Chapter 1 - プロローグ
その時僕たちは、修学旅行に来ており、三泊四日の全行程が終わり、ようやく帰れると思っていたところでした。
僕たちは6組なので、一番最後のバスで帰っていた。
「ようやく帰れる…」
この僕、細川宗は独り呟いた。
「あー!また負けちまった!」
「京介強過ぎないー?」
「強いカードを先に使っちゃうからだ」
こんな感じでさっきから前の席でトランプに興じているのは、スポーツ万能で尚且つ秀才なイケメン、立川京介。
それと腰巾着の山田和樹と、新島海だ。髪を赤く染めたヤンキーもどきの二人である。
「あんた達も弱っちいのよ。もう少し学習したら?」
「そうよ、さっきから全く成長してないじゃない」
彼女らもまた立川の取り巻きだ。
金髪でネイルも念入りな内田美奈と、茶髪に、軽く着崩した制服の飯田蘭だ。この五人に加えて僕、と言う最悪の班なのだ。しかも、こいつらは僕にも稀に絡んでくるから、躱すのが非常に面倒だ。
いじめられているわけではない。
でも、こんな時は…
「立川さん達、もう少し静かにして下さいよ!」
あぁ、流石は委員長、である。
彼らに唯一口出しできるのは、クラス委員長の彼女位だ。
真っ直ぐ伸ばした黒髪で、制服もキッチリ決める委員長こと、鎌月鈴乃さんである。
「寝ている人も居るんだから、もう少し声量を落として。」
「はいはい、分かりましたよっ」
新島、あいつ反省して無いだろ…
そんなことを思っていると、バスは山岳地帯特有の、長いトンネルに突入。
そしてトンネルを抜けた先には…
荒野が広がっていた。
…は?
「ん?さっきまで山ばっかじゃなかった?」
こう思ったのは僕だけじゃ無いようで。
「あれ、ここってどこ?」
「あ!さっき通ったトンネルがないよ!」
飯田さんが後ろを指差す。
「確かに無い…」
僕も釣られて後ろを見ると、さっきまで通っていた筈のトンネルは、そこには無かった。
すると、バス内を大きな揺れが襲った。
どうやら、バスのタイヤが、尖った岩場に乗り上げ、パンクしたらしい。
「皆さん、落ち着いてください。ただのパンクと思われます。少々お待ち下さい。」
「バスガイドさん。それよりここは何処ですか?」
「それは、 …正直に申して分かりません。私も初めて見る土地です。本当にどこなのかさっぱり…。あんなのも初めて見ます。」
そう言ってバスガイドさんは、窓の外を指差す。
そこには、高さ、横幅ともに30メートルを越えようと言う大きさの、西洋風な城門があった。
「ここどこだよ?」とか「大丈夫かなぁ、」とか、騒がしいバス内に、立川の声が響く。
「なぁ、一旦の様子を見てみないか?」
いや、今ここから出るのはまずいと思うけど…
「ちょっと待って!それは今危ないよ!」
鎌月さんも同じことを思ったようで、みんなを止めようとする。
しかし、彼女の健闘も虚しく、クラスメイト達は外の様子を見に、外に出てしまった。
「あぁ、みんなーー!!」
委員長がみんなを追いかけて出て行く。
あ、委員長も行っちゃった。先生もみんなを追いに、運転手さんやバスガイドさんもバスの点検に行ってしまった。
…でもちょっと外、気になるなぁ。
僕は席を立った。