Angel Bullet

Chapter 4 - 三発目

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「ただいま」

 物信は家の玄関を開けずかずかと奥に進み、リビングへと入る扉を開けリビングにと入って行った。リビングに入るとソファーに座っていた正明がリビングに入ってきた物信を見て「おかえり」と言葉を掛けてくれた。

「なぁ、オヤジ。オヤジにとっての幸せって何?」

 物信の唐突の質問に対して正明は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で物信を見た。正明には物信の顔がしんみりとした顔に見えたのか陽気なテンションで物信を元気づけるようにして話しかけた。

「おいおい、どうしたんだ?しけた顔してそんなこと聞いてきてよ――俺のことを気にしてか?」

 物信は静かに頷いた。正明はどことなく物信の気持ちを汲み取ることができ、すぐに自分のことだと分かった。そのため正明は変に誤魔化さず物信の思っていることに真剣に向き合うことにした。それでも物信のことを考えできるだけ明るい声で物信にと話し始めた。

「お前が思う気遣いはとてもありがたい。だけどな、だからって俺のことを気にする必要なんてないんだぞ。お前がやりたいことをやっていれば俺はそれだけで満足だ。死んだお前の父さんもきっとそう願っているだろ」

 その言葉で物信のモヤモヤとしていた霧が晴れ、迷っていた心に決心する事ができた。奏莓は人のためにと言った、正明は自分に対してやりたいことをやることが願っているのなら自分はそれに従おうと決意した。

 物信は直ぐに心配させまいと笑顔を浮かべた。

「分かった、俺はやりたいことをやるよ。ありがとう、オヤジ」

「悩みが解決したならそれでいいよ。俺はお前のやりたいことを応援するからよ」

 正明は立ち上がり物信の頭をクシャっと撫でて言った。物信は撫でてもらったぬくもりを覚えている間に話さなければならないと思い物信は正明にと伝えることにした。

「オヤジ、今夜なんだけどさ、ちょっと出かける用事があるんだ。もちろん、朝までには帰ってくる」

「別にいいぞ?さっきも言った通りお前のやりたいことは応援する。それに、思い立ったが吉日とか言うだろ?欲望には忠実が良いんだよ、我慢はストレスだからな」

「思い立ったが吉日ってそういう意味じゃなかった気がするけど」

 物信は正明の言ったことわざを指摘すると正明は「そうだったけ?」ととぼけたような声を出して笑い出した。物信もその笑いにつられて正明と共に笑った。

 その後、物信は二階にある自分の部屋に入ると、本棚にある銃の本を何冊か取り出して陽平の持つS&W、M360PDについて調べ始めた。物信はM360PDについて一通りのことは知っていた。しかし、改めて調べることによって何か新しいこと、短所に気付けるかもしれないからだ。とは言ってもM360PDは現在の日本の警察が使っている物と同じ型なため短所は見つけにくい。それに、使える弾丸も弾丸でマグナム弾が使えて強力なのだ。しかし陽平は、極めてスタンダードな弾丸を使っていると言っていた。となればマグナム弾の心配はそこまで考えなくてもよさそうだ。そうなれば陽平がM360PDに使用していると思われる銃弾、38スペシャル弾の対応方法だ。正明の知っている範囲であれば38スペシャル弾は現代のリボルバー用の弾丸の主流である、そのため世界一とも言われることもある。しかし、それは主流であって威力を考えるとオートマチック用の弾丸と比べると弱い。しかし弾丸には変りないため生で受ければ致命傷になる。

「奏莓の持っている銃はルガーGP100か、それに比べて陽平の銃はM360PD。いくら威力が勝っていてもこれじゃ分が悪すぎる」

 物信は頭をかきながら本棚から更に銃の本を取り出した。中には海外から取り寄せた英語の本もそこにはあった。奏莓が喫茶店に来た時に正明が言っていた、一時期ガンスミスになろうとの通り物信は本気でガンスミスになろうと必死であった。そのためガンスミスになって海外で働ことも考えていたため英語を必死に学んである程度の英会話と英語の本は英語辞書を使わずに読むこともできる。そのため海外から取り寄せた銃の本もすらすらと読むことも可能であった。

 海外の銃の本にもM360PDのことは書かれており、38スペシャル弾は他のオートマチック用の弾丸と比べると威力は低いなど書かれていたが日本では十分すぎる威力だ。他にもボディーアーマーを着れば何発は耐えられると書いてはあったが日本では入手困難である。

 頭を悩ませていた物信はふと別の考えが浮かんだ。M360PDを調べるのではなく、奏莓の銃、ルガー・GP100を調べればいい。奏莓は銃のことに関しては全く知らない。だとすれば銃について詳しい自分が奏莓の使う銃のことを深く理解して奏莓に説明すればいい。そう思った物信はM360PDでは無くルガーGP100について書かれた本を取り出して読み漁り始めた。しかし、ここで問題が発生した。それは日本ではあまりルガーGP100はそこまで知られてなくそこまで書かれていなかった。そのため物信は直ぐに海外の本でルガーGP100について調べたがそこまで良い情報は出てこなかった。

「本でダメならパソコンか。本ではそこまでだったが、ダメもとで調べてみるか」

 物信は机の引き出しに仕舞ってあるノートパソコンを机の上にと取り出し早速調べてみた。すると、案外とルガーGP100について書かれたサイトが出てきた。物信はそれを見てすぐさまクリックをしてサイトをスクロールさせて見ていった。

「GP100はトリガーを引く時は他のダブルアクションの徐々に重くなるのとは違って急に重くなる、か。奏莓の奴、そういえば手動でハンマーを起こしていたか?ダブルアクションはその必要が無いが事前に手動で起こしていればある程度は軽くなるって前本で読んだことあるが」

 物信はトリガーの引きの重さを考えた。ダブルアクションは基本的ハンマーを起こしていなくてもトリガーを引くだけで自動的にハンマーを起こして弾を撃つことができる。しかしその分引き金の引きも重くなる。そこで物信は事前にハンマーを起こしておくことによるトリガーの引きの重さの軽減を考えた。

「ある程度軽くできれば奏莓の負担もある程度は改善できるが、いや銃のことを知らない奏莓のことだからこのことは知らないか」

 物信は既に奏莓がそのことを知っているのではないのではないかと思ったが、奏莓は銃のことをそこまで知らなかったことを思い出し、知らないだろうと思った。

「となると、あとは戦略だな。小さいM360PDに接近戦を挑むのは相手を有利にするだけだな。だったら遠距離で仕掛けるしかないか」

 遠距離で戦うことは確かに有効な手段であった。しかし、問題なのは夜に戦うことだ。夜だと視界も暗く、狙い撃ちするのにもリスクが伴う。一発で仕留めきれなければ場所が分かってしまうからだ。

 物信がどうすればいいかと悩んでいた時だった。部屋をノックし、正明が「入るぞ」と言い扉を開けた。

「物信、ご飯持ってきてやったぜ。どうしたんだ、こんなにまで考え事しちゃって」

 物信は時計を見てみると、既に時間は七時半を越えていた。どうやら正明は中々下に降りてこないため心配して夕飯を持ってきてくれたようだ。

「ありがとう、オヤジ。――なあ、もしも夜の学校で銃の撃ち合いをするとしたらオヤジはどうやって戦う?」

「なんだよ急に、小説でも書く気か?まぁ、俺だったら一人を敵と戦わせている間に敵の位置を教えて暗いところからの狙撃かな。別に条件が味方は一人じゃないだろ」

 正明は持ってきた夕飯を机の上にと置き元から考えていたかのように即答して言った。その即答に物信は内心驚き、その手があったかと心で手を打ち「なるほど」と頷いた。

「ありがとう、オヤジ。オヤジのおかげでいい案が浮かんだよ」

「そうか、なら安心だ。それと、さっさと夕飯食べちまえよ」

 正明はそう言うと物信の部屋から出て行ってしまった。物信は出て行った正明に「おう」と扉の奥からも聞こえるくらいの声で言った。

 物信は早速正明が持ってきてくれた夕飯にと手を付けた。夕飯はご飯と味噌汁と豚カツであった。今日の夜の戦いに向けて作られたかのように豚カツとは縁起がいい、そう物信は思いながら手を付けていった。そのためかさっきまでの不安が嘘のように物信から消えていった。

「これなら勝てるかもな。後は、この作戦に奏莓が乗ってくれるかだな」

 豚カツを噛みしめながら物信は独り言を呟いた。もしも奏莓が断るようであっても物信は無理にでも作戦を実行させようと思っていた。決して物信は奏莓の力を過小評価しているわけではないが、勝ちを明確に又は確実にとさせたいのであった。