オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 39 - メルしかいないから

本多 狼2020/10/25 04:47
Follow

 シャグランとティブロンとの戦いを終えてから、メルたちは、コルリスの街を拠点にして、情報を集めることにした。

 

 旅人や商人からオオカミの話を聞けることもあったが、そこにベスタの影は感じられず、思うような成果は得られない。

 

「絆の民のみなさんとまずは合流したほうがいいと、ヴィオは思います」

「フムフム。気持ちは分かるけど、前にバズが言ってたように、固まるのは危険フム」

「アタシは、見つけた奴を片っ端からやっつけてやるわ」

「ベスタさえ倒してしまえばすべて終わる、俺はそう思うぜ」

「ワシも、その考えに賛成じゃ」

「うーん、どうしたらいいんだろう……」

 こんなやりとりを日々繰り返し、なかなか今後の方針が決まらない……。

 

 そんなある日、フロールが血相を変えてみんなのもとへ戻ってきた。

 

「みんな、聞いて聞いて! 北にある港町で、黒いオオカミを連れた男を見たって人がいるの!」

「ベスタとディウブですね、きっと」

「フムフム、はっきりしすぎて逆にあやしいフム」

「ワシも……そんな気がするのじゃが……」

「アタシは行くわ。待っていても仕方ないもの」

「どう思う、バズ?」

 みんなの考えを聞いて、メルはバズに尋ねる。

「……行ってみよう。絆の民が三人いると知って、ついに動いて来たのかもしれない」

 

 メルたちは、コルリスの北にあるヴァッサという港町へ向かうことにした。

 

     *

 

 北へ向かうにつれて、景色は寂しいものになっていった。

 あれほど華やかだったコルリスの街とは対照的に、平原が広がるばかり。

 次第に、木々はまばらになり、ごつごつとした岩山が目立つようになる。

 

「この辺りで、昔激しい戦いがあったらしい」

 まわりの様子を見ているメルに気付いて、バズが話しかける。

「そう、なんだ……」

「コルリスは、その戦いの勝利を象徴する街なんだ。だが、北に住む人々はまだ貧しい生活を強いられている。俺はいつか、この辺りに木を植えて、そして森をよみがえらせたい」

「素敵だね、バズ。僕も、手伝うよ」

「そういえば、ポルテ村は林業が盛んだったな。そのときは、頼りにしてるぜ、メル」

 

     *

 

 その日も、いつもの分担で、メルとアウラは狩りに出かけた。

 しかし、森も川もなく、獲物が見つかる気がしない。

 コルリスで手に入れた食べ物も、底をついてきている。

 二人で集中して辺りの様子を探るが、動物の気配は感じられない。

 

「ここ二、三日は収穫ゼロだね」

「仕方ないわね……フロールがまた、食べられる野草を採ってきてくれるわよ」

「また草かぁ」

 メルががっくりと肩を落とす。

 そして、かばんの中をのぞきながら、また、ぼやく。

「塩、コショウ、砂糖……はぁ、調味料ならあるのになぁ」

「いつの間にその中に――」

「はぁ~」

 

「ねえ、メル」

「なあに?」

「いざとなったら――死と隣り合わせになったら……アタシを食べていいわよ」

「!」

 まさかの発言に、メルが固まる。

「生きるか死ぬかの状況になったら、アタシはそれでかまわない」

 

 メルはアウラをまっすぐに見つめる。

 もう、さっきまでの無気力さは見られない。

「そんなこと、もう絶対に言わないで……僕は諦めないよ。どんな状況になっても、アウラと一緒に生き残る方法を、絶対に探してみせる」

 

「ありがとう、メル。ちょっと冗談が過ぎたかも――謝るわ」

「そうだよ、アウラ。グルルルーッって、どんなときも向かって行くのがアウラなんだから」

「それはそれで、アタシがただ凶暴なだけみたいじゃない?」

「え?」

 メルが申し訳なさそうに、頭をかく。

 

「アタシは、メルを信頼しているわ。バインドしたからじゃない。メルと今まで旅をしてきて、一人の人間として見てきて、心からそう思ってる」

「あ、ありがとう」

 アウラのあたたかい体が、そっとメルの足に触れる。

 そして、メルを見上げて静かに告げた。

「アタシには……すべてを失ったアタシには……もう家族と呼べる人はメルしかいないから」

「アウラ……」

 メルは膝をついて、アウラを優しく抱きしめた。