オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 38 - VS.シャグラン&ティブロン②

本多 狼2020/10/25 04:47
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「いやーーーっ!」

 生きながら氷像と化したメルとバズを見て、フロールが泣き叫ぶ。

「こ、こんな……ことって」

「まずいフム、大大大ピンチだフム!」

 

「頼りの男どもは、あっけなく死んじまったな」

「自分から水に入ってきたからだよォ」

 氷の波の上を滑りながら、氷像となり果てたメルとバズのもとへ二人は辿り着く。

 そして、馬鹿にしたように、メルやバズに蹴りを入れたり、尾びれで叩いたりしてみせる。

 

「ワシがなんとかしてみせるんじゃ」

 そんな二人を気にせずに、ストラールが何度も上空から急降下し、くちばしや爪で氷を砕こうと試みる。

 しかし、全く歯が立たない。

 

「今助けに行くわ」

 アウラも、メルとバズの所へ向かおうと、凍った湖の上を必死に進んでくる。

 何度も、何度も、転びながら。

 

「やめとけ、やめとけ、無駄なあがきは。この辺りの氷は、俺らが死なない限り、永久に凍ったままさ」

 

 泣いていたフロールが、シャグランの言葉に反応する。

 ――俺らが死なない限り、永久に凍ったままさ。

「!」

 つまり……あの二人を倒せば、メルとバズを救い出せる!

 

「今度は、私が助ける番よ――」

 フロールの目に、もう涙はなかった。

 その目は、希望に満ちている!

 

「そろそろ終わりにするか、ティブロン」

「食べるならやっぱり女ァ」

 氷像いじりに飽きた二人が、湖に飛び込む。

 狙いはもちろん、フロールたちの乗った舟だ!

 

 舟の上では、フロールがヴィオに何やら耳打ちをしている。

「でも……それでは……」

「私を信じて、ヴィオ――あなたなら、きっとできるわ!」

「どうする気だフム!」

 新たな獲物に向かって猛スピードで泳いでくるティブロンとシャグラン。

 迷っている時間など、もう、ない。

 

「ひ、ひーっ。サ、サメが来るーっ!」

 舟を漕いでいた漁師は、人食いザメの猛突進にすっかり怯えてしまっている。

「大丈夫よ、おじさん。私たちを信じて――ヴィオ、お願い。チャンスは、一度しかないの!」

 両手で杖を握っている不安げなヴィオを、フロールは背中からしっかりと抱きしめた。

 そのあたたかさに、その信頼できるぬくもりに、ヴィオの心は決まった。

 舟ごと食らう勢いで、ティブロンは口を大きく開けて浮上した。

「いただきまーすゥ」

 

「今よ! ヴィオ!」

「ごめんなさい――フムス!」

 そう謝りながら、ヴィオは肩にいたフムスを凶暴なサメの口へと投げ飛ばした。

「えーーーっ! 聞いてないフム~ッ!」

 

「!」

 予想外の異物が口の中に入ってきたため、シャグランを乗せたままのティブロンは、体勢を立て直すために、舟を飛び越えて水中へ戻った。

 予想外の動きを見せたティブロンから放り出されるシャグラン。

 身軽になったティブロンは向きを変え、もう一度舟の上の人間へ確実に狙いを定めて飛んだ。

 そのつもりだった……。

 

「?」

 次の瞬間、思い描いていたように飛べなかったティブロンは、自分の体が異様に膨らんだことに気付く。

 そして、理由も分からぬまま、その体は内側から弾け飛んだ。

 

 相棒を一瞬にして失ったシャグラン。

 彼は、上空から音もなく舞い降りたストラールに気付いた。

 

「さらばじゃ」

 しかし、ティブロンが突然破裂したことに困惑したままのシャグランに、その鋭い爪を避けることは、もはや不可能だった。

 

 なぜか空から降ってくる無傷のフムス。

 そのフムスをしっかり受け止めて、ヴィオがよろめく。

 そして、そのヴィオを背中から支えたのは、フロールだった。

 

「フロール隊長、やっぱりすごいです!」

「だから言ったでしょ~、ヴィオ。お姉さんに、いや――隊長に、任せなさいっ!」

 

 サメを相手に、湖では圧倒的に不利――。

 しかも予想外なことに、敵は陸上さえも自由自在に動き回り、自由自在に氷も生み出した。

 だから、フロールは考えた。

 フムスをサメの口の中へぶん投げるという、悪魔の作戦を――。

 

 フムスが流すであろう涙? いや……鼻水? よだれ?

 それらを使って、フムスを包み込むように球体のシールドを展開する。

 そして、サメの体内でシールドを一気に巨大化させる。

 それはやがて、防御のための盾ではなく、サメを内側から破壊するための恐ろしい武器となる。

 男の子の水風船を、アウラが誤って爪で破裂させたのを見て、フロールはこの作戦を思いついたのだ。

 

「ひどいフム――黙ってるなんて、あんまりフム……」

「ごめんね、フムス。でも、敵に気付かれないようにするには、こうするしかなかったの」

 フロールが、本当にすまなそうな顔で謝る。

「ワシも、さすがに驚いたものじゃ」

「フムス、頑張ったからヴィオが好きなもの買ってあげるね」

「フムフム! うれしいフム~。それならやっぱり、ヒマワリの種がいいフム!」

 

「そうだ、二人を助けなきゃ」

 フロールが辺りを見回すと、あれだけあった氷は、シャグランたちを倒したことでほとんど消え失せている。

 砂浜には、あの姉弟と一緒に手を振っているメル、バズ、そしてアウラの姿が見えた。

 

     *

 

「ありがとう――フロールの見事な作戦勝ちだ。本当に助かった」

 何もできなかったバズが、申し訳なさそうに礼を言う。

「見事だったわ、フロール。今回、アタシは役に立てなかった……ごめんなさい」

「そんなことないよ、アウラ。僕こそ何もできなかった――」

「いいのよ、みんな。私もいっぱい助けてもらったんだから。それぞれの力を合わせて勝つ――それが、絆の民ねっ! あっ……私、絆の民じゃなかった。てへっ」

「いいや、フロール。君も立派な絆の民の一員だよ」

 バズの言葉に、みんなが力強くうなずいた。