「おせぇぞヒロキ!」
「ごめんヒカル、ちょっと迷子の子供がいたから。」
そう言ってヒロキと呼ばれた青年はヒカルと呼ばれた青年と合流した。
「じゃあ行こうか!ダンジョン攻略へ!」
そう、元気よく声を上げたのはアカリ。ヒカルの幼なじみである。
「そろそろ魔王も近いんじゃない?全く……魔王倒したらゆっくりお風呂に入りたいわ…」
そう言って自分の髪をいじっているのはミノル。
そう。彼らは王から直々に魔王討伐を依頼された勇者パーティだ。
ヒカルが勇者、ヒロキが戦士、アカリが結界師で、ミノルが回復魔法師である。
「その前に飯食っていかねぇ?」
と、ヒカルが言った。
「俺もうお腹いっぱいなんだけど……」
ヒロキは嫌そうにお腹を抱えた。
だが、他のふたりは賛成だったようで、ヒロキは半ば強引に飲食店へ連れていかれた。
ヒカルが下衆な笑みを浮かべ、アカリとミノルが苦しそうな顔をしているのを知らずに。
「おお!ラッキーだな!客が誰もいねぇぞ!」
ヒカルは客が誰もいない店内を見て嬉しそうに言った。四人はアカリの提案で一番店の真ん中に近い席に座った。
(あれ……?この店……店員もいないのか?)
ヒロキは少し不安になったが、すぐにその不安を振り払った。
「何頼む?」
アカリが楽しそうに聞く。
「俺はジャングルアリゲーターの足。」
「俺あんま腹減ってないから紅茶だけでいい。」
「私はサラダにしようかしら。」
「あれ~?もしかしてミノル、ダイエット中?」
カロリーが控えめなメニューを選んだミノルを、アカリがニヤニヤしながら冷やかす。
「じゃあ私はミノルちゃんを頂こうかにゃ~?」
そう言ってアカリはミノルに抱きつく。
「ちょっと!誰もいないからってそんなことっ!そこっ…だめぇ………」
ミノルは頬を赤らめながらヒロキとヒカルに助けを求める。
「お前ら仲良いな……ヒカル、ここは頼んだ。俺注文してくるよ。」
「分かった。」
そう言ってヒロキは注文しにカウンターへ向かう。
「すいませーん!すいませーん!!あれ?いないのかな….」
「バインド!!!」
突如アカリの声が店内に響いた。
(っ!!!か、身体が………)
バインドは一定時間相手を行動不能にする魔法で、アカリの十八番だった。しかし、今その魔法はヒロキに向けられていた。
「な、何してんだ?お前ら……」
ヒロキはどうせ冗談だろうと思いながら集まってきた3人に笑いかける。
「ずっと………邪魔だったんだよ、お前が。」
ヒカルの言葉にヒロキは顔を引きつらせる。
「は、はぁ?お前、何言ってんだ?おい、アカリ、この魔法解いてくれよ。十分驚いたから。」
ヒロキがそう言ってもアカリは苦しそうな顔で「ごめん……」というだけで魔法をとこうとはしなかった。
「俺はさ、思ったんだよ。俺ら3人は上級ジョブなのに、なんでお前は中級ジョブなんだろうな?って」
この世界には上級ジョブ、中級ジョブ、初級ジョブの三つが存在する。ヒカル、アカリ、ミノルの3人のジョブは上級ジョブで、ヒロキだけ中級ジョブだった。
「それで俺たちは、お前は役に立たないどころか、俺たちの足を引っ張ってるんじゃねぇかって思ったわけ。」
「さ、さっきから何言ってんだよ。訳わかんねぇ____」
「ミノル」
ヒカルに名前を呼ばれたミノルは
「デス·センテンス」
「あ“ぁ“ぁ“ぁ“っ!!!!!」
死の呪いをヒロキにかけた。
ミノルは基本的に回復魔法重視の魔法使いだが、呪術にも長けていた。しかも死の宣告はその中でもかなり上位の呪術で、一定時間対象に激痛と苦しみを与えてから殺す、とても残酷な呪術だった。
「な“ん“て“…………た“………ガハッ!あ“ぁ“……」
ヒロキの穴という穴から血が吹き出て、見るにも耐えない姿にアカリとミノルは目を逸らした。
(なんで……俺が…死ななきゃいけないんだよ…………なんで)
『そんなの簡単なことさ。』
(ッ!誰だ!)
ヒロキは気がつくと黒い空間にたっていた。
『お前に、力がないからだよ。』
(だから、誰だって言ってるんだよ!)
『俺か?俺は死神さ。お前を迎えに来たんだよ。』
そう言って死神はケラケラと笑う。
『でも、気が変わったんだ。俺はもう一度立ち上がったお前を見たくなってきた。』
(どういうことだ!)
『簡単さ。お前に力をやる。』
(力……)
『そうだ。力だ。お前が殺される責任はお前にはない。お前の力にあるんだ。』
(俺が死ぬのは俺のせいじゃなく、俺の力のせい?俺の力も俺のものなんだから、俺のせいじゃないのか?)
『頭の硬いやつだな。そういうのはどうでもいいんだよ。大体のラノベ作家はこういうことにしてるだろ?』
(らの……なんて?)
『まあいい。俺はお前の意見が聞きたいんだ。』
(俺の、意見?)
『そうだ。お前は、アイツらが憎いか?』
(そんなことは!)
『いいや、あるね。お前はアイツらが憎くてたまらない。そうだろ?自分に正直になれよ。我慢は美容の敵だぜ?』
(……そんな、ハズ………あれ?俺……なんでだろ。凄く、イライラする。)
『そう。それが憎しみだ。お前は、その憎しみを晴らすためには、どんな手段も選ばない。そうだろ?』
(俺は…………憎い………そうだ。なんで気づかなかったんだろう……あいつらは俺を、裏切ったんだ。ずっと…信じてたのに…………仲間だと思ってたのに…)
『可哀想に。ずっと信頼していた仲間に裏切られて、心にぽっかり穴が空いただろう?そこに、憎しみ、怒りがどんどん溜まっていく。お前の心の傷を埋めるようにな。どんどん、溜まっていく。』
(憎い………憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い…あいつら……絶対に、許さない。)
『その意気だ。でも、お前の力じゃ奴らに歯が立たない。力がないからな。』
(力が………欲しい)
『いいだろう。お前が望むならどんな力もくれてやる。』
(本当か!?じゃあ、アイツらだけでなく、これから先俺には向かうヤツら全員を蹂躙できる力が欲しい。頼めるか?)
『フッハハハハハハハ!面白いじゃないか!いいだろう。いくらでもやろう。その代わり、俺に見せてくれ!お前の生き様を!』
「ッ!ど、どうして立てる!!もうとっくに死んでいるはずだろ!」
ヒカルが恐怖に震える。
ヒロキはゆっくりと立ち上がる。その髪はいつの間にか黒から白に変わっていた。恐らく呪いの影響だろう。
「お前ら………本当に仲良いな。みんなして俺を裏切ってさぁ。」
「ま、待て!冗談だ!俺がお前を殺す?そんなわけないだろ!」
ヒカルは必死に裏切りをなかったことにしようとした。
「うるさい。失せろ。」
そう、ヒロキが睨んだ瞬間、ヒカルは声を出す間もなく、消し炭になった。
「ひ、ヒカル………?」
ミノルが今にも消えそうな声でヒカルの名前を呼ぶ。アカリに関しては恐怖で立っていられずしりもちを着いている。
「ヒカルは死んだよ。俺が殺した。」
そんな2人にヒロキが現実を突きつける。
「う、嘘でしょ………ヒカル?どこかに隠れているんでしょ?答えてよヒロキ!ヒカルをどこに隠したのよ!」
アカリが涙を流しながら絶叫した。
「はぁ、呆れた。そもそもお前らは俺を殺そうとしただろ?人を殺していいのは人に殺される覚悟ができてるやつだけだ。もしかして、お前らはそんな覚悟もなく俺を殺そうとしたのか?」
ヒロキが呆れたように言った。もうほとんど昔のヒロキの面影が残っていなかった。
『で?こいつらどうすんのよ?俺が思うに、こいつらは勇者サマに命令されて、嫌々やったって感じみたいだけど?』
ヒロキの頭の中で死神の声が響いた。
(見逃す。今殺しても面白くないし。殺すのもめんどくさい。疲れたし。)
そう頭の中で死神に言ったヒロキは二人に、
「いいか?お前ら。王には『勇者ヒカルと、戦士ヒロキは、迷宮攻略で命を落とした。』って伝えておけ。余計なことを言ったら殺す。わかったな?」
「ま、待って!行かないでヒロキ!私たち、本当はもっと、ヒロキと居たかったの!だから、お願い……待っ____」
「うるさい。」
ヒロキはミノルの言葉を遮り、2人を睨んだ。すると、2人は意識を失い、その場に倒れ込んだ。
「さようなら。また会えるといいな。」
そう言って一瞬昔のヒロキのように優しい顔を見せ、店を去っていった。
「___ノル____ミノル!」
「ん……ここは?」
ヒロキが去った数分後、2人は目を覚ました。
「ヒロキ!!ヒロキはどこ!?」
ミノルはハッとなり店内を見渡す。
「ねぇミノル………ヒカルもヒロキもいなくなっちゃった………これからどうしよう?」
アカリは涙目でミノルを見る。
「ヒロキ…………ヒカル………」
ミノルは膝をつき、
「ごめんなさい………本当にごめんなさい…………お願いだから、帰ってきてよ……ヒロキ………」
と涙を流しながら、必死に何かに訴えていた。