Chapter 39 - メルしかいないから
シャグランとティブロンとの戦いを終えてから、メルたちは、コルリスの街を拠点にして、情報を集めることにした。
旅人や商人からオオカミの話を聞けることもあったが、そこにベスタの影は感じられず、思うような成果は得られない。
「絆の民のみなさんとまずは合流したほうがいいと、ヴィオは思います」
「フムフム。気持ちは分かるけど、前にバズが言ってたように、固まるのは危険フム」
「アタシは、見つけた奴を片っ端からやっつけてやるわ」
「ベスタさえ倒してしまえばすべて終わる、俺はそう思うぜ」
「ワシも、その考えに賛成じゃ」
「うーん、どうしたらいいんだろう……」
こんなやりとりを日々繰り返し、なかなか今後の方針が決まらない……。
そんなある日、フロールが血相を変えてみんなのもとへ戻ってきた。
「みんな、聞いて聞いて! 北にある港町で、黒いオオカミを連れた男を見たって人がいるの!」
「ベスタとディウブですね、きっと」
「フムフム、はっきりしすぎて逆にあやしいフム」
「ワシも……そんな気がするのじゃが……」
「アタシは行くわ。待っていても仕方ないもの」
「どう思う、バズ?」
みんなの考えを聞いて、メルはバズに尋ねる。
「……行ってみよう。絆の民が三人いると知って、ついに動いて来たのかもしれない」
メルたちは、コルリスの北にあるヴァッサという港町へ向かうことにした。
*
北へ向かうにつれて、景色は寂しいものになっていった。
あれほど華やかだったコルリスの街とは対照的に、平原が広がるばかり。
次第に、木々はまばらになり、ごつごつとした岩山が目立つようになる。
「この辺りで、昔激しい戦いがあったらしい」
まわりの様子を見ているメルに気付いて、バズが話しかける。
「そう、なんだ……」
「コルリスは、その戦いの勝利を象徴する街なんだ。だが、北に住む人々はまだ貧しい生活を強いられている。俺はいつか、この辺りに木を植えて、そして森をよみがえらせたい」
「素敵だね、バズ。僕も、手伝うよ」
「そういえば、ポルテ村は林業が盛んだったな。そのときは、頼りにしてるぜ、メル」
*
その日も、いつもの分担で、メルとアウラは狩りに出かけた。
しかし、森も川もなく、獲物が見つかる気がしない。
コルリスで手に入れた食べ物も、底をついてきている。
二人で集中して辺りの様子を探るが、動物の気配は感じられない。
「ここ二、三日は収穫ゼロだね」
「仕方ないわね……フロールがまた、食べられる野草を採ってきてくれるわよ」
「また草かぁ」
メルががっくりと肩を落とす。
そして、かばんの中をのぞきながら、また、ぼやく。
「塩、コショウ、砂糖……はぁ、調味料ならあるのになぁ」
「いつの間にその中に――」
「はぁ~」
「ねえ、メル」
「なあに?」
「いざとなったら――死と隣り合わせになったら……アタシを食べていいわよ」
「!」
まさかの発言に、メルが固まる。
「生きるか死ぬかの状況になったら、アタシはそれでかまわない」
メルはアウラをまっすぐに見つめる。
もう、さっきまでの無気力さは見られない。
「そんなこと、もう絶対に言わないで……僕は諦めないよ。どんな状況になっても、アウラと一緒に生き残る方法を、絶対に探してみせる」
「ありがとう、メル。ちょっと冗談が過ぎたかも――謝るわ」
「そうだよ、アウラ。グルルルーッって、どんなときも向かって行くのがアウラなんだから」
「それはそれで、アタシがただ凶暴なだけみたいじゃない?」
「え?」
メルが申し訳なさそうに、頭をかく。
「アタシは、メルを信頼しているわ。バインドしたからじゃない。メルと今まで旅をしてきて、一人の人間として見てきて、心からそう思ってる」
「あ、ありがとう」
アウラのあたたかい体が、そっとメルの足に触れる。
そして、メルを見上げて静かに告げた。
「アタシには……すべてを失ったアタシには……もう家族と呼べる人はメルしかいないから」
「アウラ……」
メルは膝をついて、アウラを優しく抱きしめた。