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飲酒運転してるトラックが前から突っ込んできてみんな死んだ。姉に小さな体を庇われて、俺だけ生き残った。俺と姉は三歳差で、姉はその時十六歳だった。俺は身長が高くなかったから、姉と十センチくらい差があった。俺が姉を殺した。姉に庇われて俺は死なずに済んだ。自分の分まで姉に怪我

をさせてしまった。

 その酷い事実は、すぐに親戚中に広まった。多少脚色されて。

 俺が涙目で姉に助けを求めて、姉が思わず庇ってしまったと、そう広まったのだ。

 姉は優しい人だった。

 いじめられていたせいで毎日のように泣いていた俺は、いつも姉に励ましてもらっていたから。

 絵に描いたような理想の姉だったからこそ、その脚色は余計真実味を帯びた。

 嘘だと思う奴なんて、一人もいなかったんだ。

「何でお前が生きてるんだ! 何で紫苑じゃなくてお前なんだよっ!」

 俺の胸倉を掴んで、爽月さんは叫ぶ。爽月さんは俺の従兄で、姉と交際関係にあった人だ。兄弟はダメだけど、従妹同士は交際も結婚もできるから。従妹同士の交際を冷やかす人もいた。それでも、爽月さんはその反対を押し切って交際を続けた。

 そういうことをする人がいるくらい姉は魅力的で、正義感が強い素敵な人だった。死ぬにはあまりに惜しい。――やっぱり、俺が死ねばよかったんだ。

「爽月さん、すみませ……」「黙れっ!!」

 俺の言葉を遮って、爽月さんは叫んだ。

「プロポーズするつもりだったんだよ、卒業したら! 必ず安定した職に就いて、迎えに行くって、そういうつもりだったのに……っ!!」

 胸倉から手を離して、爽月さんは泣き崩れる。

「爽月さん……」

「黙れ! 紫苑に似た声で呼ぶな!!」