オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 45 - VS.ヒュリ&ウルスス/VS.ベスタ&ディウブ 決戦①

本多 狼2020/11/08 02:50
Follow

 後ろ手に縛られ、気を失って倒れているフロール。その横で、焚き火を前に、ベスタは赤く染まった空を見上げていた。

 四人の姿を見つけ、うれしそうに口角を上げる。

「怖気づいて来ないかと思ったぜ。間に合って良かった――楽しみがないと、人生はつまらないからな」

 ベスタは静かに立ち上がり、首の骨を鳴らす。

 そばにいるディウブも、待ちくたびれたと言わんばかりのあくびで出迎える。

 

「お前を、倒す――」

 メルは、腰のナイフ(一号)を抜きながら、ベスタをにらみつけた。

(らスぼスとウじョう。イくゼっ、メる!)

 ん? 初めてナイフに名前を呼ばれた?

 

「動物や人の命をもてあそぶお前を、絶対に許さない」

 アウラも低いうなり声を上げ、その怒りをあらわにする。

「さあ、始めようか。最高のフィナーレを!」

 ベスタが剣を抜いた。

 それが、始まりの合図となった。

 

     *

 

 ウルススの牙や爪をかわしながら、バズは思案していた。

 さっきの俺たちの攻撃が、なぜ通じなかったのか……。

 ヒュリが、防御力向上の力をウルススに用いたとしても、効果の及ぶ時間が長すぎる。

 あれだけ長ければ、必ず反動が来て、ヒュリの体力は消耗するはずだ。

 しかし、そんな様子は見られない。

 ウルススがあれだけ巨体だとしても、必ず弱点があるはずだ。

 そいつを見つけない限り、勝ち目はない。

 こっちは一撃食らったら、終わってしまうだろう。

 

「避けてばかりじゃ、つまらなくてよ? 男を見せてほしいんだけど、ね」

 ヒュリが挑発してくる。

 

 ウルススの体はまるで城塞だ。

 だが、動物であることに変わりはない。

 それを確かめるように、バズは呼吸を整えて、左手で自分の体に触れた。

 

 胸、腹、腰、そして太ももへとその手が下りてゆく。

 ウルススの体――。クマの体――。

 毛皮、筋肉、脂肪……? もしかしたら……。

 

「ストラール、すまないが、お前に活躍してもらうぞ!」

「よいよい、素直にワシを頼ればよいのじゃ。タカじゃけどな」

 

 これがダメなら終わりだ。

 バズは、勝負の一手に賭けることにした。

 

     *

 

 ベスタの剣が、流れるようにメルを攻め立てる。

(しビれルねェ)

 かわしつつ、両手に持ったナイフ(一号と二号)で受け流しつつ、それに耐えるメル。

(コこハがマんヨ、めル!)

 ジンクの剣技に比べれば……そう思って気持ちを奮い立たせる。

「守りは任せてください」

「とにかく、チャンスを待つフム」

 

 致命傷になりそうな攻撃も――ヴィオとフムスが絶え間なく繰り出す――無数の小さな水のシールドが辛うじて弾いてくれている。

 

「チッ、余計なことを」

 

 それでも、頬や脇腹、肩などに少しずつ傷が増えている。

 いつまでも防戦一方では、ダメだ。

 

 アウラは、ディウブと戦っていた。

 攻撃の隙を見て、アウラが呼びかける。

「聞いて、ディウブ。アタシはベスタが憎い。でも……砂浜で戦ってみて、同じオオカミであるあなたを倒すべきなのか、分からなくなった」

 ディウブは攻撃の手を休めない。

「あのとき、あなたはアタシを殺せたはず。でも、そうしなかった。本当は、こんな生き方を終わりにしたい、そう思ってるんじゃない?」

 ディウブは攻撃の手を休めない。だが、うっすらと動揺が感じられる。

「アタシがベスタを倒すわ。そうすれば、あなたを縛り付ける人はいなくなるの。だから安心して――」

 ディウブの攻撃が、わずかに鈍る。

 

 しかし、それに気付いたベスタが、冷酷に命令を下した。

 

「やれ。殺してしまえ、ディウブ!」

 

 雷に打たれたかのようにディウブは痙攣し、やがて倒れた。

 だが、次の瞬間、その目がカッと見開き、紫色に怪しく輝く。

 そこからスッと立ち上がる様は、まさに操り人形そのものだった。

 

 ディウブは、嵐のような雄叫びとともに、鋭い牙と爪でアウラに襲いかかった。

 アウラは前後左右に動き回りながら、激しいディウブの攻撃をなんとかかわす。

 それでも、メルと同様に、少しずつ傷が増えていく。

 攻撃に転じられるような瞬間もあったものの、その気配は全く見られない。

 明らかに、アウラの戦い方はいつものそれとは違っていた。

 

 逃げ回る相手に効果的な攻撃を与えられず、苛立ち始めるディウブ。

 やがて、急所を狙うのではなく、所構わず攻撃をするようになる。

 そしてついに、その牙はアウラの背中を捉えた。

 

「ぐっ……うっ」

 アウラは血を流しながら、激痛をこらえながら、それでもなぜか、ディウブの牙へ自分から体を押し当てる。

 

 スピードもパワーも、ディウブにはかなわない……だったら、こうするしかない!

 

 ベスタと対峙しつつ、アウラの意図を察したメルが、左手のナイフ(二号)に力を込める。

(スてミのアいデぃア、しビれチゃウ!)

「行けっ!」

 

 次の瞬間、ナイフ(二号)はアウラの目の前に現れた。

 

 来たっ! 確実に倒すには、この距離しかないの!

 

 アウラはそれをしっかりとくわえ、振り向きざまに、体を密着させたままのディウブの横っ腹へ突き刺した。

 

 苦痛に転げまわるディウブ。だが、刺さったナイフを自力で抜くことはできない。

 やがて、黒いオオカミは諦めたように横たわる。

 

「メル……」

 それを見届けたアウラが、背中を赤く染めながら、ふらふらとメルのもとへ向かおうとする。

 

「アウラ、大丈夫?」

 今にも倒れそうなアウラへ、メルが心配そうに声を掛ける。

(おイっ、ヨそミすンじャねエ!)

 注意を促す一号の声が聞こえた。

 

 その一瞬を、ベスタはやはり見逃さなかった。