オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 41 - VS.ベスタ&ディウブ②

本多 狼2020/11/01 03:48
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「殺せ」

 

 ベスタが言葉を発するや否や、ディウブがアウラに襲いかかった。

 その黒い塊は、目にも止まらぬ速さで激しい体当たりを繰り返す。

 お前を倒すのに牙も爪も必要ない、まるでそう言っているかのように、アウラをサンドバッグ状態にするディウブ。

 

「やめろ、もう……やめてくれ……」

 立ち上がれないメルが、ディウブに向かって叫ぶ。

 このままでは、アウラが死んでしまう――。

 アウラは、その圧倒的なパワーとスピードに付いていけず、右に左に吹き飛ばされるのみ。

 そして、ついに起き上がれなくなった。

「ごめんなさい、メル」

 

「そんな……まさか……」

「バ、バケモノだフム!」

「メルが……アウラが……」

 距離を置いて戦いの行方を見ていたヴィオたちが、信じられない光景に立ちすくむ。

 

「もう一人、絆の民がいるな。いや……二人か?」

 ベスタの標的がヴィオたちに移る。

 もはや、ベスタとディウブに立ち向かえる者はいない。

 二人がゆっくりと近付いてくる。

「まずいフム、ヴィオ、なんとかするフム」

「フムス、お願い。ヒマワリの種を食べていいから、シールドを!」

「分かったフム!」

 

 フムスは隠し持っていたヒマワリの種をこれでもかと口に含み、一気に吹き飛ばした。

 種がフムスたちの前に規則正しく並び、扇形を成す。

「お願い……鋼となってヴィオたちを守って!」

 その言葉に応じて、ヒマワリの種は光沢を放ち、三人を守るシールドとなる。

「フロールは、ヴィオたちの後ろにいてください」

「わ、分かったわ」

 

 ヴィオの持つ力を見届けて、ベスタがディウブに命じる。

「やれ――」

 ディウブは、シールドの存在など気にすることもなく、ただまっすぐに突っ込んでくる。

 そして、実際何もなかったかのように、杖を振り回すヴィオを吹き飛ばした。

 

 ヴィオは、人形のように軽々と吹き飛んだ。そして、声も出せずぐったりと横たわる。

 アリを見るような目で、震えるフムスの横を通り過ぎ、ディウブは、最後の一人となったフロールに辿り着く。

 

「い、いや……来ないで……」

 フロールが涙目になって後ずさる。

「や、やめろ……ベスタ」

 うまく声にならない叫びが、メルの口から漏れる。

「フロール!」

 助けに行こうと手足に力を入れるアウラ。だが、体が言うことを聞かない。

 メルもアウラも、バズもストラールも、一歩も動けなかった。

 

「その娘を連れて来い、ディウブ――」

 ベスタの命令を忠実に実行する黒いオオカミは、容赦なく体当たりを食らわせ、フロールを砂浜に叩きつけた。

「やめてっ……」

 そして、服の襟首をガッとくわえて、抵抗をものともせず、ベスタのもとへ引きずってくる。

 

 フロールのあごを右手で押さえ、血の気が引いたその顔を眺めながら、ベスタは言った。

「絆の民ではない、か。まあ、いいだろう。これで終わっては興ざめだ」

 気を失ったフロールを肩に担いで、ベスタは続けた。

 

「日が沈むまでに、ここから北東にあるサルトゥスの森へ来い。ひとつゲームをしようじゃないか……賞品は、もちろんこの娘だ――」

 

 ベスタとディウブは、悠然と去って行った。

 そこには、波の音だけが残されていた。