激神2020/05/29 15:11
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 調査船の格納庫にエリカ、イアーナ、ロバート、三人の姿がある。

 三人の目の前には全長約50mの小型調査船があり、搬入ハッチから装備を入れながら乗り込んでいく。

『積み込み終わったわよ。』

 イアーナがけだるげに二人に呼び掛けた。

 いち早く操舵室にはいったロバートが返事をする。

「了解、ジム準備完了だ。」

「わかった、気をつけてな。」

 格納庫の空気が抜かれ、外部ハッチが開いていく。

 目の前には先ほどエリカが眺めていた星が視界いっぱいに広がっていた。

「圧巻ね、ちょっとワクワクする。」

 エリカは目を輝かせていた。

「はしゃぎすぎるんじゃねえぞ?降りるときは抗体処置を忘れるなよ。」

 母船に残っているイオットが船間通信で忠告をし来た、出発する前偵察ポットで大気成分や微生物、ウィルスの調査をある程度行いワクチンを生成していたのである。

 エリカは三人のなかで唯一の生身の肉体を持っている、それは新人類と呼ばれる新たな人間。昔から存在する人間とマザーが作り上げた人間のハイブリットである。かつての人間よりも頭脳も力も体力も抗体も高い水準を持っているが、病気にならないわけではない。

「大丈夫、もうやってある。」

 エリカは満面の笑みでイオットに答えて親指を立てて返答した。

「そうかいそうかい、ま。きをつけな、何があるかわからん。」

「それじゃでるぞ。」

 母船から小型調査船がゆっくりと出て行った。

 操舵室からエリカは退出し、外部観測室へ向かう。

 外部観測室とは周囲の目視、大気や粒子、物質を採取、検査分析するため船の中央上部付近にあり、状況に応じて船の外部へせり出す仕組みになっており鋼鉄よりも頑丈なガラスでおおわれている。

「調査用カプセルを投下します。」

 AIがアナウンスした後握りこぶし大のカプセルが星の地表に向かって射出された。

 しばらくすると大気摩擦によって赤く変色し視界から消えていった。

「大気圏突入成功、大気の状態・・・窒素70.3%酸素25.7%アルゴン0.8%水素0.2%二酸化炭素0.1%・・・・地球とほぼ変わりがありません船外活動に問題ないと判断いたします。」

 AIの報告をエリカは確認し外部接続室へと移動、大気圏内活動用の防護服を装着していく。

 それは人類が宇宙に出始めた初期のころの宇宙服を少しスマートにした感じで、簡単に言えば宇宙服である。

 障害物がないような星ならもっと簡略化された防護服を選択するが、今回はほぼ地球と同じ環境の星であり、さらにマザーの調査結果では知的生命体が生息していてその文明レベルも高くはないという、原生生物の危険もあり万が一のことも考えると防御力は高いほうがいいのである。

『エリカ、初期調査はドローンに任せればいいじゃない?そんな危険を冒す必要はないわ。』

 イアーナは心配そうにエリカに脳内通信で話しかける。

『視界調査はドローンに任せるわ、でも物質採取は私がやりたいの。やっぱり目で見て、手で触って感じてみたいというか、リスクはあるのは承知してるけど、こんな機会めったにないし。』

『心配するこっちの身にもなってよ。まあいいわ気を付けてね、監視用ドローンも展開させる。』

 イアーナはあきれた口調でいいながらも同意の意思を示した。

「衛星軌道からの望遠観測の後に生命反応の薄い地点に降下するぞ。」

 ロバートが外部回線通信で話しかけてきた。

「了解、モニタリングは任せたわ。装備のチェックとドローンのチェックをしておくから。」

 エリカはバックパック非常用食料パックと酸素パック、医療パックを装備しステータスをみて正常であることを確認。

 サイドポーチに卵の大きさのセンサードローンを4つほど入れ、高出力レーザーと実弾を切り替え発射できるハンドガンを前腕上部に装着ユーザー登録と安全装置を解除しておく。

 そのなか衛星軌道に入り監視していた二人からの通信が入った。

「ちょっと北半球の平野部を覗いたら合戦をやってるぞ、ところどころの人家や森が焼かれてら。」

「集団戦や武器、防具を使ってるみたいね、家屋も木や石などを混ぜて建ててるみたい。一定以上の文明はあるみたいだけど・・・野蛮だわ。」

 エリカはその話を聞いてその映像を脳内で再生させる、遠方視界では黒い塊がうごめいているがズームしてみると人の形をした黒い者たちがもみくちゃになって暴力を振るっている。

 よく見るとそれらはとても毛深い、クマが人間の形をしたような者たちだった。何かの動物の頭蓋骨を兜代わりにしたり、なかには鉄製っぽい兜や盾、鎧のようなものを着ているのもいれば木の板を何枚も重ねて鎧のようにしているのもいる。武器は主に棍棒や斧のようなもののようだ。安全な後方にいる比較的豪華な装備を付けているものは鈍く光っているロングソードのようなものを掲げ大声で喚き散らしているようだ。

「人類も通ってきた道よ、知能が一定以上あるということはこういうことだと思うわ。」

 見ていて気分のいいものではないが、エリカは冷静にその様子を眺めて言った。

「わかってはいるけど実際にこういうの見るとね、関わりたくないわ。」

 イアーナは冷たくそう言い放つとなにか思うことがあるのか沈黙する。

「ま、だいたいの文明レベルもわかった接触してメリットになるのは生物学的観点ぐらいだろう、生命反応の少ない地点に着陸するぞ。」

 ロバートは観測を終え、安全そうな小さな盆地の自然な花畑に着陸地点を設定し、降下態勢にはいった。

「大気圏突入を開始します、超振動フィールドを発動します。乗組員は安全な態勢を推奨いたします。突入まで10・・・9・・」

 AIがアナウンスして星の重力圏内へ船が入っていく。

「フィールド発動、外部温度安定。10秒後に減速行動、衝撃に備えてください10・・・9・・」

 超振動フィールドとは分子、原子の振動を抑制し摩擦熱の発生を抑える空間を作り出すことでの熱害を防ぐことができるものでありエリカの世界では様々なものに応用されている。簡単に言えば電子レンジの逆の作用を起こしている。

 エリカは近くの座席に座り安全ベルトを絞めて減速の衝撃に備えた。

 ドンッ!!っと重い衝撃音とともにシートに体がゆっくり押し付けられる感覚、それもしばらくで終わり大気圏への突入は無事に終えたようだ。

「よし目的地上空だ、偵察用ドローンを出すぞ。」

 ロバートの掛け声で船から数機のドローンが周りに散っていった。

「生体反応は小動物が少々と・・・安全みたいね。」

 ドローンのモニタリングしていたイアーナが結果を報告。

「よし着陸だ。」

 小型調査船はこうして目的の星に到着したのだった。