オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 14 - だめったら、ダメ!

本多 狼2020/08/29 20:41
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 ここは、どこだろう。

 僕は誰かに抱えられている。

 ずっと揺れている。走っているのかな。落ち着かないや。

 僕に向かって何か言ってるみたい。

 急にまぶしくなって顔が見えない。

 でも、懐かしい匂いだ。

 なんか、今度は別の人に抱かれている。

 こっちもいい匂いだ。落ち着くな。それにあたたかい。

 そうだ、そのはずだよ。

 だって、僕の母さんだもん。

 あれ……目もあたたかい。いや……冷たい? 

 まあ、どっちでもいいか。

 これ……涙なのかな。

 

 まぶしさにメルは目を開けた。

 その目からは、知らない間に涙がこぼれ落ちていた。

 フロールがベッドに上半身をあずけて眠っている。ずっと、そばで看病してくれていたようだ。

 

「フロール……」

 そう、優しく呼んでみる。

 起きない……。

 メルがそっと布団から出ようとすると、その動きに気付いて、フロールがはっと目を開けた。その目がメルを見つける。

「良かった、メル!」

 強く抱き着かれて、メルは思わず「いたっ……」と叫んだ。

 その声に反応し、もぞもぞとアウラも布団の中から出てきて、メルの顔を舐めた。

 それが始まりだった……。

 

「メル……なんでアウラと一緒に寝てるのよ」

「えっ?」

「アウラはメスよね、つまり、女の子、よね?」

「そう、だね――」

「だめっ!」

「なんでだよ~、動物だよ?」

「動物でも、だめったら、ダメ!」

 突然の無茶苦茶な怒り方だ。

 でも、こうなったときのフロールは、もう誰にも止められない。

 

「アタシとメルが仲良しなのが、うらやましいのね」

 雰囲気を察してアウラが言う。

「そ、そうなのかなぁ」

「だって、バインドしたってことは――人間でいうと結婚みたいなものよ。一緒に寝るわよね?」

「えーーーっ!」

「ちょっと、メル! 二人でなんの話をしてるのよ。私にも教えなさいよ!」

 フロールがメルの肩を掴んで激しく揺する。

「いたたたたっ。痛いよ、フロール……」

 

 その声を聞きつけて、ジンクが部屋に入ってくる。

「目が覚めたか、メル。大丈夫そうだな」

 フロールに気付かれないように、ジンクが目配せしながら言う。

「そうだ。母さんは……母さんは大丈夫?」

「あぁ、傷は深かったが、大丈夫だ。安心していい」

 ジンクの言葉にほっとして、メルはまた横になった。

 

「何か欲しいものはあるか」

 一瞬考えたあと、メルは答えた。

「ココア、かな」

「フロール、メルに持ってきてあげてくれ」

「嫌よ――」

「おいおい、メルはケガ人だぞ。そのくらいにしてやれよ」

「……分かったわよ。甘いもの好きのメルに、ものすごーく苦いココアを持ってきてあげるんだから!」

 フロールは、ドカドカと床を踏み鳴らしながら部屋を出ていった。

 

「すまんな。あいつはメルのことを心配してずっと泣いてたんだ。許してやってくれ」

 そう言って同じく部屋を出ようとするジンクに、メルは声を掛けた。

「ありがとう、ジンク」

「フロールにも言ってやれよ。あいつの薬の知識に、今回は助けられたようなもんだ」

 

 そうだ――。

 幼いころから、フロールは薬に詳しかった。

 確か、おばあさんに教えてもらったって言ってたな。

 薬になる植物やキノコを、森へ一緒に採りに行ったこともあった。

 大好きだったおばあさんが亡くなってからは、棚に残されていた難しい薬の本を熱心に読んでいた。

 

「私、たくさんの人を救う薬師(くすし)になるの。おばあちゃんみたいに」

 それが、フロールの口ぐせだった。

 

「ジンクがマリーを運んで……医者が来るまでの間、フロールが薬草で手当てをしてくれたのよ」

 二人だけになった部屋で、アウラが説明してくれた。

「そうか……アウラも、ありがとう」

 アウラは、メルの胸にそっとあごを乗せた。

「メルにも見えた……でしょ? アタシの過去――」

「うん」

「アタシは、家族を、そして家族同然だった絆の民のみんなを、殺された。あの黒いオオカミ……ディウブを探すわ」

「アウラの(かたき)は……ディウブっていうんだね」

「そう。そして、ベスタという男よ」

「分かった。僕も、手伝うよ。絆の民の情報を追っていけば、両親にも辿り着くだろうし」

「そうね。アタシとメルは、あの日、あの森でバインドした……絆を、結んだのね。アタシには、力を使えるようになったあなたが必要なの。これからも、よろしくね」

「うん。まだまだうまく使えないけど、頑張るよ――」