オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 8 - ペンダント 深く青い

本多 狼2020/09/04 11:12
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 メルが家に入ると、マリーが夕食の準備をしているところだった。

 

「お帰りなさい。アウラと一緒に休んでいてね、もうすぐできるから」

 

 メルは自分のベッドへ向かい、大の字に寝転んだ。

 アウラもベッドに上がり、メルの横で丸くなった。

 目まぐるしく過ぎた今日一日を、メルは思い返した。

 アウラとの出会い、命を狙われたこと、そして絆の民とは、自分とは何者なのか……。

 目を閉じて今日の光景を思い浮かべながら、メルは眠りに落ちていった。

 

     *

 

 なんだかあたたかい。

 そして誰かが服を引っ張っている。

 

 その珍しい感覚に、メルは目を覚ました。

 布団の中には、アウラがいた。

 

「お母さんが呼んでいるわ。行きましょう」

 

 深い眠りだと思ったが、三十分ほどしか経っていなかった。

 体が休息を望んでいる。

 もっと横になっていたかったが、アウラを心配させないように、メルは笑顔で言った。

「行こうか、アウラ。母さんの料理は最高だよ」

 

 食卓には、見慣れたパンや大好きなシチューが並んでいた。

「いただきます」

 今までと変わらない、ほっとする味だった。

 

 マリーは、あれこれと今日の出来事を聞くようなことはしなかった。

 いつもどおりの夕食の時間が過ぎていく。それがメルにはうれしかった。

「お母さんの料理、本当に最高ね」

 メルの椅子の横で、アウラも夢中になって食べている。

 マリーにそれを伝えると、

「うれしいわ、娘ができたみたいね」

と言って、アウラの目の前の皿にシチューを足した。

 

 食事を終えると、マリーは自分の部屋から何かを持ってきた。

 

「メル、これはあなたの御両親から渡されたものなの」

 マリーは、ペンダントの入った小箱をメルに手渡した。

 

 丁寧に箱から取り出して、メルが首に掛ける。

 深く青い、そして丸いペンダントだった。

 奥のほうに何か模様が描かれているようだったが、濁っていてはっきりとは分からなかった。

「きっと、あなたを知る手掛かりになるはずよ」

「ありがとう、母さん」

「さあ、今日はゆっくり休みましょう。そうそう、明日からジンクが稽古を始めるそうよ。何を教えてくれるのかは知らないけどね」

 

 部屋から眺める星空は、いつもと変わらずきれいだった。

 ベッドのまわりには、ジンクから教わって作った本棚や机があった。

 メルは物を作るのが好きだった。

 家の食卓や椅子も自分で作ったものだ。

 ベッドのそばの机をぼんやり眺めながら、頼まれて村の人たちのためにも家具を作ったことを思い出した。

 そうやって暮らす日々が楽しかった。

 誰かに喜ばれることがうれしかった。

 

 でも、今はただ強くなりたい。そう思った。

 誰かと戦うなんて、考えたこともなかった。

 羊の世話をしたり、野菜を収穫したりして、これからも生きていくものだと思っていた。

 けれど、隣で丸くなり眠っているアウラを見て思う。

 自分の周りで起こる出来事を、受け入れ、立ち向かわなければ、と。

 

 自分のことは自分で守れるように、大切な人たちを守れるように、そして絆の民を知るために――。

 僕は強くなりたい。