円柱2020/07/14 13:20
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 以下は童話の『ラプンツェル』の内容を私風に書いたものです。

 童話の『ラプンツェル』をご存知の方や知らなくても大丈夫という方は、読み飛ばして一噺に進んでいただいても大丈夫です。

(一章の話にある程度対応していますが、知らなくても私の作品はお楽しみいただけると思います。)




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 昔、二人の夫婦がいた。

 この夫婦の家の窓からは美しい庭が見えるのだが、それは高い塀で厳重に守られた魔女の庭だった。魔女は強大な力で世間から恐れられる存在であり、彼女の庭の中に入ろうとする者など誰もいなかった。

 この小さな家で暮らすうち女の方が身ごもり、夫婦は大変喜んだ。ところがそれ以降、女は病気にかかったかのように日に日に痩せ細っていった。

 

「魔女の庭にラプンツェルが作ってあるの……あのラプンツェルが食べたい! あれを食べないと死んでしまう!」

 

 げっそりと痩せこけた女は、蒼白な顔で男にそう言った。

 男は女をとても愛しており、死なせるくらいなら取ってくるしかないだろうと思い、夜に紛れて塀を越え、魔女の庭へと侵入した。そしてラプンツェルを一つ取ると家へと戻り、サラダにして女に食べさせてやった。

 すると女の様子は幾分か良くなったようであったが、翌日になるとまたすぐに食べたいと夜も眠れなくなってしまい、男はラプンツェルをたびたび取ってくるようになった。

 

 日が暮れたとある夜、男が塀を乗り越えると、そこには魔女が待ち構えていた。そして魔女は男を睨み付けながらこう言った。

 

「どうしてお前は塀を乗り越えてまで、私が丹精込めて育てたラプンツェルを取るのだ?」

「ど、どうかお許し下さい! 好き好んで盗んでいた訳ではないのです」

 

 男は答えた。

 

「魔女様の庭のラプンツェルを見た私の妻が、『あのラプンツェルが食べたい』と死にそうになってしまい……」

 

 それを聞いた魔女は軽く頷くと、幾分か視線を和らげこう言った。

 

「お前の言うことが本当なら、ここにあるラプンツェルは好きなだけ持って行っていい。その代わり、もうすぐお前達の間に産まれるであろう、子供を貰うことにする。母親のように世話をし、幸せにすると約束しよう」

 

 男は悩んだ末に頷き、その半年後、産まれた娘を魔女へと引き渡した。魔女は彼女を『ラプンツェル』と名付け、自分の住処へと連れ帰った。

 

 

 

 時は流れ、十二歳となったラプンツェルは絶世の美少女となった。すると魔女はラプンツェルを、とある森の中にある塔の中へ閉じ込めた。その塔は梯子もなければ出入り口もなく、ただ上の方に小さな窓が一つ付いているだけだった。

 魔女が塔に入ろうとする時は、塔の下に立って合言葉を叫んだ。

 

「ラプンツェル! ラプンツェル! お前の髪を下げてくれ!」

 

 ラプンツェルは金のように美しく、大層長い髪を持っていた。魔女の合言葉が聞こえると、ラプンツェルは窓に取り付けられた折れ釘にその長い髪を巻き付け、人が十人重なっても届かないような高さから下まで垂らした。そして魔女は髪を梯子にして登って来るのだった。

 

 ラプンツェルが塔に移り三年後、国の王子がこの塔の付近を馬で通りかかった時、美しい歌声が風に乗って彼の耳元へと運ばれてきた。それはラプンツェルが退屈しのぎに歌っているもので、王子はとても綺麗な声だと思いながら城へと帰った。

 後日、どうしても歌声が気になった王子は森へと入り、聞こえてくる歌に導かれ塔の近くへとやって来た。すると魔女が塔の下へとやって来てこう言った。

 

「ラプンツェル! ラプンツェル! お前の髪を下げてくれ!」

 

 それを聞いたラプンツェルが髪を垂らすと、魔女はそれを伝って上へと登って行った。これを見た王子は魔女が去った後、塔の下に立ってこう叫んだ。

 

「ラプンツェル! ラプンツェル! 君の髪を下げておくれ!」

 

 すると金色の髪が降りてきたので、王子はそれを伝い軽快に登って行った。

 男というものを見たことのないラプンツェルは王子を見て大変驚いたが、話している間に王子の優しさを知り心を許した。ラプンツェルの美貌に惚れ込んだ王子は彼女に、一緒にここを出て暮らそうと提案した。

 

「あなたと一緒に行きたいけど、このままじゃここから出られない」

 

 しかし彼女は首を横に振った。

 

「だからこれからここへ来る度に、丈夫な紐を持ってきて欲しいの。それを編んで梯子にして、私が下に降りれるようになったら……その時は、あなたの自慢の馬に乗せて、連れていってくれる?」

 

 ラプンツェルは王子の手を握ってそう言った。

 

 王子との逢瀬を重ねる内に気の緩んだラプンツェルは、ある日魔女に向かってうっかりこう言ってしまった。

 

「どうしてお婆さんはゆっくり髪を登ってくるの? あの王子は軽々と登ってくるのに」

「この子は!」

 

 魔女は甲高い声を上げラプンツェルを怒鳴りつけた。

 

「私はお前を、世間から引き離していたつもりだったが……私を騙していたのだな!」

 

 こう言ってラプンツェルの長い髪を掴んだ魔女は、大きな鋏を用いてそれを切り落としてしまった。そうして砂漠の真ん中へと連れていかれたラプンツェルは、王子を想い悲しみに暮れた。

 その後、魔女は塔へと戻った。その日の夕方頃、ラプンツェルを迎えにやって来た王子が、塔の下からこう叫んだ。

 

「ラプンツェル! ラプンツェル! 君の髪を下げておくれ!」

 

 すると魔女はラプンツェルの切られた髪を折れ釘に巻き付け、王子の元へと垂らした。意気揚々と登ってきた王子だったが、そこにいたのは魔女であった。彼女は恐ろしい目で王子を睨み付けていた。

 

「ハハハッ!」

 

 魔女は笑いながらこう言った。

 

「あの子を連れ出しに来たのだろうが、既にどこかへ行ってしまったよ。今度はお前の身の保証も出来ない。彼女とはもう二度と会うこともないだろう……!!」

 

 魔女の言葉に絶望した王子は、後先考えずに窓から飛び出した。幸い茂みに落ちたために命に別状はなかったが、落ちた拍子に目を傷つけ失明してしまっていた。


 数年後、ラプンツェルは男女の双子を産み、砂漠の真ん中で悲しい日々を送っていた。哀れな王子は彼女のいる沙漠を彷徨っていると、聞き覚えのある歌声を耳にしその方角へと進んでいく。そうしてたどり着いた王子を見るなり、ラプンツェルは抱き着いて涙をこぼした。

 その涙が王子の目に入るなり、見えないはずの彼の両眼が開いて以前のように見えるようになった。

 

 喜んだ王子がラプンツェルを連れ国へと帰ると、国民は王子の帰還を喜び二人を迎え入れた。

 さて、魔女はどこに行ったのか……それを知る者は誰もいない。