Chapter 34 - 過去、そして真実
「俺は、バザルテス。バズと呼んでくれ」
バズは、見事な剣を携えていた。
その鍛え上げられた長身の体を見て、メルはふとジンクを思い出す。
「そして相棒の、タカのストラールだ」
青みがかった灰色の羽を持ち、白い腹部には灰色の細く鮮やかな横斑が見える。バズと共にいくつもの戦いをくぐり抜けてきた、そんな風格が漂う。
「ワシは、タカのストラールじゃ。よろしくな」
「……」
タカなのに、ワシ……というツッコミは誰も入れられなかった。
「また、スベった」
そう言って、バズがくすくす笑っている。
「バズに会えてうれしいよ。僕たち、いろいろと知りたいことがあるんだ」
「あぁ。俺も、他の仲間に会えてうれしい」
メルたちは、簡単に自己紹介を済ませ、これまでの旅についてバズに説明した。
そして、「メル」という名前に反応したバズを、フロールは見逃さなかった。
話しているうちに、バズの表情は見る見る曇っていった。
説明を終えたメルたちに、バズは静かに話し始めた。
「忘れたことはない……俺が七歳のときだ。まだ、自分が絆の民だとは知らなかった。親父とおふくろは、ある若い夫婦をかくまった。その夫婦は、一歳になる赤ん坊を誰かに預けたらしい。なぜ大事な子どもを他人に託したのか、俺には不思議だった。だが、その理由はすぐに分かった。俺の家に、動物たちを連れた連中が現れたんだ。親父たちは俺を逃がした。自分たちが戦い、犠牲になって……」
バズは、左腕のブレスレットを握りしめながら、なおも続けた。
それは、見慣れた青い光を放っていた。
「だから……俺はここに生きている。あとから知ったのだが、親父は絆の民のリーダーだったんだ。そして、その夫婦の子どもの名は――メル、だった……」
誰もが息を飲んだ。
誰も声が出なかった。
真実に辿り着くことが、こんなにも苦しいなんて。
フロールも、ヴィオも、声を殺して泣いていた。
「すまない、メル。あれから俺は、自分が生きるのに精一杯だった……絆の民として覚醒して、いろんな所へ行って、戦って戦って、ここまで生き延びてきた」
そう言って、バズは頭を下げた。
メルは、バズの肩に優しく手を乗せて言った。
「バズのせいじゃないよ、顔を上げて――父さんと母さんを知っていてくれて、ありがとう……」
重い空気が流れる。
それを変えたのは、メルだった。
「僕は……絆の民としてみんなに出会えて良かったと思ってる。こうして、自分の過去が分かって、しなければいけないことが分かって……僕は、みんなと一緒に戦って、決着をつけたい。バズも、そうだよね――」
「あぁ、もちろんだ」
バズは、絆の民、そしてまつろわぬ民について語った。
「まつろわぬ民のリーダーはベスタ。奴は絆の民だったが、他とは違う呪われた力が覚醒したんだ。本来なら、絆の民と動物はイーブン、つまり平等だ。だが奴の力は、完全に動物を支配できる力だった。それだけじゃない。たちの悪いことに、他の絆の民にその力を植え付けることができたんだ……」
「フムフム、つまり望んでいないのに、絆の民をまつろわぬ民に洗脳できたフム?」
「そういうことになる。だから、絆の民は集団で暮らさず、散り散りになった。ベスタに支配されないために。親父たちは、奴を倒そうとした。だが……奴の呪われた力は想像以上に強大だった」
「ひどい……許せません!」
ヴィオが叫んだ。
「見たことはないんだが……聞いた話によると、動物とのバインド、つまり契約を解除することもできるらしい。ただし、バインドは通常、生涯に一度きりと言われている。つまり、バインドを自ら断ち切ったら絆の民ではなくなる。せっかく相棒になった動物ともおさらばだ。だから、誰もそれを望まない」
「それに……ベスタに洗脳されたら、自分の意志でそんなこともできないのよね?」
フロールが確認する。
「おそらく、そうだろうな。あいつの目的は、絆の民を滅ぼして、まつろわぬ民にすることだ。だから、絆の民ではない人々に手を出すことはなく、自分が中心になって大きな事件を起こすこともない。きっと、自分だけに呪われた力が与えられたことを恨んで、一族へ復讐したいんだろう」
「ベスタは、どこにいるの」
アウラが、殺気をみなぎらせながら尋ねる。
「分からない。ただ、絆の民全員がその力を覚醒させるわけではない。自分が絆の民とは知らずに、一生を終える人もいる。俺も、そうなっていたかもしれない。そう考えると……覚醒すれば、ベスタたちは必ず嗅ぎ付けてくる、ということになる」
「そうか……だから十年以上たった今になって、ポルテ村でメルが襲われたのね」
フロールが納得したように手を打った。
「こうして三人も絆の民がそろっていたら、きっと奴のほうから現れるに違いない」
バズのその一言に、緊張が走る。
それを打ち消すために、メルはもうひとつ知りたかったことを尋ねた。
「バズ……バインドで手に入れた力は、どうすれば強くできるの?」
「あぁ、手に入れられる力は人それぞれみたいだ。みんなの旅の話を聞くと――ヴィオは、フムスに防御の効果を付与できるようだ。もしかしたら、シールドの範囲を広げたり、時間を長くしたりもできそうだな。メルの力は、正直俺にも分からないところがある。動物とバインドしても、普通は会話ができるくらいで、メルたちのように体力を分け与えたり、感覚を共有したりってのは、聞いたことがない。もしかしたら、どちらかが危険な状態になったときに、自らを犠牲にして大きな力が発揮されるのかもしれない。それに、もっと驚いたのは、物を瞬間移動できる力だ。メルの場合は、武器だけのようだが……。これは『プレゼンター』と呼ばれ、百年に一人の能力とも言われている。とにかく、共に生きて絆が深まれば、バインドで得た力はより強くなり、種類も増えていくと考えられている」
「じゃあ、手に持った武器の声が聞こえるのは、その、プレゼンターだから、なんだね」
「だろうな」
「正直、会話できるわけじゃないから、微妙、なんだけどね」
「俺からしたら、うらやましいぜ、メル。それは、お前だけの特別な力なんだから」
「うん……」
メルは、首のペンダントにそっと触れた。
アウラだけではなく、アウラのお母さんもきっと力を貸してくれている。
バズから絆の民の話が聞けて、本当に良かった――。
「フムフム、ちなみにバズはどんな力があるフム?」
「俺は――属性を付与できる。ストラールの攻撃に、炎や雷の力を与えるって感じだな」
「よーし、いつでも戦えるようにしておかなくっちゃ。隊長命令だからね!」
涙のあとをさっと拭い、フロールはいつも以上の笑顔を作った。
その後、一行は部屋割りでもめることとなる……。