Angel Bullet

Chapter 3 - 二発目

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 物信がエンジェルバレットのことを知り一日が経った。昨日、確かに自分は常識的ではないことと鉢合わせになった。銃刀法違反のある日本で実弾を使った戦闘など絶対に見えない、起こり得ないだろうと思っていたのに物信は見てしまったのだ。更に、その戦いに自分と同じ学校に通う者が参加していたとなれば更に驚きである。

 エンジェルバレットは命の危険があると奏莓は言っていた。そして使っているのは正真正銘の実弾の銃だ、それだけで物信は十分危険だと分かっている。それでも銃オタである物信にはこれ以上にないほどに惹かれるものがある。しかしだ、例えやりたくても参加方法が分からないのだ。それに、銃もただの普通の銃ではなさそうであった。奏莓は自分の使っていた銃、ルガー・GP100をエクスシアと言っていた。そこから物信はただの銃では無いのだと思ったのだ。

 そう物信が頭を抱え、悩みながら自分の席で昼食を食べていた時だった。物信の席の前に奏莓が現れた。

「よう、奏莓。何か俺に用か?」

 奏莓はコクリと頷いた。物信は箸を動かしたまま「なんだ?」と聞いた。

「銃のことで、ここでは話しにくいから屋上に来て」

 そう告げると奏莓は歩き出して教室から出て行ってしまった。物信は自分の弁当をカバンの中にと仕舞い、奏莓の後を追って屋上の方へと向かった。

 普段であれば屋上は解放されておらず、鍵を開けるのに先生の了承が必要なのだが、昼休憩の間だけは解放されており先生の了承が無くとも入ることが出来る。なんでも数年前に生徒からの強い要望があったため昼休憩の間は鍵が開いてあるのであるらしい。しかし、今は屋上で昼休憩を過ごす者は少なく一人になるには絶好の場所である。そのため物信は一人になりたい時は屋上で黄昏にふけるのだが、屋上に呼ばれるとなると経験はない。

 物信が屋上の扉を開けると、案の定屋上には奏莓以外誰もおらず、奏莓と物信だけの空間が自然とできた。

「それで、銃のことだよな。俺に聞かせてくれるのか?それとも俺がお前に話すのか?」

 物信は奏莓に近づいて言うと、奏莓は近場にあったベンチに座り隣に座るように物信に促した。物信は頭をかきながら奏莓の隣にと座った。

「私の銃、ルガー・GP100が本来の名前なのだけどもう一つのエクスシアについて。私も詳しくは分からないけど天使の名前だってことは確か」

 奏莓はそう言うと胸ポケットの内側からルガー・GP100を取り出し、銃口の方を持ち物信にと向けた。物信はそれを受け取り見て見ると、銃にはGP100と書かれた下にExousiaと書かれてあり、それがエクスシアを意味するのだと分かった。

「そうか、それだったら他の奴らの持っている銃にも天使の名が刻まれているかもな。もしそうだったらエンジェルバレットって名前にも納得だな。なぁ、お前はなんで俺にそこまで教えてくれるんだ」

 物信は銃を奏莓にと返してそことなく疑問を聞いた。ただの無言が続くかと思った時だった、奏莓がベンチから立ち上がり言った。

「あなたが、エンジェルバレットの参加者じゃないから。参加者だったら見す見す情報を渡さない、それに、あなたには銃について教えて欲しいから」

「そうか、だったら教えてやる。だが、それには条件がある」

 物信もベンチから立ち上がり、奏莓と同じ目線で奏莓を見つめて言った。奏莓は首を傾げて「条件?」とオウム返しをした。

「そうだ、条件。奏莓、俺にエンジェルバレットのことを教えろ。そして、俺も共に戦わせろ。俺もエンジェルバレットについて興味が沸いたからな」

「・・・あなた、自分で何言ってるか分かってるの?死ぬかもしれないのよ。エンジェルバレットを教える、私の協力者にさせるのはいいけどあなたの命の保証はできないわよ」

 物信はどれだけ危険なことかは分かっている。だが、そんなことはどうでも良かった。物信にとってエンジェルバレットはこれ以上にない自分の好奇心を満たすには他にないイベントなのだ。それに、もしかしたら自分もエンジェルバレットに参加できるかもしれないからだ。

 物信は強い眼差しを奏莓にと向けた。しかし、奏莓は物信の言っていることが理解できず頭を抱えて「少し考えさせて」と言い、屋上から出て行ってしまった。これには流石に物信も言葉足らずだったのだろうと思い物信も頭を抱えた。

「よう、お前が考えていること当ててやろうか?」

 どこからともなく、物信の背後から男の声が聞こえてきた。「誰だ」と物信は声の主の方にと投げかけるように言い、振り向いてみるとそこには明らかに学校の者ではない男が立っていた。男はパッと見では中年ぐらいの男性で、浮かれたアロハシャツを着て腕組みをして物信の方を見ていた。

「ズバリ、お前はエンジェルバレットに参加したい、そうだろ?」

 陽気なテンションの男は両手で指パッチンをして物信を指さした。

「だったら、なんなんだよ。それに、お前は誰だよ」

「俺か?天使ガブリエルだ、とは言っても元は人だ。人だった時の名は言わなくてもいいな?」

 ガブリエルと名乗る男は物信のまわりを歩き出し、物信を指さし語り始めた。

「いいか、エンジェルバレットって言うのは命を懸けた正真正銘の殺し合いだ。そこに、ただの興味だけで参加したい奴なんて覚悟が小さすぎる、だから俺はお前の参加を認めない」

「だったら、覚悟が足りれば参加できるのか?」

 物信はガブリエルを直接見ずに言葉だけガブリエルに投げるとガブリエルは歩いていた足を止め、物信の肩に手を置いて語り始めた。

「あぁ、その時俺たち運営側はエンジェルバレットの参加者として君を歓迎しよう」

 物信はその手をどかそうと振り払おうとした時には既にガブリエルは姿を消すようにと屋上から姿を消していた。

 確かに、ガブリエルと言う男は屋上にいた。しかし、いたはずのガブリエルは霧が晴れるように消えていってしまった。それに、あの男は運営側と言っていた。つまり、あの男に近づけばエンジェルバレットに参加できるかもしれない。だが、どうすればあの男に会えるのだろう。頭を悩ませていると行き詰るばかりの為物信は一旦思考を止めて次の授業の為にも早めに屋上から降りることにした。

 その後のことは実に物信の想像していた通りのことであった。それも、奏莓は屋上で言った条件のことを考えているのか中々物信にと話しかけに来なかったのだ。確かに言葉足らずで説明不足でもあった。痺れを切らした物信は奏莓に話しかけようとするも無視をされてしまい、更には帰りのSHRが終わって直ぐに帰って行ってしまった。

 後を追おうにも物信は今日、進路相談の日で社会の先生である小崎陽平(さざきようへい)にと呼び出しをくらっているのである。そのため奏莓を追いたくても後を追えず陽平のいる社会研究室で物信は陽平と二人で話をしていたのであった。

 陽平と言う男は眼鏡を掛けたキリっとした男で、スーツと相まってその姿を模範としたい者が多く男子からも女子からも人気のある先生である。しかし、物信はみんなとは違って陽平のどことない堅苦しさが苦手である。

「それで、先生。そろそろいいっすか?それに、進路のことはやっぱり家の喫茶店で働きたいんで」

「そうか、そこまで決まっているなら私からはそこまでは言わない」

 物信は椅子から立ち上がり「そうですか」と言い、扉を開けようと取っ手を引こうとした時だった。ぞくりと、物信の背後から陽平がナイフを突き刺すような冷たく重たい言葉を物信にと突き刺して来た。

「物信君は、エンジェルバレットの参加者、あるいはそれに準ずる者かな?」

「さて、どう言うことでしょうか?そもそも、エンジェルバレットとは何のことでしょうか?」

 物信はゆっくりと陽平の方にと顔を向けると、陽平は物信にと銃を向けていた。いつ陽平が銃を取り出していたのかが分からない程陽平は自然に流れるようにと銃を引き抜いていたのであった。

「S&WのM360PDですか、先生も中々いい趣味ですね。モデルガンですか?」

 S&W、M360PDとは小型なリボルバーではある物の357マグナムを運用することも出来る。そのため小型ながらもパワフルな銃である。もしも、陽平の持っているM360PDが実銃で357マグナムが装弾されているのであれば、引き金を引かれたところで物信の命の保証は難しいだろう。

「それがどうか分からない君ではないと思うが。話によると君は銃オタだったと聞くが」

「えぇ、人から銃オタと言われる程度ですからね。その俺から言わせてもらえるのであればハーフコックの状態にしてから引き金を引かないとリボルバーは撃てませんよ」

 その言葉を聞いて陽平はハッとした顔で物信に向けていた銃を自分の顔に近づかせて急いで銃のハンマーを引いてハーフコックにとした時だった。その時には既に物信がドアを引いて廊下にと走り出て行ってしまっていた。

 物信は廊下を走りながら社会研究室にいる陽平に向かって言葉を投げた。

「確かにリボルバーはハーフコック状態にしてから引き金を引かないと打てませんけど最近の銃の殆どがハーフコックの必要がありませんよ」

 まさか大の大人である陽平がまんまと引っ掛かるとは思わなかったがある程度の時間を作ることが出来た。本来であればこのまま逃げることが吉なのであるがこの時の物信は不意に、自分が陽平に勝てばいいのではと逃げ腰では無く打ち勝つ、戦うことを決めたのだ。物信が戦うことを決め、その場で立ち止まると発砲音と共に足元には一発の弾丸が放たれた。放たれた方向を見ると、そこには陽平が銃を構えて物信を捉えていた。

「まったくだ、確かによくよく考えれば君の言う通りだった。立ち止まったと言う事は、戦うことを決意したのか?」

「えぇ、本来であれば逃げている所ですけど今の俺は戦うことを選びたがっているんでね」

 物信はどことなく余裕の表情でシャドーボクシングをするかのような構えをして陽平にと対峙するように見つめた。一方陽平は銃を物信にと捉えたまま表情を変えずに指を引き金に当てて忠告するようにして言った。

「この距離では明らかに銃を使った方が賢明ではないかな?それとも何か策があるのか」

「さーて、どうでしょうか。それと、一つ聞いていいですか?弾丸は何を使ってるんですか」

「さぁ、私はそこまで銃に詳しく無いため弾丸の種類までは分からない。しかし、極めてスタンダードな弾丸だと伝えてもらってるよ」

 陽平の言葉が本当であればマグナム弾では無く、普通の一般的に使われている弾丸であることになる。しかしそれでも実弾を使っていることに変わりない。その危険性を理解した上で物信の取った行動は、自分が着ている学ランを脱ぎ陽平の顔にと投げつけたのである。陽平もこれには驚き、引き金を引くことの出来ず構えていた手を下し視界を邪魔している物信の学ランを振り払おうとした時だった。銃を持っている右手の手首と首部分が何者かに捕まれ押し倒されてしまった。そして、物信の学ランが顔から離れた時に誰が手首と首を掴んでいたのかが分かった、物信であった。

「銃を使わずしてここまでとは想像以上だ」

「あぁ、銃だけを知ってもと思ってCQCや護身術も調べていた時もあったからね」

「実戦的な戦術の応用ですか、だがそれだけでは押し負ける」

 陽平のその言葉と共に物信は押し起こされるように後ろにと飛ばされた、力量が陽平の方が上回っていたのだ。物信はその力量に押され、後ろにと飛ばされた物信は尻込みをして陽平を見た。

「どうやら、決着だな。君がエンジェルバレットの参加者かどうかは分からなかったがここまでしたのならば生かしてはおけない」

 その言葉と共に物信は死を覚悟し、目を瞑った。発砲音がし、しばしの沈黙が続き痛みを感じない物信は恐る恐る目を開くと、そこには銃を落とし、銃を持っていた右手を抑えていた陽平の姿があった。陽平は物信ではなく、物信よりも後ろの方を睨んでいた。物信もその方に顔を向けるとそこにはルガー・GP100を構えた奏莓が立っていた。

「奏莓、どうしてここに!?」

「発砲音が聞こえて急いで来たらあなたを撃とうとしていたから。あなたの言った通りマグナム弾って強いのね」

「なるほど、物信君は囮で本命はあなただったのですね奏莓さん。銃だけを狙うとはかなりの使い手ですね」

 陽平の言ったことで目を瞑っていた物信も何が起こったのかが理解できた。奏莓はマグナム弾の強力さを利用して弾丸を銃本体にと当てて陽平の手から離れかせたのだ。そうだとすれば奏莓の腕はかなりの凄さだ。

「どうする?まだここで戦うつもり、それだと人目が気になるところだけど」

 奏莓のその言葉で物信はまだここが学校で人も残っていることに気が付いた。それを理解した上で陽平は物信に銃を向けたと言う事はそれなりのリスクを負うことを懸念していたはずだ。それでも陽平は物信にと銃を向けた。そう思うと物信はあのガブリエルの言っていた覚悟という言葉を思い出し己の覚悟の小ささを理解させられた。

「ふむ、確かに君の言う通りだな。いいだろう、であれば十一時頃にここで決着をつけよう」

 陽平はそう言うと落とした銃を拾い、その場を後にして行った。物信は陽平が完全にその場を去ったことを確認し、一息ついてその場を立ち上がり奏莓の方を向いた。奏莓は銃を内ポケットにと仕舞い、物信にと近付き襟元を掴み、突き刺すような強い言葉で物信を責めた。

「あなた本気で死にたいの?たまたま近くにいたから良かったけど、死んでたかもしれないのよ」

「あの時と殆ど同じセリフだな。確かに死んでいたかもな」

 物信のその言葉に奏莓は「だったら」と言いかけ、続きの言葉を言う前に物信が割り込むように言葉をはさんだ。

「俺は馬鹿だからさ、死とかどうでもいいんだよ。ただ単に面白そう、興味のあるものだけを追求する。昨日言っただろ、お前に興味があるって。それと同じようにエンジェルバレットが面白そうだから俺は追求する。実銃を使った殺し合いは確かに危険だ、だが銃オタの俺はこれほどにも無いほどに楽しそうなんだよ」

 物信の目には明らかに火が灯っていた。それでも奏莓は彼を戦いに巻き込ませたくないと思った。それはお節介では無く、自分の有り様が否定されるような気がしたからだ。自分は父のためにエンジェルバレットに参加した、しかし今の物信はどうだ。物信は明らかに身内の為では無く、自分の好奇心を満たすためだ。それでは自分は何のために戦っていたのかが分からなくなり、それが嫌なのである。

「そんなために自分の命を掛けれるわけ?」

「あぁ、お前は父のために戦っているんだろ?俺は人のためには生きれないからな」

「だったら、あなたの言うオヤジさんはどうなの?あなたの父に等しい人なのでしょ、その人のために生きるとかは考えないわけ」

「ッく、確かにオヤジは俺にとって父同然だ。だが、ただ生きてるだけが正しいのか?」

 物信は言い訳染みた声で言った。自分にとってただ生きているだけが正しいとは限らない、少なくとも物信はそう思っている。だから物信はその言葉が言い訳染みた言葉でも奏莓に自分の想いを真正面から告げた。すると奏莓は呆れたのか、強く掴んでいた襟元から手を外してその場を後にするように物信に背を向けて呟いた。

「あなたが私に協力したいなら勝手にして――それと、エンジェルバレットについてだけど、シルバーバレットを規定数集めればゲームに勝利すると紙には書いてあった」

 その言葉と共に奏莓はその場を去るようにして歩き出してしまった。物信は勝利にとの言葉、意味について聞こうと「どう言うことだ」と言いかけたが奏莓はその言葉を気にもかけずに去って行ってしまった。