Chapter 25 - VS.リュゼ&セルペンス 大蛇石①
川沿いに、まるで蛇のようなうねりを持った大きな岩が現れた。
その辺りだけ花は枯れ、代わりに深緑色の草が生い茂っている。
木々のせいで薄暗く、生ぬるい不快な風が吹いていた。
ここは、近付いてはいけない場所だ。アウラとメルは、全身でそう感じ取っていた。
アウラが周囲を見回し、感覚を総動員する。
「罠は、ないようね……」
そう言って、慎重に進んで行こうとすると、大蛇石の陰からリュゼが現れた。
「ようこそ――最高のおもてなしをさせていただきます」
メルは、アウラとともに敵との間合いをはかる。
「わたくしどもが、なぜこのようなことをしているのか。知りたくはありませんか?」
そっと、腰のナイフ(二号)に手を回す。
(アのオじサん、キもイ~)
「ディウブというオオカミを御存知ですよね、そちらのアウラさん。いいや、唯一の生き残り、と言ったほうがよろしいでしょうか?」
「!」
「わたくしどもは、ある方のご命令で、こんな大掃除をしているんですよ」
そう言ってリュゼが大蛇石の陰から引きずり出したものは……。
動物の、死体だった。
「オオカミ!」
メルが驚きの声を上げる。
「この辺りだけで十頭は始末したでしょうか。まったく、群れるしか能のない、薄汚い生き物ですよ」
リュゼの言葉にカッとなったアウラが、考えなしに突進して行く。
「絶対に、許さない!」
まずい……。
セルペンスの姿が見当たらない。
メルはとっさに意識を集中させる。
「アウラ、危ないっ!」
「JYAAAAAAAH!」
リュゼの至近距離に入り、飛びかかろうとしたそのとき、突然現れたセルペンスがアウラの後ろから絡み付いた。
「がはっ……」
アウラは地面に叩きつけられ、体のあちこちをじわじわと締め上げられる。
「ほぉ、やはりオオカミはオオカミ、ということですな。ディウブに勝るとも劣らぬその凶暴さ――」
「あんな奴と……一緒にするな!」
「これはこれは、しつけがなっておりませんね」
そう言ってリュゼは、持っている杖をアウラの腹へ振り下ろす。
「ぐはっ……」
苦痛に顔をゆがめるアウラ。
杖を握り直し、再び振り下ろそうとするリュゼ。
だが……。
(よシ、いケいケーっ!)
シュッ!
「弓矢の声、初めて聞いた――」
メルの放った矢にセルペンスが反応し、束縛から逃れたアウラが再び敵との距離を保つ。
「メル、気を付けて! あの蛇、姿を消せるわ!」
そうだ――あのセルペンス、さっき突然アウラの後ろから現れた。
「その昔、人間によって、ここで大蛇が封印されたのです。すなわち、ここは大蛇の怨念が渦巻く、セルペンスにとっての聖地……いや、復讐の舞台なのですよ!」
リュゼは、冷たい笑みを浮かべながら杖で地面を叩く。
それに応えて、姿を消したセルペンスが、何度も何度もアウラを弾き飛ばした。
アウラは立ち止まらずに、常に前後左右へと注意を向ける。
しかし、アウラもメルも全くセルペンスの気配に気付けずにいた。
見えない巨大な敵に何度も攻撃され、次第に動きが鈍っていくアウラ。
このままでは、なすすべなくやられてしまう……。
「おやおや、さっきまでの威勢の良さはどうしたのですか。もう終わりですかな」
両手を広げてつまらなそうな顔をするリュゼ。
そして、その手に持った杖の動きが明らかに変わる。
「美しい最高傑作をお見せしましょう。息もできぬほどの、恐怖を!」
リュゼの合図で、透明のセルペンスは再びアウラに絡み付いた。
その締め上げる強さは、先程とは全く違った。
「あああっ!」
苦痛にうめくアウラ。
(テきトーにネらッたラ~?)
メルはなんとか矢を放とうとするが、アウラと共に激しく動き回る見えないセルペンスに、どうしても狙いを定められない。
無理だ。
間違ってアウラに当たってしまったら……。
「なんと無様な……それでも絆の民ですか? そろそろわたくしも飽きてまいりました。セルペンス、お前の美しい牙で終わらせてしまいなさい!」
「SYAAAAAAAH!」
アウラまで噛まれてしまったら……。
居ても立ってもいられず、メルはアウラのもとへ走り出していた。
来ちゃだめ、メル!
アウラの声が、直接メルの頭の中に響いてくる。
アタシはただでは死なない。セルペンスを必ず道連れにしてみせる。
だから、逃げるのよ、メル!
僕は何もできないのか? 何もできずに終わるのか――。