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 ある日、俺は看護師を呼んで、あづが病室に来る前に図書室に連れてってもらった。足が折れたままなので車椅子で行くハメになったが。

 図書室は文庫本や哲学書、図鑑、新聞、絵本など様々なものが置かれていた。病院の図書室だしどうせ種類は豊富じゃないだろうと思っていたが、全然そんなことはなかった。シリーズものの今月出た新刊とかもあった。患者のことがよく考えられている。

 本は好きだ。辛い現実から目を背けるのに最適だから。休み時間に草加達が絡んで来ないときは必ず本を読んでいた。でも、姉が死んで読むのをやめてしまった。姉も俺と同じように読書家だったから。本を読むと死んだ姉を思い出してしまう気がしたから。一か月経って姉が死んだのを少しずつ受け入れられるようになってから、やっとまた本が読みたくなった。

「あ、いた! なえー!」

「げっ!」

 文庫本コーナーで何を読もうか考えていると、図書室の入り口にいるあづに声をかけられた。

「げってなんだよげって!」

 俺の頭を軽く叩いて不満げにあづは叫ぶ。

「うるせぇ。ここどこだと思ってんだよ」

「あっ、わりぃ。お前、本なんて読むんだな」

 小声であづは言う。

「まぁ、病室でぼーっとしてても暇だからな」

「いや暇なら俺と話せよ!」

 また大声を出してあづは言う。

「話す訳ねぇだろ馬鹿が。後何度もいうけどここ図書室。うるさくすると出る羽目になるぞ」

「じゃあ出ればいいじゃん。早く本選べよ」

「……車椅子なんだから出らんないだろ」

 車椅子は両手で動かせるけど、出入り口のドアは一人で開けられない。

「なんで? 俺が車椅子引いてドア開ければいいだけだろ。さっ、病室戻るぞ」

 何気ない様子であづは言う。

 こいつのこういう所が気にくわない。何でもない様子で自殺した俺を助けたり、毎日どんなに邪険に俺が扱っても何食わぬ顔で会いに来るところとか、足が痛くて顔をしかめたら心配をしてくれると

ことか。あづの優しさに俺は慣れない。姉を思い出すし、なにより心を開いてしまいそうになるから。開いたら絶対にダメなのに。

 本棚から本を取ってから、俺は本当にあづに車椅子を引いてもらい、図書室を出た。