雨燕2020/06/15 08:12
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バスから一歩外に出ると、そこには見渡す限り一面の荒野と、大きな城壁に囲まれた、一つの街だった。



「すげー。あんなの街があるんだね」



「あんなの日本には無いよねぇ。」



「本当その通り、って鎌月さん!?」



「あぁ、ごめんね。ついつい。」



 あまりにもナチュラルに会話、いや独り言に参加して来たからビックリした。なんだそれ。



 まさかの委員長乱入に驚きつつも会話を続ける。



「鎌月さんはどう思う?ここについて。」



「私は…ここが少なくとも日本じゃなくて、最悪地球ですらないと思ってるかなぁ。あんな城壁みたいなのに囲まれた国とか無かったよね。」



「まさかの異世界説浮上、か。」



 その線で考えるべきなのかな。



 すると、遠くから、荒野を駆けるキャラバンの様な集団がこちらに向かって来た。馬に乗っている。十人ぐらいかな?



「何かキャラバンみたいなのがこっちに来てない?」



「うん。一回戻るべきかな。」



 鎌月さんが声を掛けようとしたその時、



「全員止まれ。見慣れない服装だが、貴様らは何者だ?そしてあの金属の箱みたいなのは何だ?」



 あれ、普通に日本語じゃないか?あれ。

 異世界で定番の言語理解系かな?



「私達は今、ここに来たの。日本、というところから来たの。そしてアレはバス、っていう乗り物何だけど、それよりも一つ聞かせて。ここはどこなの?色々教えてくれないかしら。」



 流石委員長っすわ。口調まで少し変わってらっしゃる。



「ふむ。良いだろう。大体、日本とか言う国は聞いたことがないな。まあいい、質問に答えよう。ここは、フィーロの街前のフィーロ荒野帯だ。見たところ、武器とかの装備も何もないが大丈夫なのか?この辺りにも魔物は出るぞ?」



 『武器とかの装備』『魔物が出る』か。ここが異世界であるのは、ほとんど確定みたいだなぁ。地球じゃ普段聴かない言葉だし。展開もラノベっぽいし。



「いえ、全く大丈夫じゃないわ。できれば、みんなを安全な場所に連れて行って欲しいのだけれど。」



「31、32、ふむ。33人か。そんな武器なし装備無しで良く集団で生きてたな。」



 そんな言葉を聞くと、怖くなるのでやめてほしい。ちょっと魔物の想像とかしちゃったじゃん、ちょっとね。



「良いだろう。俺たちもちょうど街に戻るところだ。この距離なら問題ねぇよ。」



「ありがとうございます」



 通りすがりのこのキャラバンの方々には感謝ですね〜。



「まぁ、ちょっと危険が伴うかも知れないが、そこは我慢してくれよ。」



 感謝はするけど!するんだけどね!?そういうのはもう少し言うタイミングを考えて欲しかったな。







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〈フィーロの街〉



 ここがフィーロの街ですか。綺麗な街だなぁ。



「綺麗な街。日本とは違って石造りだけれど。



「まぁここまで送り届けたからな。あとは頑張れよ。」



「あ、ありがとうございました。」



 もう少し居てくれよ、キャラバンの人!



「あ、そうだ。門の憲兵が、王様に謁見許可を取ったとさ。

なんでも、戸籍のない30人以上の集団だしな。それに、戸籍なしでここに来た人間は、一度王様に素質を見て貰うらしいぞ。余りに悪いと追放されたりするが、良い結果だといいな、嬢ちゃん方。」



 なるほど?王と謁見?素質?これは勇者パターンか?なんか追放とか聞こえたけど気のせいでしょ!(フラグ)



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 なんやかんやあって、許可が出たらしく、僕たちは王様に謁見をすることに。



 ちなみに待機する時に礼儀を簡単に教えられた。まぁ、膝をついて、許可が出るまで顔をあげない、それだけだけど。

 あと、ヤンキーもどきどもがうるさかった。



「ふむ、顔を上げよ。ワシは驚いたぞ。ここに居るほとんど全員に、勇者の素質があるぞ!」



 はい、『ほとんど』出ました。落ちぶれは誰だ?



「そこのお主。貴様だけ、素質が皆無である。喧嘩を売っているレベルで素質がないではないか。一般人よりも低いステータス。魔法適性までは見えなかったが、そのステータスではダメだろうな。」



 指差したところを辿り、後ろを向く。



「貴様じゃ。今後ろを向いたお前じゃ!貴様、わしに喧嘩を売っておるのか!」



 何と、僕のことだったか。って、えぇぇ!



「え、ぼ、僕ですか?そんなに素質がないですか?もう一度よく見て下さいよ!」



「こやつ、ワシの『鑑定」が節穴だと言うのか!腹立たしい、こやつは追放じゃ!他は残せ。」



 急展開ぃぃぃ!



「ちょっと待ってください、待ってくださいよぉぉぉ!!」



 側に控えていた騎士たちが僕の両腕を塞ぎ、運び出す。僕の足での抵抗も虚しく空を切り、程なくして僕は街を追い出された。



 僕はもうこの街で無能のレッテルを貼られてしまった。その上、一人だけ追放されることになるとか最悪じゃないか!

 別の街を目指すしかないのか?どれくらいぼ距離かも分からないのに?しかも外は魔物が怖いなぁとか思ってた矢先にいきなり追放かよ!おぉ、神よぉぉ!其方は我を見放したか!



 こんなにふざけてでもいないとやってられなかった。遂に城門の兵士に引き渡され、いよいよ追い出される時。



「すいません。大丈夫ですか?」



「え?」



 そこには一人の優しそうな男の兵士が居た。



「街を追い出されたんですよね?これをどうぞ。街の外は危ないですから。何もないよりはいいはずです。職業上、バレると拙いので。頑張って生きてくださいね!では。」



「あ、あの!」



「はい?」



「ありがとうございます!!」



 そういうと、彼はニッコリ微笑んで去っていった。



 無能を助けてくれた恩は返さなきゃな。よし、希望はまだある。一本の短剣と薬瓶、地図を手に、僕は荒野に向かって走り出した。



 そして転んだ。



「痛っつ!」



 幸先悪いスタートだなぁ。