Chapter 5 - 今夜こそ、一緒に 2
時計の針が8時を指した頃。
何も知らずに帰宅した彼は、テーブルに並べられた料理を見ると、いつになく嬉しそうに笑った。
「おっ、すごいごちそうだなぁ」
「一緒に暮らし始めて今日でちょうど1年でしょ。ちょっと奮発しちゃった」
いつもは買わない、血のように赤い贅沢なワインをグラスに注ぐ。
私が最後の晩餐に乾杯しようとグラスを手に取ると、彼は床に置いた鞄の中をゴソゴソと漁った。
「乾杯の前に、ちょっといい?」
「どうしたの?」
もしかしたら『妻と復縁することになったから別れよう』と言われるのかと思いながら、ワイングラスを静かにテーブルの上に置いた。
彼は鞄の中から取り出した何かをテーブルの下に隠し持って笑っている。
「妻が妊娠したんだ。今、3か月だって」
「えっ……妊娠?」
それはあなたの子なの?
そう尋ねたいのに、言葉が何ひとつ出てこない。
彼はテーブルの下で何かをギュッと握りしめた。
まさか私の殺意に気付いて、殺られる前に殺ってしまおうと思ってる?!
妻との間に子供ができたから、邪魔な私を消してしまおうとしているの?
なんの凶器も持たず丸腰の状態の私の力では、彼の力には到底敵わないだろう。
思いもよらぬ事態に動揺して、テーブルに置いたワイングラスを倒してしまいそうになる。
ああ、でも私を殺せば、彼は一生私を忘れることはないだろう。
最期に視界に映るのが彼ならば、私はきっと幸せにこの人生を終えることができる。
憎むほど愛する彼に殺されるなら本望だ。