オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 25 - VS.リュゼ&セルペンス 大蛇石①

本多 狼2020/09/27 05:26
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 川沿いに、まるで蛇のようなうねりを持った大きな岩が現れた。

 その辺りだけ花は枯れ、代わりに深緑色の草が生い茂っている。

 木々のせいで薄暗く、生ぬるい不快な風が吹いていた。

 ここは、近付いてはいけない場所だ。アウラとメルは、全身でそう感じ取っていた。

 

 アウラが周囲を見回し、感覚を総動員する。

「罠は、ないようね……」

 そう言って、慎重に進んで行こうとすると、大蛇石の陰からリュゼが現れた。

 

「ようこそ――最高のおもてなしをさせていただきます」

 

 メルは、アウラとともに敵との間合いをはかる。

「わたくしどもが、なぜこのようなことをしているのか。知りたくはありませんか?」

 そっと、腰のナイフ(二号)に手を回す。

(アのオじサん、キもイ~)

「ディウブというオオカミを御存知ですよね、そちらのアウラさん。いいや、唯一の生き残り、と言ったほうがよろしいでしょうか?」

「!」

「わたくしどもは、ある方のご命令で、こんな大掃除をしているんですよ」

 そう言ってリュゼが大蛇石の陰から引きずり出したものは……。

 

 動物の、死体だった。

 

「オオカミ!」

 メルが驚きの声を上げる。

「この辺りだけで十頭は始末したでしょうか。まったく、群れるしか能のない、薄汚い生き物ですよ」

 

 リュゼの言葉にカッとなったアウラが、考えなしに突進して行く。

「絶対に、許さない!」

 

 まずい……。

 セルペンスの姿が見当たらない。

 メルはとっさに意識を集中させる。

 

「アウラ、危ないっ!」

 

「JYAAAAAAAH!」

 リュゼの至近距離に入り、飛びかかろうとしたそのとき、突然現れたセルペンスがアウラの後ろから絡み付いた。

「がはっ……」

 

 アウラは地面に叩きつけられ、体のあちこちをじわじわと締め上げられる。

「ほぉ、やはりオオカミはオオカミ、ということですな。ディウブに勝るとも劣らぬその凶暴さ――」

「あんな奴と……一緒にするな!」

「これはこれは、しつけがなっておりませんね」

 そう言ってリュゼは、持っている杖をアウラの腹へ振り下ろす。

「ぐはっ……」

 苦痛に顔をゆがめるアウラ。

 杖を握り直し、再び振り下ろそうとするリュゼ。

 だが……。

 

(よシ、いケいケーっ!)

 シュッ!

「弓矢の声、初めて聞いた――」

 メルの放った矢にセルペンスが反応し、束縛から逃れたアウラが再び敵との距離を保つ。

 

「メル、気を付けて! あの蛇、姿を消せるわ!」

 そうだ――あのセルペンス、さっき突然アウラの後ろから現れた。

 

「その昔、人間によって、ここで大蛇が封印されたのです。すなわち、ここは大蛇の怨念が渦巻く、セルペンスにとっての聖地……いや、復讐の舞台なのですよ!」

 リュゼは、冷たい笑みを浮かべながら杖で地面を叩く。

 それに応えて、姿を消したセルペンスが、何度も何度もアウラを弾き飛ばした。

 

 アウラは立ち止まらずに、常に前後左右へと注意を向ける。

 しかし、アウラもメルも全くセルペンスの気配に気付けずにいた。

 見えない巨大な敵に何度も攻撃され、次第に動きが鈍っていくアウラ。

 このままでは、なすすべなくやられてしまう……。

 

「おやおや、さっきまでの威勢の良さはどうしたのですか。もう終わりですかな」

 両手を広げてつまらなそうな顔をするリュゼ。

 そして、その手に持った杖の動きが明らかに変わる。

「美しい最高傑作をお見せしましょう。息もできぬほどの、恐怖を!」

 

 リュゼの合図で、透明のセルペンスは再びアウラに絡み付いた。

 その締め上げる強さは、先程とは全く違った。

「あああっ!」

 苦痛にうめくアウラ。

(テきトーにネらッたラ~?)

 メルはなんとか矢を放とうとするが、アウラと共に激しく動き回る見えないセルペンスに、どうしても狙いを定められない。

 

 無理だ。

 間違ってアウラに当たってしまったら……。

 

「なんと無様な……それでも絆の民ですか? そろそろわたくしも飽きてまいりました。セルペンス、お前の美しい牙で終わらせてしまいなさい!」

「SYAAAAAAAH!」

 

 アウラまで噛まれてしまったら……。

 居ても立ってもいられず、メルはアウラのもとへ走り出していた。

 

 来ちゃだめ、メル!

 

 アウラの声が、直接メルの頭の中に響いてくる。

 

 アタシはただでは死なない。セルペンスを必ず道連れにしてみせる。

 だから、逃げるのよ、メル!

 

 僕は何もできないのか? 何もできずに終わるのか――。