指を折ってと指折り待つ彼女

Section 14 - 河野霧子の発芽②

中田祐三2021/05/23 17:48
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その日、私は具合が悪くて保健室で寝ていてウトウトとベッドでまどろんでいた。

 けど不意に扉が開く音がする。

 ああ誰か来たのかと私は瞳を閉じながら気づき、また別のことにも気づいた。

 その少し前に保険の先生が急な呼び出しで不在だったということを思い出したのだ。 

 なので私はそれを知らせようと起き上がる。

 そして周囲を囲っているクリーム色のカーテンを開くと、そこにいたのが之葉だった。

 

 彼女は急に誰かがカーテンを開けたので、驚いたのか?

 その手に持っていたものを落としてしまい、それが私の所へと転がってくる。 

 見ると、それは包帯だった。 

 拾い上げてもう一度之葉を見ると彼女はスカートのすそを下げた状態で固まっていた。

 そして私は気づく。 

 大して話もしたことのないクラスメイト、その太ももの辺りが浅黒く変色していることを。

 それはスラリとして白い彼女の肌もあって余計に際立って目に入ったきたのだ。

「どうしたの。それ…?」

 思わず質問してしまう。

「ちょ、ちょっと…転んじゃって…ええと…河野さん…だよね?」

「…それ、殴られたか、蹴られた跡よね」

 それは殴打による跡。

  私は両親の喧嘩で母がたまにつくるそれと同じだとすぐに気づいた。

「ち、違うよ…私が転んだだけだから」

 慌ててスカートのすそを上げる。

 でもそこはどうみても階段で落ちて出来るような位置ではないし、彼女の反応で嘘であることもすぐに見抜いた。

「…たしか菅原君と付き合っ…てるんだよね?」

 菅原君とは隣のクラスの男子生徒で、あまり目立つタイプではない。

 サッカー部に所属してはいるが万年補欠だということを同じサッカー部のマネージャーである友人から聞いていた。

 そしてそんな彼が之葉と付き合っているということも女子ネットワークの中で知られている。

 何歳になっても女の関心事の大部分は恋愛に関することであり、興味があろうがなかろうが必然的にそういったことは回ってくるのだ。

「…あまりそういうことしそうには見えないんだけど…誰かに相談しておいた方がいいんじゃない?」

「だ、大丈夫だから…そういうのじゃないよ…わ、私…もう行くから…」

 珍しく心配する私をそのまま残してさっさと保健室から去っていってしまう。   

 後に残された私は包帯を持って、ボンヤリと立っていた。

 そのまま保険の先生が戻ってくるまで。

 クラスメイトのカップルのDV。 果たしてどう対応すればいいのかしら?

 家に帰った私は図らずも知ってしまったそれについて自然と考えていた。

 特に親しくも無いクラスメイトの問題。

 誰かに言いふらす趣味もないし、無関係の自分がどうこう言うことでもないのだろう。

 けれどそれでもやはりそういったことを知ってしまって黙っていることへの後味の悪さに私は悩む。

 それでも私の出した結論は…?

 黙っているということだった。

 どう解決したらいいのかもわからないし、やはり友達でもない人のことをあれこれ考えたってしょうがないのだから。

 とはいえ知ってしまった以上はやはり気になってしまうのか? 

彼女のことをそれとなく目で追うようになっていたようだ。

「最近、竜宮さん良く見てるけどどうしたの?」

 

 たまに友人に言われることもあったがその度に、

「えっ?そんなことないわよ」

 

 そうやって否定していた。

 そうすれば別に親しいわけでもないその友人はすぐに気を取り直して別の話題へと映る。

 

 でもそう指摘されるのが当たり前なくらいに私は之葉のことを見続けていた。

 菅原君と之葉は特にイチャつくわけでもなく、構内では意外に二人で居ることもない。

 もしかしたらすでに別れているのか、それとも交際自体がデマだったのかもしれない。

 そう結論を出しつつも、注意深く彼女を観察してみるとたまに足を引きずっていたり、授業中に何気なくお腹を触ったりしている。

 やっぱりDVされてるのかしら? 

 一度は忘れようとは思っていたけれど異様にそれが気になってしまう。 

 そうなってしまうと精神衛生的に良くない。

 性格上、私は気になることはなんでも知りたいと思うタイプなのだ。

 だから私は真相を探ることにした。

 決断した私は私室の机の名からとある物を取り出す。

 それは通販サイトで購入して、まだ数回しか使っていなかったが性能は十分に把握している。

 まあ有り体に言えばボイスレコーダーというもので、大きさはタバコの箱くらいの大きさで、お小遣いとお年玉をはたいて買うくらいには高価ではあった代物だ。 

 今までは両親の寝室にそっと隠してはいて、喧嘩の後の『それ』を聞くために使用していたのだが、今回私は初めて自分の身内以外にそれを使うことを決意した。

 真相を知りたい。

 あるいはこれが証拠となって彼女を助けられるかもしれないという大嘘で自分を言い訳していることにはその当時は気づけなかった。

 でもそれを手にもってどこに仕掛けようかと考えているときの高揚感に酔いしれていることはかろうじて認識してはいたが…。