階建ての部活棟であった。

 奏莓は注意深く周りに目を向けて気を尖らしていた。しかし、時間帯は深夜のため中々陽平の姿が見えない。その時だった、一発の発砲音と共に、自分の足元に何かが撃たれた感触が感じ取れた。奏莓は反射的に音のした方に体を向け、その方向に向かって銃口を向けて引き金を引いた。その後「カーンッ」という音を立て金属の何かに当たる音がした。音の方向からしてそれは部活棟の方向からだと分かった。奏莓は部活棟の方にと向かおうと足を一歩前に出した時だった。再び部活棟の方から銃声が聞こえた。それは二発発射するように連続的に二回聞こえてきた。その次の瞬間、奏莓の右肩に激痛が走った。何か堅いものが奏莓の右肩を貫通したのであった、それは言わずとも弾丸であった。奏莓は血が滴り落ちるように出血している右肩を左手で押さえ、痛みの悲鳴を噛み殺して部活棟の方を見つめた。

「まさか、餌に乗ってくれるとは。君が私の発砲に合わせて引き金を引いたおかげで君の場所を把握することができました」

 カンコンカンコンと階段を降りる音を立てながら陽平は喋りながら銃口を奏莓にと向け、月の光に照らされながら姿を現した。

「えぇ、私も迂闊だったわ。居場所を教えるリスクを冒して引き金を引いたことを」

 陽平は勝ちを我が物とした余裕の風格で奏莓の前にと立った。右肩を撃たれた奏莓の腕は陽平にと銃を正確に構えられず奏莓はただ見ることしかできなかった。運が悪かった、奏莓の頭にはその文字が浮かんだ。当初の予定では物信が陽平と鉢合わせになり時間を稼いでいる間に遠くから奏莓が狙い撃つ予定だったがまさか鉢合わせになった場所が自分のいる下の階だったとは。そして自分は油断をしていた、物信が陽平をある程度追い込んだことによって油断、慢心してしまった。本来であれば最後まで爪を見余らないはずなのに。

「最後に聞かせてもらおう、物信はエンジェルバレットの参加者だったのか?」

「さぁ、それは彼に聞いて。私もそこまで彼のことについては知らないから」

 奏莓は全てを諦めたかのように目を閉じた時だった、こちらにと走ってくる音が聞こえたのだ。その音に陽平も聞こえたのか「誰だ」と音のする方にと向けて言葉を投げた。奏莓は静かにその方を向くと、そこには物信が走ってこちらにとやって来て陽平の前にと立った。

「待たせて悪かったな。先生、最後くらいチャンスをくださいよ。生徒の言うことを聞くのも先生の役目ですよね?」

「いいだろう、勝利の風は明らかに私にある。覆せるのであれば言ってみろ」

 物信は奏莓に銃を貸してくれて言うように手を差し伸ばした。奏莓は望みを託すようにゆっくりと銃を物信の手にと渡し、それを確認するように持ち上げて陽平に見えるようにして言った。

「俺はここから四歩下がる、その後お互いに銃を構える。で、奏莓に弾丸を投げてもらってそれが地面に落ちた時に引き金を引く、それで死んだ方が負け。簡単だろ」

 物信は奏莓から貸してもらっている銃から弾丸を一弾引き抜いて奏莓にと投げ渡した。

 それでも陽平は自分が勝つのだと余裕を装い鼻で笑って言った。

「決闘のつもりか。いいだろう、だが勝つのは私だ」

 自信たっぷりな陽平を見て物信は鼻で笑って陽平に背中を見せないようにして陽平を見ながら四歩足を引いた。

「そんな私を見なくても下がっている間に君を撃とうとはしないよ、それほど私は勝ちに急いではいないからね」

「そうかい、だったらその余裕ヅラを崩してやるよ。奏莓、いつでもいいぞ」

 お互いは銃を構え、奏莓が弾丸を投げるのを今か今かと待った。

 実銃を握るのは初めてであったが、物信はしっかりと勝つことができると自信があった。そのため物信は実銃を握るのが初めてでも狙い撃つことできる距離にと決闘を持ち込んだ。

 奏莓は物信の目を見ると、そこには自信の眼差しがあった。一方陽平の方は勝つことができる余裕の風格であった。なぜ物信はあそこまで勝てると思い込んでいる相手に対して勝つことができると自信があるのだろう。陽平は明らかに何人かと戦ってきて勝っているだろう。しかし、自分の知る限りでは物信は人を撃ったことどころか実銃を握った事すらも無いだろう。それなのに彼の自信はどこから沸いているのかが分からなかった。それでも奏莓は物信を信じたかった、物信の正体不明の自信を信じて左手で弾丸を宙にと投げた。

 宙にと投げられたのを合図にお互いは引き金にと指を合わせた。そしてその数秒後であった、宙にと投げられた弾丸は地にと落ち地面と接触する音がした。その音と共に発せられた発砲音は一発だけであった、その音は物信の握られていた銃から発せられた。発砲音と同時に陽平の握られていた銃からは発砲音は聞こえず代わりに金属音が「カチ」と音が静かにしたのであった。

 弾丸は陽平の頭にと当たり、頭からは血が垂れだしその場に崩れ落ちるかのように倒れてしまった。物信はそれを見て静かに言った。

「M360PD、確かに凄い銃だよ。小さくてもマグナム弾も撃てるんだからね、だけどあんたはそれを使わなかった。だから何発撃ったのかも遠くから聞いてても奏莓が撃ったのか先生が撃ったのかが分かったよ」

「どう言うことなの、物信」

 奏莓は物信のところにと近付き言った。物信は銃を奏莓にと返し、陽平の持っている銃を手に取って言った。

「M360PDは見ての通り小柄だろ、奏莓のルガーGP100と比べると総弾数が一発少ないんだよ。俺との戦いで二発撃っていた、そして、銃声が四回ほど聞こえたからね。一発は357マグナムの力強い音がしたから奏莓が撃ったって分かった。先生は逃げていたからリロードをしてたとは思えなかったからね」

「だから、あの時あえて背中を見せないでリロードの仕草をしないか見張っていたわけ?」

「まあね、人って誰かに見られていると警戒するからね、心理的なとこをついたわけだ。それにしても、自分が使っている銃の性能と撃った回数を覚えていないとかどうかと思うけど」

 物信は陽平から取ったM360PDを眺めながら言った。

 物信の言っていることでやっと奏莓は物信が持ち合わせていた自信が分かった。物信は陽平に戦いを挑んだときに相手の弾数が無いことを知っていたのだ。だから物信は自分よりも強い相手を前にしても勝てると自信があったのだろう。弾丸の無い銃を使っている相手などただの|的《まと》でしかないだろう。

「さて、多分あると思うんだが。どこにあるんだ?」

 物信は何やら陽平の懐を漁っていると「あったあった」と呟きながら弾丸を何発も取り出して言った。その様子を見て「どうしたの?」と不思議そうにして言った。すると物信は一つの弾丸を奏莓にと投げ渡した。その弾丸は物信が陽平の懐から取り出した弾丸とは違い、銀でできた銀色の弾丸であった。奏莓はそれが直ぐにシルバーバレットだと分かった。

「先生の持ってた銃と弾丸俺が貰う。そして俺はシルバーバレットをお前に渡す、それが協力する代価だ。どうだ?」

 この男は本気でエンジェルバレットに参加しようとしている、それが他人から奪った物であろうと彼は本気でやろうとしている。奏莓はこれ以上彼を引き留めても無駄だと知り決意した。彼と共闘しようと。

「いいわ、あなたなら一緒に共闘できる。それと、このシルバーバレットはあなたが持ってて、私は自分のと合わせて既に二個あるから。時が来たらそれを私に頂戴」

「時って?どう言うことだ、もしかして勝利するためのことと何か関係があるのか?」

「・・・うん、勝利すると天使になりその力を使えるって。私はその力を使って父さんの意識を目覚めさせる。お金が必要って言っていたけどあれは口実。本当は、あるかどうか分からない力を頼りたい」

 奏莓がここまで追い込まれていたとは物信は思いもしなかった。それでも物信の気持ちには変わりはしなかった。物信は「分かった」と言い奏莓から一発のシルバーバレットを受け取った。

「だったら俺はお前を天使にする手伝いをするだけだな。もちろん、戦いにはちゃんと俺を誘えよ、でなきゃ俺の意味がないからな」