本多 狼2020/08/29 20:41
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 立ち上がれるまで回復したメルは、マリーの部屋をノックした。

「どうぞ」

 マリーの顔色は青白かった。でも、その笑顔はメルを安心させるには十分だった。

「母さん、ありがとう。それから……ごめん」

「あなたの母親だもの。あなたのすることはお見通しなのよ」

「でも、母さん、もうあんな危ないことはしないで」

「分かったわ、約束する。それから……私のことは心配しなくていいのよ。お向かいに世話焼き夫婦が住んでますからね」

 そう言って、マリーはメルの手を握った。

「うん……」

「でも、母さんが助けに入らないといけないようじゃ、まだまだよ。ジンクにしっかり鍛えてもらってから旅に出ること、いいわね?」

「うん……」

「まずはしっかり休みなさい」

「うん、母さんもね」

 

     *

                                    

 三日後から、ジンクの特訓が始まった。

 

「いいか、メル。お前は優しい。それは、悪いことじゃない。だから、お前の戦い方を身に付けるんだ」

 そう言ってジンクは、アウラのサポート役として戦う方法をメルに教え込んだ。

 狩りで学んだ技術を生かして、後方から弓を使え。

 毎日のように森を駆け回った経験を生かして、常に自分に有利な場所を把握しろ。

 アウラが攻撃しやすいように、ナイフを投げて相手の体勢を崩せ、などなど……。

 

 ジンクの指導のおかげで、次第にメルは、アウラとの息の合った攻撃ができるようになっていった。

 フロールは、時折その様子を窓から眺めては、ため息をついていた。

 

 なんで私、オオカミにやきもちをやいてるんだろう――。

 私だって、薬草とかキノコとかに詳しいんだから……メルの役に立てるんだから。

 メルのことを応援したいけど、会えなくなるなんて考えたこともなかった……。

 真剣に取り組んでいるメルを見れば見るほど、フロールは、胸が苦しくなった。