オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 34 - 過去、そして真実

本多 狼2020/10/18 02:03
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「俺は、バザルテス。バズと呼んでくれ」

 バズは、見事な剣を携えていた。

 その鍛え上げられた長身の体を見て、メルはふとジンクを思い出す。

「そして相棒の、タカのストラールだ」

 青みがかった灰色の羽を持ち、白い腹部には灰色の細く鮮やかな横斑が見える。バズと共にいくつもの戦いをくぐり抜けてきた、そんな風格が漂う。

ワシは、タカのストラールじゃ。よろしくな」

「……」

 タカなのに、ワシ……というツッコミは誰も入れられなかった。

「また、スベった」

 そう言って、バズがくすくす笑っている。

 

「バズに会えてうれしいよ。僕たち、いろいろと知りたいことがあるんだ」

「あぁ。俺も、他の仲間に会えてうれしい」

 

 メルたちは、簡単に自己紹介を済ませ、これまでの旅についてバズに説明した。

 そして、「メル」という名前に反応したバズを、フロールは見逃さなかった。

 話しているうちに、バズの表情は見る見る曇っていった。

 説明を終えたメルたちに、バズは静かに話し始めた。

 

「忘れたことはない……俺が七歳のときだ。まだ、自分が絆の民だとは知らなかった。親父とおふくろは、ある若い夫婦をかくまった。その夫婦は、一歳になる赤ん坊を誰かに預けたらしい。なぜ大事な子どもを他人に託したのか、俺には不思議だった。だが、その理由はすぐに分かった。俺の家に、動物たちを連れた連中が現れたんだ。親父たちは俺を逃がした。自分たちが戦い、犠牲になって……」

 バズは、左腕のブレスレットを握りしめながら、なおも続けた。

 それは、見慣れた青い光を放っていた。

「だから……俺はここに生きている。あとから知ったのだが、親父は絆の民のリーダーだったんだ。そして、その夫婦の子どもの名は――メル、だった……」

 

 誰もが息を飲んだ。

 誰も声が出なかった。

 真実に辿り着くことが、こんなにも苦しいなんて。

 フロールも、ヴィオも、声を殺して泣いていた。

 

「すまない、メル。あれから俺は、自分が生きるのに精一杯だった……絆の民として覚醒して、いろんな所へ行って、戦って戦って、ここまで生き延びてきた」

 そう言って、バズは頭を下げた。

 メルは、バズの肩に優しく手を乗せて言った。

「バズのせいじゃないよ、顔を上げて――父さんと母さんを知っていてくれて、ありがとう……」

 重い空気が流れる。

 

 それを変えたのは、メルだった。

「僕は……絆の民としてみんなに出会えて良かったと思ってる。こうして、自分の過去が分かって、しなければいけないことが分かって……僕は、みんなと一緒に戦って、決着をつけたい。バズも、そうだよね――」

「あぁ、もちろんだ」

 

 バズは、絆の民、そしてまつろわぬ民について語った。

 

「まつろわぬ民のリーダーはベスタ。奴は絆の民だったが、他とは違う呪われた力が覚醒したんだ。本来なら、絆の民と動物はイーブン、つまり平等だ。だが奴の力は、完全に動物を支配できる力だった。それだけじゃない。たちの悪いことに、他の絆の民にその力を植え付けることができたんだ……」

「フムフム、つまり望んでいないのに、絆の民をまつろわぬ民に洗脳できたフム?」

「そういうことになる。だから、絆の民は集団で暮らさず、散り散りになった。ベスタに支配されないために。親父たちは、奴を倒そうとした。だが……奴の呪われた力は想像以上に強大だった」

「ひどい……許せません!」

 ヴィオが叫んだ。

 

「見たことはないんだが……聞いた話によると、動物とのバインド、つまり契約を解除することもできるらしい。ただし、バインドは通常、生涯に一度きりと言われている。つまり、バインドを自ら断ち切ったら絆の民ではなくなる。せっかく相棒になった動物ともおさらばだ。だから、誰もそれを望まない」

「それに……ベスタに洗脳されたら、自分の意志でそんなこともできないのよね?」

 フロールが確認する。

「おそらく、そうだろうな。あいつの目的は、絆の民を滅ぼして、まつろわぬ民にすることだ。だから、絆の民ではない人々に手を出すことはなく、自分が中心になって大きな事件を起こすこともない。きっと、自分だけに呪われた力が与えられたことを恨んで、一族へ復讐したいんだろう」

 

「ベスタは、どこにいるの」

 アウラが、殺気をみなぎらせながら尋ねる。

「分からない。ただ、絆の民全員がその力を覚醒させるわけではない。自分が絆の民とは知らずに、一生を終える人もいる。俺も、そうなっていたかもしれない。そう考えると……覚醒すれば、ベスタたちは必ず嗅ぎ付けてくる、ということになる」

「そうか……だから十年以上たった今になって、ポルテ村でメルが襲われたのね」

 フロールが納得したように手を打った。

「こうして三人も絆の民がそろっていたら、きっと奴のほうから現れるに違いない」

 バズのその一言に、緊張が走る。

 それを打ち消すために、メルはもうひとつ知りたかったことを尋ねた。

 

「バズ……バインドで手に入れた力は、どうすれば強くできるの?」

「あぁ、手に入れられる力は人それぞれみたいだ。みんなの旅の話を聞くと――ヴィオは、フムスに防御の効果を付与できるようだ。もしかしたら、シールドの範囲を広げたり、時間を長くしたりもできそうだな。メルの力は、正直俺にも分からないところがある。動物とバインドしても、普通は会話ができるくらいで、メルたちのように体力を分け与えたり、感覚を共有したりってのは、聞いたことがない。もしかしたら、どちらかが危険な状態になったときに、自らを犠牲にして大きな力が発揮されるのかもしれない。それに、もっと驚いたのは、物を瞬間移動できる力だ。メルの場合は、武器だけのようだが……。これは『プレゼンター』と呼ばれ、百年に一人の能力とも言われている。とにかく、共に生きて絆が深まれば、バインドで得た力はより強くなり、種類も増えていくと考えられている」

「じゃあ、手に持った武器の声が聞こえるのは、その、プレゼンターだから、なんだね」

「だろうな」

「正直、会話できるわけじゃないから、微妙、なんだけどね」

「俺からしたら、うらやましいぜ、メル。それは、お前だけの特別な力なんだから」

「うん……」

 メルは、首のペンダントにそっと触れた。

 アウラだけではなく、アウラのお母さんもきっと力を貸してくれている。

 バズから絆の民の話が聞けて、本当に良かった――。

「フムフム、ちなみにバズはどんな力があるフム?」

「俺は――属性を付与できる。ストラールの攻撃に、炎や雷の力を与えるって感じだな」

 

「よーし、いつでも戦えるようにしておかなくっちゃ。隊長命令だからね!」

 涙のあとをさっと拭い、フロールはいつも以上の笑顔を作った。

 

 その後、一行は部屋割りでもめることとなる……。