生産性重視じゃだめですか

Chapter 1 - いじめを解決するのに生産性重視じゃだめですか?

郡山 額縁2020/08/28 14:30
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 午後二時を過ぎたことをスマホで確認すると、俺はそろそろ寝ようと思いネット小説を閉じて、スマホの電源を落とし、布団の中に潜り込んだ。



 それにしても最近の恋愛ものは、現実味のないものが多い、別にそれが悪いわけでは無いが、特に二次創作の作品を読んでいると、こうハラハラというか感情が揺さぶられないし、当たり前のように主人公を気にかけたりするのも、読んでて面白いと感じない。まぁ、恋愛経験永遠の0の俺が思うべき感情ではないと思うが。



 そんなくだらないことを考えながら意識を飛ばした。



 翌朝、スマホの着信で目を覚ました。相手は網干の様だ。



「もしもし?どうしたこんな朝から」

「もしもし燕、今日ちょっと先に駅に出て、臨時列車撮影しに行くから、駅集合でもいい?」

「さすが鉄ヲタ。朝から撮影か」

「鉄ヲタじゃねーし、ファンやし」

「了解、じゃあ駅の改札集合で」

「はいよ、それで」

「じゃあ、撮影頑張ってヲタ」

「だから、ヲタじゃないっちゅうねん!」



 スマホを充電器から外し、一回のリビングへ降りる。白いひょうたん型の机には朝食と手紙が置いてあった。



【臨時列車の出発式に出るので先行ってきます。朝食は、机に置いてます。父より】



 父の、作り置きのトーストをかじりながら、スマホでTwitterを確認する。最近情報収集は、Twitterをよく利用している。テレビニュースよりも、より自分に合ったニュースを見ることが出来るからだ。トレンドには、【甲南鉄道 SL臨時列車】と書いてあった。どうやら、今度はSLを仕入れたようだ。



 最近、甲南鉄道は鉄道ファン向けの車両を導入しているようで、この前は2年前に引退した和歌山線の105系を仕入れていたっけ。



 トーストを食べ終わったので、洗面台に向かい、歯を磨き、制服を着て、スニーカーを履き、家を出る。確か今日雨が降るとか、天気予報で書いてあった気がするので、傘を持って鍵を閉め、駅まで歩いた。



 2分程度歩くと、甲南鉄道川宮千里駅に着いた。駅舎は古く木造立てで、川宮線の終点のため、ホーム構造は三面二線の終端型駅だ。



 最近導入された自動改札を通ると、見慣れた顔がスマホを見て立っているのを発見したので、近づき声をかける。



「おい、鉄ヲタ」

「だれがや、ファンやゆうてるやろ」

「それで、SL撮れたのか」

「大宮スキーリゾートで狙ったけど、微妙かな」



 大宮スキーリゾート駅は川宮線の駅なのだがここから往復30分かかるところだ。相変わらず網干の行動力には圧倒される。



「あっそうや。燕のオトンおったで」

「あぁ、出発式に出たらしいぞ」

「ほんまに、燕のオトンが社長になってくれたおかげで、色々な車両が来てうれしいわ」

「鉄ヲタには、いいかもしれんが中古車ばかり来るから、乗り心地はそんなに良くないから通勤客としては、そんなにうれしくないんだが」

「そんな、しみったれたこといいなさんな。日本でここしか体験できへんことやねんで」

「毎日乗ってるから、そのすごさが分からない」

「まぁ、一般じーんにはわからんやろうな」

「今の伸ばしたやつ物凄く面白くない」

「ぐはっ!そこは見逃して」

「見逃すか、録音してYouTubeにあげたろか」

「やめておくれ」



 そんなどうでもいいことを話していると、駅のホームに放送が流れた。

「まもなく、1番乗り場に神川経由大宮線直通川戸行きが参ります。」



 ラッシュ時間帯限定の神川行きが来ることを知って網干はカメラを構える。



 うるさいコンプレッサー音を響かせながら、水色の車体が目の前で停車し、プシューという音で俺らがいる反対のホームの扉が開く。決してホームを間違えたわけでは無く、降車用と乗車用のホームが違うため、先に降車用側に扉が開くのだ。降車を確認すると、降車側の扉を車掌が閉め、乗車側の扉を開ける。



 俺らは乗り込むと、青いモケットの座席に座った。相変わらず停車中は様々な機器の音がうるさい。俺らが通う私立畑谷中までは、40分かかるので、結構暇な時間が多い、そのため俺は、イヤホンをつけ、音楽の再生を始めた、なんで網干と喋ったりしないのかって?網干は網干で撮影などをするからだ。この前は運転席にかぶりつき30分間も立ちっぱのまま撮影してていたので、「足が死んだ」と嘆いていた。



 乗車してから5分後、列車が発車した。決して都会の電車のような、ゆっくり出発することはなく。ガクッと揺れながら発車する。初めて乗った時は揺れに驚いて、脱線するんじゃないかと思ったほどだ。



 列車は、沢谷、甲南山里、大宮スキーリゾート、神川ダムと駅を経由し俺らの降車駅。神川しんがわ駅に到着した。



 学校最寄りの畑谷駅は大宮線の駅なのだが、この電車の進行方向とは逆なので、乗り換えをしないといけない。これが意外にもめんどくさい。神川駅は3面6線の島型駅で1、2番乗り場が大宮線山西方面。3、4番が川宮線川宮千里方面。5、6番が大宮線川戸方面なのだがその各ホームは跨線橋でつながれているので階段上り下りがあるのだ。さらに今日は川宮線直通列車なのでいつもの3番ホームではなく6番ホーム到着であったので歩く距離が伸びた。直通列車恨む。



 1番ホームに着くと。ちょうど自動放送が流れた。

「まもなく、1番乗り場に大宮スキー場方面準急山西行きが参ります。停車駅は大宮スキー場、体育公園前、山西です。」



 俺らの通う学校の最寄り駅は各駅停車のみ止まるので、準急などの特別種別には乗れない。登校初日は、半数の生徒が特別種別に乗ってしまい、遅れていたこともあった。まぁ、今になってはそんなこともないのだが。というか、準急が来たってことは後続は5分後じゃん。準急恨む。



 五分後、やっと乗る列車が到着した。川宮線とは打って変わって新型車両が来たので、若干うれしくなった。準急今回だけは許してやる。



 車内は、畑谷中の制服が半数以上を占めていた。さすがに網干はここまでくると撮影はしない。そのため、いつもこの駅からは、話始めるのだ。



 適当に話を交わすこと10分。畑谷駅に着き、列車を降車した。畑谷駅の利用者はほとんどが中学校の生徒なので、中学生専用の自動改札がある。ここを通ると学校までの専用通路を通ることができる。



 学校までは2分程度で着くので、網干とまた適当な話をしていると学校に着く。正面玄関で、靴を履き替えそのまま目の前にある北校舎の階段を上る。学校は結構きれいである。まぁ私立と言ったらキレイというのは当たり前かもしれないが、、、



 俺のクラスは2-1。網干は2-4なので、階段を上ると網干と別れ教室に戻る。クラスメイトと適当に話を交わし、授業を受け、給食を食べ、部活へ向かう。



 部活とは放送部である。実は俺はアナウンスの才能があるらしく小学6年の頃に日本一を取ったこともあった。とは言っても放送部の部活は発声練習をして、アナウンス原稿の読みを行い、ダメな点を修正するといったものだ。一か月後テレビ局主催のアナウンス大会があるので、みんな気合が入っている。まぁ、皆と言っても4人だけだが、しかも全員女子。そのおかげで女子と喋れるようになりました(笑)。

 ちなみに、俺は中1の時に優勝しているため今回は司会としての参加なので、指導役に回る。



 5時になると、部活を終了しほとんど部員が帰宅する。だが、放送担当の奴は帰れない。5時半に下校の放送を流すからだ。そして、今日の担当は俺だった。うっかり忘れていたら部員の湊川に止められた。笑顔で「お前は仕事があるだろう。何帰ろうとしているんだ?」と言われた。殺意が隠せてませんよ、湊川さん。



 5時半まで待機しているとドアがノックされた。入ってきたのは網干だった。別に女子が入ってきて告られるなど期待してはいない。

「鉄研おわったのか」

「おう、さっき終わって、カギ閉めてきた」

「五時半まで帰れないんだが、どうする?」

「まつで」

「あざます」



 五時半になると放送を非常に入れ、声をマイクに吹き込む。このときのコツは息を強くしすぎないことだ。強くすると。雑音が入るからな。誰にアドバイスしてんだおれは。



「五時半になりました。部活をしている生徒は片づけを始め、すぐに下校してください。」



 放送を終えると、放送を通常に戻し、鍵を閉め職員室に鍵を返し、階段を降りた。網干は先に行っとくと言って正門に行ったみたいだ。階段を降りると明らか罵倒している声が聞こえた。その階まで降りると。同じクラスの福山、山口、大和がいた。クラスでは仲良し三人組とか言われていたような。そんなことを思っていると大和と山口が福山に向かって、暴言を吐いているようだった。



 こういう時、どうすべきか。そう、無視するのだ。だって割り込んだりしたら被害食らうかもしれないし、何にしも絡んだにしても生産性がない。はいそこ、最低とか言わない。



 そう決意を決めた俺は、その三人組の後ろを通った。その時、山口が福山をドンと後ろに押した。そのせいで、福山は後ろに倒れ、その後ろを通ってきた俺に倒れ掛かってきた。俺は反射で福山を抑えた。そこ、ラッキースケベとか言わない。



 さて、どうしたものか。なんと強制的に絡む羽目になってしまった。どうしようか。


 今の状況を整理しよう。俺は、放送室からの帰り廊下で、いじめの現場を発見し、面倒なのでそのまま通り過ぎようと、いじめの攻撃を受けてるであろう福山の後ろを通った。すると、いじめの当事者であろう山口が福山を押し、結果的に後ろを通っていた俺が福山を受け止める状態になっていた。



 まとめよう。この状況かなりやべぇ。



 とりあえず、この状況を打開するために現実的な案を出すことにした。まずいじめの当事者であろう山口と大和をここから離さないといけない。それにはどうするか。あまり時間をかけられないので、頭をフル回転させる。



 その時、打開策が浮かんだ。この場所から彼女らを動かすには、この場所にとどまるとまずい状況を作ればいい。運よく当事者の大和は表裏のあるやつで、基本男子には表面しか見せていない、なぜか俺には裏面で接してくるが、、、。今はそんなことどうでもいい。つまり、大和は男子に今の状況を見られたくないはず。そして俺はこう言った。



「あっ、高井田じゃん」

そう、大和が結構気に入っているであろう男子の「高井田 東」の名前を呼んだ。そうすると、

「この状況を見られるとやばい、行くよ光」

そう言って、大和と山口は廊下から走って去って行った。



 奴らが見えなくなると、福山が体を立て直した。さぁ、一難去ってまた一難だ、どうやら、俺は不本意にこの案件に関わることになってしまった。そう決まれば最初は「大丈夫だった?」とか聞くのが無難だろうだが、こんな状況で大丈夫なわけがない。そう考えた俺はこう福山に声がけた。



「それでどうしたい?」

「え?」

「お前がいじめられてるのは分かった。それで、解決したいか、したくないかどっちだ?」

「解決したい」

どうやら、福山はこの状況を変えたいらしい。だが、状況を変えるというのは思った以上に難しいし、一歩間違えば、状況は悪化する場合もある。このことを福山に伝えた。



「今から、まぁまぁ重い話をする。いじめを解決するのは分かった。だが、日常を変化させるのには大変な努力もあるし、結果もついてこない場合もある。それでもいいなら、俺を頼ってくれ」

「解決したい」

「本当にいいんだな?」

「いい」



 夕日に照らされた廊下が赤く染まっている中、彼女は重い決断をした。決断をしたんなら、俺は最善を現実的に生産性のある方法で尽くすだけだ。



「とりあえず、下校時間だから、今日は帰れ。だが、帰った後落ち着いてからでいいから、どのような手段で解決したいか、決めてきてくれ」

「分かった。ありがとう」

「礼は解決してから言ってくれ」



 そう言って、福山と校門まで歩きだした、すると校門には網干が待っていた。こっちを見ると、ニヤッとしこう言った。

「彼女とお帰りですか。お熱いですな」

俺はダッシュで網干のもとまで行き、本気で首を絞めた。そして

「言っていいウソと悪いウソがあるのわかるよなぁ?」

と言ってさらに強く締めたが、網干が閉めている腕を三回たたいてきたので、ギブアップと読み取り解除した。



「あぁ~死ぬかと思った」

「殺そうと思った」

「またまた、ご冗談を」

「いや真面目に」

「まじか」

「まじです」



 いつも通りのおふざけ会話をしていると、福山が「私はどうすれば」と今にも言いそうな顔をしていたので「福山は先に帰っていいぞ」と告げると、福山はそそくさと校門のドアを開け、帰って行った。姿が見えなくなると網干がこういった。



「福山に何かあった?」

網干に、見たことすべてを伝えた。



「燕が、女子と交友するわけないと思ってたから、何かあると思ったけどいじめか」

「そう。正直どう解決するかまだ悩んでる」

「いじめを経験したことがある俺等なら、何か浮かぶかもな」

 そう。俺らは小学生の頃いじめを受けていた。最初は些細な言い合いから、俺がハブられたり、陰口を言われたりしていた。その時、特に仲が良かったわけでもない網干が「やめろ」と声を上げた結果。俺へのいじめが止まったが、網干に対してのいじめが始まった。だが、所詮は小学生。飽きてきたのか知らないが、いじめは自然消滅した。だが、網干と話していたり、遊んでいたやつは、網干を避けるようになった。このときに俺は、人間関係など、そのようなものということを実感し、俺は身内以外を信じることをやめた。



 駅に着き神川駅で乗り換え、川宮線の列車に乗った時昔からの疑問を聞いた。



「なんで、あの時俺の身代わりになったんだ?」

「ん?なんか嫌やん。いじめを見て見ぬふりするの」

 網干の言葉を聞いて俺は嫌気がさした。さっきいじめを発見した時、俺はその状況を見て見ぬふりをしようとした。結果的にかかわることになったが、あの時もし、福山とぶつかっていなかったら、俺は確実にスルーしてまた明日を過ごそうとしていた。自分も似たような経験があったのにも関わらず。だから、俺は決心した、やりきると。



「もしかしたら、協力要請するかもしれないけどいい?」

「別に構わんよ。俺に出来ることやったら」

「お前は本当に馬鹿だよな」

「人に親切してもらってその言葉かいな」

「冗談冗談」



 そんなことを話していると列車は、終点の川宮千里に到着した。ドアが開くと網干は椅子に座ったままだった。



「降りないのか?」

「SLの復路がもうすぐ来るから、一つ前の沢谷に戻るわ」

「さすが鉄ヲタ」

「だから、ヲタちゃうっちゅうねん」



 俺は、列車を降り改札を通り抜け家へと、向かった。