オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 40 - VS.ベスタ&ディウブ①

本多 狼2020/11/01 03:48
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 潮の香りが風に乗ってやってくる。七月の空はどこまでも青く、メルはふと、ポルテ村の懐かしい空を思った。

 初めて海を見たメルは、興味津々で海沿いの道を歩いていた。

 コルリスを出てから十二日目の朝だった。

 

 初めに異変に気付いたのは、一行の上空を飛んでいたストラールだった。

 

「妙じゃな。海の近くなのに、水鳥の気配がまるで感じられないのじゃが……」

「フムフム、なんだかおかしいフム。いないわけないフム」

 やがて、ストラールが驚きの声を上げる。

「――なんじゃ、これは! まがまがしい気を感じるぞ。いかんいかん……」

 飛んではいられないとばかりに、ストラールがふらふらとバズの肩へ降りてくる。

 

「気を付けろ、みんな」

 バズが臨戦体勢を取る。

 慌てて辺りの匂いを確認したアウラが、低いうなり声を上げ、その白く美しい尻尾を立てた。

 

「ついに見つけた――砂浜にあいつがいるわ!」

 アウラは道をそれて砂浜へ下って行く。

 みんながそれに続いた。

 

 夜の闇のように黒いオオカミ、そして、全身黒ずくめの背の高い男が、海を背に立っていた。

 男はアウラを見て、笑みを浮かべた。

「久し振り、とでも言うべきかな、アウラ。生きてまた会えるとは……まったくもってうれしい限りだ」

「ベスターッ!」

 アウラのものすごい殺気が伝わってくる。

「初めまして、みなさん。いや、何度か見かけてはいたが、声を掛けなかった。生かしておいた、と言ったほうが、正解だな」

 

 ベスタが言い終わる前に、突進して行くアウラ。

 だが、その前に立ちふさがったディウブに、簡単に弾き飛ばされる。

「ぐうっ!」

 アウラがよろよろと立ち上がり、砂にまみれた体をふるわせる。

「メルと……バザルテス、だったか。十何年も前の知り合いが、こうして立派に絆の民として覚醒してくれて喜ばしい……お前らの親のように、この手で殺せるんだからな!」

 

「お前だけは許さねぇ」

 冷静なはずのバズも、ストラールとともにベスタたちの間合いへ入っていく。

「ストラール、行けっ!」

 ディウブ目がけて上空から急降下するストラール。

 ベスタ目がけて疾走するバズ。

 二人はほぼ同時に攻撃を繰り出す。

 

 しかし……炎を纏ったストラールの攻撃はディウブに軽くいなされ、流れるように繰り出されたバズの剣戟は、すべてベスタにかわされた。

 ディウブの爪を食らったストラールは、波打ち際まで飛ばされた。

 そして、すべてをかわしたベスタは、いとも簡単にバズの懐に入り込み、みぞおちに重い一撃を打ち込んだ。

「がはっ……」

 バズが膝から倒れる。

 

「まずい……行くよ、アウラ!」

 

(きヲつケろ、アいツはべっカくダぜ)

 メルは、ベスタに向かってナイフ(一号)を放つ。

 武器も、あいつの強さを感じてるってことか……。

(カおハたイぷダけド~、あノひト、あブな~イ)

 初手はかわされたものの、残る一本のナイフ(二号)を右手に握り、ベスタに攻めかかった。

 同時にアウラへ意識をつなげ、ディウブへの攻撃を任せる。

 アウラは風となってディウブに迫る。

 その牙は、かわそうとしたディウブの首を確かにとらえる。

 そして、ディウブの闇のような体から真っ赤な血が噴き出した。

 低い姿勢から、メルはベスタの足を狙いに行った。

 長身ゆえに下半身が弱点になる、そう考えたからだ。

 行ける!

 

 だが次の瞬間、メルは背後からディウブに体当たりされ、ベスタの足元へと倒される。

「!」

 アウラがダメージを与えたはずなのに、なぜ……?

 

「弱い、弱すぎるぞ、きさまら……笑わせるな!」

 

 うつ伏せのメルの腹に、ベスタの容赦ない蹴りが加えられる。

「うっ……ぐはっ」

「メル!」

 アウラは慌ててメルのほうへ走り出しながら、致命傷を与えたはずのディウブを見る。

 アウラは目を疑った。

 ディウブの傷口が見る見るうちに塞がっていく……。