今夜、私を殺してよ

Chapter 6 - 今夜こそ、一緒に 3

櫻井音衣2020/10/15 19:02
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覚悟を決めたその時、彼は穏やかな笑みを浮かべて語り始めた。


「妻はすごく子どもが欲しかったのに、僕との間にはできなかったから、いろいろ悩んだり焦ったりして……。その不安を僕がわかってあげられなかったことで夫婦仲が険悪になったんだけど、妻にも再婚したい相手が現れてね……その人の子を授かったんだよ。それでやっと離婚に応じてくれて、彼と一緒にお腹の子を大事に育てていきたいって、とても幸せそうだった。少し前から離婚の事について話し合ってきたけど、今日で全部済んだから」

「えっ……?」


何それ、そんなの聞いてない。

もしかして最近帰りが遅かったのも、今日のお昼に奥さんと会っていたのもそのために?


「離婚の話が進んでること、どうして何も話してくれなかったの?」

「全部済ませてから知らせて、ビックリさせようと思って。今日までにちゃんとケジメつけたかったんだ」


彼は握りしめた手の中から、私の目の前に小さなビロードの箱を差し出した。

ゆっくりと蓋を開けると、ダイヤの指輪がキラキラと輝いている。

彼は私の手を取り、薬指に指輪をはめてくれた。


「長い間待たせてごめん。結婚しよう」


これは夢……?

まさか嘘をついて、私を油断させておいて殺そうなんて思ってないよね?

じっと指輪を見つめたまま黙り込んでいる私の様子に不安になったのか、彼はためらいがちに私の手を握った。


「プロポーズの返事……聞かせてくれるかな?」

「うん……」

「俺と、結婚してくれる?」

「はい……よろしくお願いします……」


彼のたった一言で最後の晩餐はお祝いのディナーに変わり、私の嬉し涙で殺害計画は未遂のまま幕を閉じた。

殺されたのは、私の中に芽生えたあなたへの殺意だけ。


「この先何があっても浮気だけはしないって約束して」

「言われなくても絶対にしないよ。一緒に幸せになろうな」

「うん、一緒にね」



いつか息を引き取るその時まであなただけを愛することを誓うから、これから先のあなたの人生、命掛けで私だけを愛してね。


殺したはずのあなたへの殺意が再び息を吹き返さないように。


これからはつらく悲しい罪ではなく、二人の愛情を重ねて生きて行きましょう。



─END─