Chapter 21 - てくてくとぴたっ
エルペトまでは、急いでも三日はかかる。頑張って今日中に距離をかせぐ手もある。
だが、歩き疲れてしまっては、敵が現れたときに戦うことができない。
メルたちは、はやる気持ちを抑えて、バーレの近くで野宿することにした。
「あ~ぁ……お金があれば宿屋に泊まって、ふかふかのベッドで眠れたのになー」
フロールが不満を漏らす。
「仕方ないよ、お金がないんだからさ」
「でも、アタシとメルで狩りをすれば、こうやって食べ物には困らないでしょ?」
目の前には、近くの森で捕まえたウサギが料理されている。
アウラと協力しながら、メルが弓矢でウサギを仕留めたのだ。
自分が動物と共に生きる絆の民と分かってから、メルは、狩りをすることに抵抗を感じるようになった。
でも、それは違うとアウラは言った。
アタシたちオオカミは、その日必要な分だけの狩りをする。人間や他の生き物もきっとそうだ。
そして、明日という日へ命をつないでいけることに感謝しながら、大切にその命をいただくのだと。
薬草に詳しいフロールは、食べられたり薬にできたりする植物やキノコを採ってきた。
味は悪くない。いや、おいしい。
「そうね。私たちピクニックに来たわけじゃない。戦うために旅をするんだもんね。勝手に付いてきたのに、宿屋に泊まりたいだなんて……ごめんなさい」
「フロール、気にしないでよ……そうだ、デザートに昼間買ったクショを食べようよ」
そう言ってメルは、クショをナイフで三等分し、自分の分をパクッと口に放り込んだ。
「あ、待って、メル!」
慌ててフロールが止めようとしたが、間に合わなかった。
「皮を食べちゃいけないのに……」
フロールは、丁寧にアウラの分の皮を取ってあげる。
「ありがとう、フロール。ちなみに、皮を食べるとどうなるのかしら……」
「こうなるの……」
フロールが指差した先で、「クション、クション」という音が鳴り始める。
「とっても甘いけど、クション、くしゃみが、クション、止まらない……ハックション!」
その後、十分近くメルのくしゃみは続いたのであった。
問題は、そのあとである……。
フロール、アウラ、メルの順番で、交代しながら見張りをすると決めたまでは良かった。
だが、アウラが当然のようにメルにくっついて寝るのを、フロールは許せない。
何も気にせず幸せそうに眠るメルを引きずって、アウラから引き離すフロール。
気付いたアウラが、てくてくとまたメルのもとへ移動し、ぴたっとくっついて眠る。
それが繰り返される……。
「ア、アウラ……見張りの、時間よ……」
やがて、交代の時間がやって来た。
アウラはすくっと立ち上がり、四方に注意を巡らせる。
フロールは、しばし考えたあと、メルに背中を預けるように横になった。
「もっと、くっついたほうが、いいんじゃない? その向きで、いいのかしら?」
アウラがわざとらしくゆっくりと言い、フロールを挑発する。
「い、い、いいのよ、今日はこれで……」
顔を赤らめて、フロールは答える。
でも、ちょっとだけメルの顔を見てみようかな?
そう思ってちらっと振り返り、メルの寝顔をのぞいてみる。
やっぱり恥ずかしい……。
フロールは、ささっともとの体勢に戻り、目を閉じる。
アウラは、優しい眼差しでその様子を眺めていた。
翌朝、二人はアウラに起こされた。
アウラはそのあともずっと、メルに代わることなく見張りをしてくれたのだ。
「ありがとう、アウラ……眠らなくていいの?」
「平気よ。特に変わったことはないわ。朝食を済ませたら、すぐに出発しましょう。ハヤブサの次は、蛇。立て続けにメルの近くに現れたのは、やっぱり嫌な予感がするから……」
「確かに、そうね。だって、ポルテ村で十年以上暮らしてきたのに、何もなかったもの」
フロールが、右手の人差し指をあごに当てながら言う。
「アタシのせい、なのかも……」
「そんなことないよ、アウラ。さぁ、食べたら急いで出発しよう!」
*
昨日と違い、空はどんよりと曇っていた。
アウラやフロールには言わなかったが、メルにも嫌な予感があった。
おそらく、アウラとバインドしていることで、感覚が鋭くなっているのだろう。
歩きながらメルは、さっきのアウラの言葉を思い返していた。
「アタシのせい、なのかも」
たとえそうだとしても、僕が助けたいと思ったのは事実だ。
とにかく、絆の民に関する情報を集めよう。
そうすれば、すべてはっきりするはずだ。