最期に見た景色は、綺麗な夕焼け色と藍色の空のグラデーションだった。
空なんて、まともに見たのは何年振りだっただろうか。ずっと下を向いていた私には縁遠いものだったように思う。
人生の最期の景色がこんなに綺麗なのは、神様からの餞だろうか。
それとも、これから世界とさよならする私を、「綺麗でしょ?」と嘲笑ってでもいるのか。
どちらにしても、私はもうすぐ死ぬ。
死ぬことは決まっているけれど、そこに私の意思はなかった。
不慮の事故というやつである。
高校生になって初の夏休み。よりによってその初日の出来事だった。
私こと鈴原ノドカは、友達がいない。
それは何に要因があるかと言えば、私の性格もさして良いとは言えなかったけれど、それは本質的な要因ではなく。
イジメを庇ったという、ただそれだけの真っ直ぐな理由だった。
真っ直ぐで、素直で、偽善でもなんでもない、疑いの余地すらない、ただの馬鹿だった。
昔から、自分の正義感を信じるタイプの人間だった私は、高校に入ってもそれを突き通していた。
世間一般的に言うところの「委員長キャラ」という枠組みに入る性格で、しかし周りの子はそれをウザがるというわけでもなくて、それなりに人付き合いは出来ていた方だと自分では思っている。
しかし、自分の所属するクラスで、クラスの女子の大半を占める数が一人の生徒に嫌がらせをしていることが発覚。
いじめられていたのは安藤サリという女子生徒。
あまり自分を出さない、落ち着いた子だった。
彼女がいじめられているなんて許せない。そう意気込んで、いじめの現場に割り込んだ私は、唖然とした。
「じゃあ、いじめられるの変わってくれる?」
いじめの加害者たち──ではなく、安藤サリ自身からの言葉だった。
それに呼応されるかのように、
「イイじゃんそれ。鈴原、変わってあげてよ?私たちもそろそろ安藤の反応飽きてたんだよねェ」
と、加害者側の生徒たちはあっさりと、その標的を私へと変えたのだった。