オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 4 - ジンク 父のような

本多 狼2020/08/29 20:41
Follow

「さっきは本当にありがとう、ジンク」

 村へ戻る途中、落ち着きを取り戻したメルは改めて礼を言った。

「いいってことよ。なんせお前は、俺の息子みたいなもんだからな」

 ジンクは、さっきまでの殺気がまるで嘘のように、にかっと笑った。 

「そういやぁ、あの槍男、絆の民とか言ってたな……」

「ジンクは、絆の民のこと、知ってるの?」

「いいや――こういうことは、長老に聞くのが一番だろうな」

 

 メルは、本当の両親を知らない。

 十五歳の今まで、ポルテ村のマリーが育ててくれたのだ。

 メルにはそれで十分だった。

 知りたくないと言えば嘘になる。

 しかし、マリーとの、ポルテ村での生活は、とても幸せなものだった。

 だから、そんな話を育ての母にしたことはなかった。

 

 ジンクはポルテ村の木こりだ。

 優しく力持ちで、メルにとっては、とても頼りになる父のような存在だ。

 家が近いため、幼いころからメルのことを気に掛けてくれていた。

 あんな怖い顔をしたジンクを見るのは、今日が初めてだった。

 

 歩きながら、メルは今日の不思議な体験をジンクに話した。

 初めは怪訝そうな顔をしたが、ジンクはありのままを話すメルを信じてくれた。

 アウラが挨拶したものの、ジンクには鳴き声にしか聞こえないらしい。

「そいつと話せるのは、お前だけみたいだな、メル」

 そういえば、アウラだけじゃなく、あのハヤブサの言葉も聞こえていたことを、メルは思い出した。

「ここ数年、オオカミはほとんど見かけなくなった」

 ジンクは、アウラを見下ろしながら続けた。

「しかも、この森にはこんな種類のオオカミはいない」

 

 確かに、メルが以前見かけたことのあるオオカミは、茶色もしくは灰色に近い色をしていた。

 一方、アウラは雪のような美しい白だった。

 どこか遠い所から逃げてきたのだろうか?