オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 48 - VS.ヒュリ&ウルスス/VS.ベスタ&ディウブ 決戦④

本多 狼2020/11/15 07:27
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 今までありがとう、アウラ。

 ベスタの力に対抗するには、ベスタを倒すには……この方法しか思いつかないや。

 君と過ごせて、幸せだったよ――。

 

 今までの青とは違い、ペンダントは赤く輝いた。

 

「ごめんなさい、メル。あなたを巻き込んでしまって」

 ペンダントから、その声がした。

 悲しい、胸が張り裂けそうなか細い声だった。

 

 もう、誰も失いたくない。そのために僕は、僕にしかできないことをするんだ――。

 

 やがて、無表情な、けれどとても懐かしい声が、頭の中を駆け巡った。

「バインド……解除」

 ペンダントは瞬く間にその光を失った。

 

 ベスタの邪眼から解き放たれたメルは、ルーチェで買った小瓶を腰のかばんから取り出した。

 ふたをゆるめ、よろめいたベスタの顔面へ、思いきり投げつける。

 命中した途端、赤い粉末が飛び散った。

 それは、店内でアウラと話しながら適当に選んだ、トウガラシだった。

 

「んおおおおっ、ひぃいいいっ! 目が、目があーーっ!」

 涙を流し、顔を掻きむしるベスタ。

 

 メルは、ナイフ(一号)を拾い上げ、軽く土を払った。

 もう、その声は聞こえない。

 わカっテんジゃネぇカ、めル――とドめハやッぱリおレだヨなーッ!

 きっとそんな感じのセリフを言うんだろうな……。

 

 絆の民ではなくなったメルのナイフは、視力を奪われて悶え苦しむベスタを、たやすく貫いた。

「がはっ……そんな、俺が……負ける、なんて」

 

 ベスタは傷口を押さえながら、右へ左へふらふらと歩いてゆく。

「俺が……俺は……嘘だ、ろ……」

 

 やがてベスタは、ゆっくりと地に伏した。

 

(やッたナ、めル。ぷハーっ、ヒさシぶリのチだゼ~っ!)

「えっ? 声がまだ聞こえる……」

(こマけエこトはキにスんナっテ。まア、しイてイえバ、おレがブきダかラなンじャねエのカ?)

 

「また決まったわね! かよわい女の子が後ろからドンってする、私の『うしドン』作戦!」

 フロール隊長が、どうだと言わんばかりに胸をそらす。

 しかし、縛られたままだと気付き、照れ隠しに「あはははっ」と笑った。

 

 ベスタを失ったことで、まだ息のあるディウブが見る見るうちに年老いていく。

 おそらく、呪われたバインドの力によって、今まで無理に生かされてきたのだろう。

「アウラ……ベスタを許してやってくれ。すべての原因は、私にある。あのとき、リーダーとして仲間たちを制御できていれば、ベスタの妹が死ぬことはなかった……私には、群れをまとめる統率力が足りなかったんだ。そして、お前の大切な家族まで手に掛けてしまった……すまない……」

 アウラの鼻先が、ディウブの顔に触れる。

「あぁ、これで、ゆっくり、眠れる――ありが、とう……」

 静かに目を閉じ、事切れるディウブ。

 アウラは、その顔を優しく舐めた。

 

「やめろ~、降ろすフム~」

 フムスが正気に戻り、空で騒ぎ始める。

 ヴィオにも、やっと表情が戻った。

「は、ほえっ? ヴィオは、何してました?」

「もう大丈夫だ。すべて終わったんだ、ヴィオ」

 まだ状況が飲み込めないヴィオに、バズが優しく答えた。

 

「メル!」

 縄を解かれ、自由になった両手を広げ、フロールはメルに抱き着いた。

「いたっ、痛いよ、フロール……」

「ご、ごめんなさい」

 フロールが慌ててメルから離れる。

 

「そうだ、これを渡さなきゃ」

 メルは、かばんから袋を取り出してフロールに手渡した。

 フロールの目から、次々と涙がこぼれ落ちる。

「ありがとう……メル」

 袋から指輪を取り出して、フロールは、泣いているのか笑っているのか分からない表情になる。

「でも――この指輪はもう入らないから、新しいのを、作って、ほしいな……」

「うん」

 

 空から降りてきたストラールやフムスが、メルたちに近付いて話しかける。

 しかし、メルやフロールには、もう何を言っているのか分からなかった。

 

「そっか……自分からバインドを解除して、絆の民じゃなくなったからだね」

 ストラールとフムスを交互になでながら、メルが残念そうにつぶやいた。

 

「そうだ、アウラは!」

 

 辺りを見回して、メルはアウラを探した。

 しかし、アウラの姿は、もうどこにもなかった。

「バインドを解かれた動物は、ただの野生動物に戻る。それだけのことさ――」

 バズが、深い森を見つめながら淡々と告げた。

 

 メルも、暗い森を見つめた。

「アウラーッ!」

 反応は何もない。

 肩に乗り、頬にすり寄ってきたストラールとフムスが、とてもあたたかかった。