オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 46 - VS.ヒュリ&ウルスス/VS.ベスタ&ディウブ 決戦②

本多 狼2020/11/15 07:27
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 バズは、ウルススの力強い攻撃に押されていた。

 鋭い爪を何度も剣で受け流していたが、ついに体勢を崩し、尻餅をつく。

「しまった……」

 

 ここぞとばかりに前のめりになり、ウルススは必殺の一撃を繰り出そうと振りかぶった。

「サイゴニシテ、イイカ?」

「これで終わりね。バイバイ、バズ――」

 ヒュリが勝利を確信したようにつぶやく。

 

 しかし、苦しみの叫びを上げたのはウルススのほうだった。

 バズが至近距離から捨て身で投げつけた剣は、狙いどおりにウルススの喉元へ突き刺さった。

 間一髪で後ろに転げるように飛び退き、ウルススの一撃をかわしたものの、バズの服は鋭い爪によってズタズタに切り裂かれていた。

 

「ウグオオオオオッ!」

 苦しみのあまり思わず天を仰いだウルススは、無防備そのものだった。

 

 急降下したストラールの雷光を帯びた爪が、狂いなくウルススの眉間へダメージを与える。

 焦げた匂いと共に、骨を砕かれたウルススは、その巨体を後ろにいたヒュリへ預けるように倒れた。

「ひいっ――こ、来ないでーっ……」

 そうして、サルトゥスの森は静まり返る。

 

「終わったな――どんなに強化しても、鍛えられない場所は、ある」

ワシの大活躍じゃな。タカじゃけど……な」

 

     *

 

 目の前の相手に集中しなければいけない。そうだった……。

 アウラを気に掛けたその一瞬に、ベスタの渾身の一撃が飛んできた。

 それは易々とメルの左腕を深紅に染める。

 鋭い痛みに耐えきれず、腕を押さえながら片膝をつくメル。

 

「メルーッ!」

 アウラが、倒れそうになりながらも懸命に叫ぶ。

「まずいフム、血が……止まらないフム!」

「ダメっ、フムス! なんとかしなきゃ……なんとかしてよ!」

 今まで聞いたことのないような大声で、ヴィオも叫んでいた。

 

「まったく、使えねえオオカミだ――そして、お前!」

 ベスタが、動揺するヴィオに近付いてくる。

「小賢しい術でシールドなんか作りやがって。俺の剣の邪魔をするんじゃねぇ!」

「やっ、やめてっ!」

 ベスタは、杖を振り回すヴィオの髪を掴み、紫色に鈍く光る瞳でにらみつける。

 

「お前も……呪われろ……」

 

 ベスタがそうささやいた瞬間、ヴィオの体が激しく痙攣する。

「あ、が、はぁっ……」

 杖が手から滑り落ちる。

 気を失ったヴィオの頬を、何度も平手で叩くベスタ。

 それを止めに入ったフムスは、軽々と片手で弾き飛ばされる。

 

「起きろ」

 そう言われて目を覚ましたヴィオは、もはや、もとのヴィオではなかった。

 異変はフムスにも起きていた。明らかに目がおかしい。

 焦点が定まらずぼんやりしている。

 

「ようこそ――まつろわぬ民の世界へ」