Chapter 12 - アタシは負けない
どれくらい経ったのだろう。
アウラの顔を目の前に感じて、メルは目を覚ました。
アウラが前足でメルの肩を叩く。そして小声で言った。
「あいつが近くにいる」
メルは驚いて飛び起きた。
すぐに窓の辺りをまさぐって、ナイフを手に取る。
「もう家の近くまで来てるわ。アタシたちで戦うしかない」
アウラは淡々と言い放った。
そのとき、あのハヤブサのファルが窓に降り立った。
コツコツとくちばしで窓を叩き、礼儀正しくお辞儀をする。
「我が主の使いとして参った。ディーネー様が、村を出た草原で一戦交えたいとのこと。こちらとしても、そなたたちが来るのであれば、村の者に危害を加えるつもりはない。いかがかな?」
メルは、アウラと目を合わせてから、ファルに向かって言った。
「分かった、行こう」
マリーを起こさないように、静かに外へ出て、二人はファルに付いていった。
普通に戦ったら勝ち目はない。
今日初めてナイフの特訓をした自分は、全く歯が立たないだろう。
しかし、マリーや村の人たちを巻き込みたくはない。
そんなメルの思いが伝わったのか、アウラは体をすり寄せながらメルに言った。
「いい、メル――アタシは昨日のアタシじゃない。あなたに助けられて元気になったわ。記憶が戻らないけど、アタシは負けない。そして、あなたも――」
メルは、体中が熱くなるのを感じた。
これはきっと、アウラの強い意志だ。共感だろうか、共有なのだろうか。
アウラの力が自分にも流れ込んでくるような感覚に、メルは驚くしかなかった。
同時に、それはとても頼もしかった。