雨燕2020/06/15 08:09
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その時僕たちは、修学旅行に来ており、三泊四日の全行程が終わり、ようやく帰れると思っていたところでした。

 僕たちは6組なので、一番最後のバスで帰っていた。



「ようやく帰れる…」



 この僕、細川宗は独り呟いた。



「あー!また負けちまった!」



「京介強過ぎないー?」



「強いカードを先に使っちゃうからだ」



 こんな感じでさっきから前の席でトランプに興じているのは、スポーツ万能で尚且つ秀才なイケメン、立川京介。



 それと腰巾着の山田和樹と、新島海だ。髪を赤く染めたヤンキーもどきの二人である。



「あんた達も弱っちいのよ。もう少し学習したら?」



「そうよ、さっきから全く成長してないじゃない」



 彼女らもまた立川の取り巻きだ。



 金髪でネイルも念入りな内田美奈と、茶髪に、軽く着崩した制服の飯田蘭だ。この五人に加えて僕、と言う最悪の班なのだ。しかも、こいつらは僕にも稀に絡んでくるから、躱すのが非常に面倒だ。

 いじめられているわけではない。



 でも、こんな時は…



「立川さん達、もう少し静かにして下さいよ!」



 あぁ、流石は委員長、である。

 彼らに唯一口出しできるのは、クラス委員長の彼女位だ。



 真っ直ぐ伸ばした黒髪で、制服もキッチリ決める委員長こと、鎌月鈴乃さんである。



「寝ている人も居るんだから、もう少し声量を落として。」



「はいはい、分かりましたよっ」



 新島、あいつ反省して無いだろ…



 そんなことを思っていると、バスは山岳地帯特有の、長いトンネルに突入。



 そしてトンネルを抜けた先には…







 荒野が広がっていた。



 …は?



「ん?さっきまで山ばっかじゃなかった?」



 こう思ったのは僕だけじゃ無いようで。



「あれ、ここってどこ?」



「あ!さっき通ったトンネルがないよ!」



 飯田さんが後ろを指差す。



「確かに無い…」



 僕も釣られて後ろを見ると、さっきまで通っていた筈のトンネルは、そこには無かった。



 すると、バス内を大きな揺れが襲った。



 どうやら、バスのタイヤが、尖った岩場に乗り上げ、パンクしたらしい。



「皆さん、落ち着いてください。ただのパンクと思われます。少々お待ち下さい。」



「バスガイドさん。それよりここは何処ですか?」



「それは、 …正直に申して分かりません。私も初めて見る土地です。本当にどこなのかさっぱり…。あんなのも初めて見ます。」



 そう言ってバスガイドさんは、窓の外を指差す。



 そこには、高さ、横幅ともに30メートルを越えようと言う大きさの、西洋風な城門があった。



「ここどこだよ?」とか「大丈夫かなぁ、」とか、騒がしいバス内に、立川の声が響く。



「なぁ、一旦の様子を見てみないか?」



 いや、今ここから出るのはまずいと思うけど…



「ちょっと待って!それは今危ないよ!」



 鎌月さんも同じことを思ったようで、みんなを止めようとする。



 しかし、彼女の健闘も虚しく、クラスメイト達は外の様子を見に、外に出てしまった。



「あぁ、みんなーー!!」



 委員長がみんなを追いかけて出て行く。



 あ、委員長も行っちゃった。先生もみんなを追いに、運転手さんやバスガイドさんもバスの点検に行ってしまった。



 …でもちょっと外、気になるなぁ。



 僕は席を立った。