Chapter 8 - ペンダント 深く青い
メルが家に入ると、マリーが夕食の準備をしているところだった。
「お帰りなさい。アウラと一緒に休んでいてね、もうすぐできるから」
メルは自分のベッドへ向かい、大の字に寝転んだ。
アウラもベッドに上がり、メルの横で丸くなった。
目まぐるしく過ぎた今日一日を、メルは思い返した。
アウラとの出会い、命を狙われたこと、そして絆の民とは、自分とは何者なのか……。
目を閉じて今日の光景を思い浮かべながら、メルは眠りに落ちていった。
*
なんだかあたたかい。
そして誰かが服を引っ張っている。
その珍しい感覚に、メルは目を覚ました。
布団の中には、アウラがいた。
「お母さんが呼んでいるわ。行きましょう」
深い眠りだと思ったが、三十分ほどしか経っていなかった。
体が休息を望んでいる。
もっと横になっていたかったが、アウラを心配させないように、メルは笑顔で言った。
「行こうか、アウラ。母さんの料理は最高だよ」
食卓には、見慣れたパンや大好きなシチューが並んでいた。
「いただきます」
今までと変わらない、ほっとする味だった。
マリーは、あれこれと今日の出来事を聞くようなことはしなかった。
いつもどおりの夕食の時間が過ぎていく。それがメルにはうれしかった。
「お母さんの料理、本当に最高ね」
メルの椅子の横で、アウラも夢中になって食べている。
マリーにそれを伝えると、
「うれしいわ、娘ができたみたいね」
と言って、アウラの目の前の皿にシチューを足した。
食事を終えると、マリーは自分の部屋から何かを持ってきた。
「メル、これはあなたの御両親から渡されたものなの」
マリーは、ペンダントの入った小箱をメルに手渡した。
丁寧に箱から取り出して、メルが首に掛ける。
深く青い、そして丸いペンダントだった。
奥のほうに何か模様が描かれているようだったが、濁っていてはっきりとは分からなかった。
「きっと、あなたを知る手掛かりになるはずよ」
「ありがとう、母さん」
「さあ、今日はゆっくり休みましょう。そうそう、明日からジンクが稽古を始めるそうよ。何を教えてくれるのかは知らないけどね」
部屋から眺める星空は、いつもと変わらずきれいだった。
ベッドのまわりには、ジンクから教わって作った本棚や机があった。
メルは物を作るのが好きだった。
家の食卓や椅子も自分で作ったものだ。
ベッドのそばの机をぼんやり眺めながら、頼まれて村の人たちのためにも家具を作ったことを思い出した。
そうやって暮らす日々が楽しかった。
誰かに喜ばれることがうれしかった。
でも、今はただ強くなりたい。そう思った。
誰かと戦うなんて、考えたこともなかった。
羊の世話をしたり、野菜を収穫したりして、これからも生きていくものだと思っていた。
けれど、隣で丸くなり眠っているアウラを見て思う。
自分の周りで起こる出来事を、受け入れ、立ち向かわなければ、と。
自分のことは自分で守れるように、大切な人たちを守れるように、そして絆の民を知るために――。
僕は強くなりたい。