地球衛星軌道上宇宙ステーションの近くに500隻ほどの宇宙船が停泊している。その中の一隻。
「準備はいいか?」
あごひげを少し蓄えた、体格のいい中年の男が乗組員に確認をする。
「「「準備完了!!」」」
乗組員が座席に着き安全ベルトを装着し各々返答していく。
「次元転移へのカウントダウンを開始してもよろしいでしょうか?ジム・カシム艦長。」
宇宙船のAIが先ほど号令をかけたジムへと確認を求める。
「私も準備完了だ、始めてくれ。」
「了解、カウント30秒・・・29・・・28・・・」
AIがジムの確認を得てからカウントダウンを開始する。
宇宙船の外部監視映像から周りの船たちが準備完了した準から次々と消えていくのが映し出されていた。
「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・ジャンプしします。」
AIのカウントが終わると船内の照明が消え真っ暗になる。
それから数舜。
「ジャンプ完了、無事に目的座標にたどり着きました。」
AIがアナウンスし、艦内の照明がともる。
「おっしゃ!とりあえずは自由時間でいいんだよな?艦長?」
金髪をオールバックにした細身で眼鏡をかけている乗組員の一人、イオット・バイルが気さくに声をかける。
「ああ、いいぞ。調査開始時刻は今から二時間後だ、各自セットしておくように。」
ジム艦長がイオットのほかの乗組員にも情報を通達させた。
「イオット、お前いつもぎりぎりなんだから今回はしっかりしろよ。」
白やシルバーで構成された人型ロボットがイオットに話しかける。
イオットは楽天家でマイペース、そして気分屋である。いつも指定時間ぎりぎり、もしくは遅刻は当たり前の人物だ。
それを指摘したロボットはイアーナと同じトランスヒューマノイド、ロバート・ヒツメイアである。
イオットは返答はせず右手を軽く上げながら調査船のメインルームから出て行った。
調査船の外部監視映像には太陽系のような地球に非常に似ている星が映し出されている、それをエリカは脳内で眺めていた。
その星は確かに地球に似て水もあるし大気もあり青みが買っているが、主な色は緑と茶色だった。
それは地表が地球に比べ圧倒的に多く植物や砂漠、山脈が多いためである。
『何考えてるの?』
イアーナがエリカに脳内通信で呼びかける。
『んー?いやぁすごいなぁって。』
『そうね、マザーの観測では人間に似た生命体と文明があるって聞いたけど、私たちほどの文明はなさそう。』
『マザーって何でもできるけど、なんでもは教えてくれないよね。私たちのためにならないからって。』
『親心?ってやつなのかしらね?よくわからないけど、リスクを背負う私たちの身になってほしいわ。』
イアーナは皮肉っぽく言うが嫌そうではない。マザーは人間より優れている、間違いはないだろう。
マザーが出す答えをすべてうのみにして言うとおりになっていたら、人間はマザーが作り出すロボット以下になってしまう、マザーはそれを是とはしなかった。
『よーし!じゃあ降りるための準備するかな?』
エリカが勢い良く立ち上がると、背伸びをしてメインルームから出ていこうとする。
『エリカ・アンデルセン、何があるかわからんから武器のチェックもしておけ。』
ジムがエリカを呼び止める。
『了解であります!艦長殿。』
エリカは元気よく軍隊式敬礼で答えながら退出していった。
『それじゃ、私も行きますかね?ロバート、あんたも降りるんだから準備しときなさいよ!』
イアーナは立ち上がりながらロバートに軽口をいって退出していく。
ロバートは首だけ動かしイアーナを一瞥して見送った。
「お前と一緒にするな、もう完了している。」
そうつぶやくのだった。