生産性重視じゃだめですか

Chapter 2 - いじめを解決するのに生産性重視じゃだめですか②

郡山 額縁2020/08/31 15:13
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某鉄ヲタと別れ、家のソファーでTwitterのTL警備をしていると、画面上部に「新着メッセージがあります」と表示された。基本俺はLINEにパスワードをかけてないので、誰からメッセージが届いたか分かるはずなのだが、と考えながらLINEを開いた。



 どうやら、まだ登録していない人の様だ。まぁ、今日登録するきっかけがあったやつは一人しかいないので、すぐにわかったのだが。「Hukuyama Mizuho」そう表示されていた。



 最近の女子は自分の名前をローマ字やら、韓国語で表示させたがる。正直誰かわからないので是非やめていただきたい。特に韓国語は本当に誰かわからなくなるのでやめてほしい。



 とりあえず、承認ボタンを押してメッセージを確認した。

「今日はありがとう。でも、私なりに一人でやるから手伝わなくていいよ」

その言葉には、彼女なりの気遣いがあったのだろう。このことに巻き込んではいけない。自分が何とかすれば、相手に迷惑も汚名もかぶせずに済む。そう考えたのであろう。だが、現実的に考えてそれは全く生産性のない行為である。



 だから、それを話すために電話を掛けた。



 無機質な電子音が何回か繰り返された後に「はい」という声が聞こえた。



「もしもし、俺だ」

「もしもし、今日はありがとうね」

「礼はいい、それよりさっきのメッセージはなんだ?」

「あぁ、あれね。なんというか、迷惑かけたらダメかな?って思って」

「そうか、じゃあ、俺がなにも手伝わないとなった時お前は、どういう対処法を持ってこの状況を打破しようとしているんだ?」

「それは、なんとかするよ」

「言葉を変える。具体的に説明してくれ」

「えっと、、、、」



十秒間程だろうか、沈黙が続いた。要するにこいつは何も考えてなかったのに、助け舟を断ろうとしていたのだ。



「結局何もできないんじゃないのか?」

「違う。何か出来るはずだから」

「そうか、じゃあ俺は手を引いていいんだな?」

「うん」

「お前はバカか」

「え?」

「え?じゃないよ。方針も何も決まってないくせに、何ができるだ?自分にどんだけ力があると思ってるんだよ」

「そこまで言わなくても」

「俺も、そこまで言うつもりは無かったよ。こんな自分を苦しめるためでしかない、メッセージを送っておいて何も考えてない?笑わせんなよ」

「ごめん」

沈黙がまた続く。普通ならいじめの被害者に対しては、励ましや上向きな話をするのが良いと考えられると思う。だが、それ以前に覚悟や準備が出来ていない場合は、それらの言葉をかけてしまえば空回りしてしまい。結果何も残らないということが起きてしまう。だから俺は厳しい言葉を浴びせた。



 これ以上詰めるのは、意味がないと判断した俺は、話を切り出した。

「とりあえず、この件に関しては俺がすべて関与するいいな?」

「そんな、悪いよ」

「じゃあ、このまま方針も決めず、空回りしていくか?」



 そのあとも、何回かやっぱりいいよ等と言ってきたが、結果的に俺が関与することになった。



 電話履歴を見ると1時間を超えていた。無料電話じゃなかったら、電話代がすごいことになるとこだった。LINE様様だ。



 そんなことを考えていると、ガチャっとドアの開く音がした。



「ただいま」

「おかえり」

「いやぁSLはいつになっても興奮するな」

「あぁ、今日朝から言ってたやつね」

「そうそう、晩飯作るのめんどくさいし、外行くか?」

「いや、カップ麺でいいよ」

「どうしたんや、なんか考え事か?」

「ちょっといじめを解決することになって」

「ほう、お父さんバカだから、よくわからんが、手伝えることやったら何でも言えよ」

「ありがとう。ちょっと風呂入ってくる」

「え、お父さんSLでとても暑い熱気浴びてきたばっかで汗かいてるんだけど」

「あぁ。我慢して」



 そう言って、風呂場に向かった。後ろでお父さんが何か言ってた気がするが、気にしない。



 パパっと、体を洗い、湯船につかる。そして、解決方法を考えた。10分ぐらい考えた結果一つの案を編み出した。

いじめを解決するにあたって、ただ解決だけをするのはもったいないというか、生産性がない。



 どういうことか、つまり、いじめを解決するとともに、全校生徒にいじめの異常性を訴え、校内にあるいじめを撲滅させるという案だ。



 この案だと、いじめをしている山口と大和を全校生徒に公開させ、二人がいじめを再開することへの抑止力になるだろう。



 我ながら、いい案が出たのだが、どうやっていじめの証拠を集めるかが問題だ。これについては明日、福山に相談することにし、俺は風呂を出た。



 風呂を出て、服を着た後に福山に「明日は7時に教室に来てくれ」とLINEを送り、網干には「明日は先に行く」と連絡をし、食卓に向かった。



 食卓では、風呂を待ちきれなかったのか、近くの銭湯で風呂に入ってきたのであろう、父がカップラーメンを作っている途中だった。ところで、カップラーメンの片一方、湯が入っているのに蓋が空いているのだが、、、



「おとん、蓋空いてるけど」

「おう、そうやな」

「いや、何故に?」

「誰かな~疲れてるお父さんを無視して風呂に入った人は?」

「いやがらせかよ」

「嘘嘘、俺は麺が固いほうが好きだから」



 しっかり、指定された作り方をされた俺のラーメンは普通に食べれたが、どうやら、アホなことをしていた方は、麺が固まったまんまだったようだ。



 冗談のために普通に食べられなかった麺をかわいそうに思う。うん?おとん?ざまぁみろとしか。



 ガリガリとラーメンが出す音じゃない音を出しながら食べているオトンを横目にさっさと夕食を済ませ、自室に戻った。



 スマホを開くと一件の新着メッセージがあった。もし福山が「やっぱりいいよ」と送ってきていた場合、そろそろ殴ろうかと思ったが、「了解」というメッセージだった。



 そのメッセージに返信をした後、オフトゥンに入り、適当にpixivを閲覧した後意識を飛ばした。



 朝、見事なほどの運動会日和だ。晴れと思った人残念。正解は雨でした。運動会に出るのがだるすぎて、雨を運動会日和と言ってしまう。



 そんな、しょうもないことを考えながら、いつもより早い時間の列車に乗り込む。車内はいつもより空いていて、いつも以上にモーターの音。停車した時のコンプレッサーの音。ギシギシと車体の唸る音がよく聞こえた。



 やわらかい座席に意識を預けていると、終点の神川駅に着くというアナウンスが聞こえたので、重い腰を上げ、乗り換える。



 畑谷駅に着くと雨はやんでいて、傘を持ってきたことを悔やんだ。関西人なら「やんでるやないかい」と小さく突っ込んでいただろう。とそんなくだらないことを考えていると、福山からLINEが入った。



「今、あなたの後ろにいるの」



 は!?と思い後ろを見るとニコニコしながら彼女が立っていた。いじめを受けているような子がする笑顔じゃないかった。多分いじめを気付かれないように、誰にも迷惑をかけないようにしてきた結果がこれだろう。自分の気持ちに嘘をついていかにも平気を装って。



「おはよう」

「おはよう、大分君」

「早く学校に向かおう、色々案は考えてきたから」



 俺らは、雨上がりの道を駆け、学校の校門を通り過ぎた。そして、北校舎の中央階段を上がり、2-1の教室に入った。なぜ、こんなに早く学校に来たか?それは、全校生徒に異常性を訴えるのに一番いいのは、知らない事実をまず提示してビックリして興味を引いてもらうのが一番いいと考えただからだ。



 机に荷物を置き、昨日考えたことをすべて福山に話す。彼女はうなずき何も言わずに固まっていた。話し終わったとき。彼女から一滴のしずくが垂れた。



 正直、女子の泣く姿は初めて見たので内心焦りながらも言葉をかけた。

「どうしたんだ?」

「いや、ごめんね。色々つらかったのが、ぶわっと出ちゃって」

「その気持ちはどんな気持ち?怒りか?悲しみか?」

「え?」

「正直、今後福山にはもっと負担があることをしてもらうことになると思う。でもそれを乗り越えられる気持ちってのが、復讐心だと思う。だから、気持ちを確認した」

「怒りだと思う」

「そうか、ならそいつらを徹底的に苦しめような」



 徹底的に苦しめる方法。簡単に考えれば暴力で解決するのが手っ取り早いだろう。だが、そんなことをしてしまえば、必ず奴らはまた誰かを標的に変え、いじめをするだろう。では、どのような苦しめ方をすればよいか。簡単に言えば「いじめの疑似体験」をしてもらうのだ。



 「いじめの疑似体験」とはなにか。それは、何らかの方法でいじめの証拠を集め、それを全校生徒に見せる。こうすれば全校生徒にから、奴らに向けられる視線は、いじめの時に食らうような視線と似たようなものになる。そして、その経験が抑止力になるという考えだ。



「だが、問題が一つある」

「なに?」

「証拠集めの方法だ」

「え?それはボイスレコーダーでいいんじゃないの?」

「音声を加工したと言われれば、何とも言えなくなるし、もし、何も言われなくても、全校生徒が全部の状況を理解できるとは思えない」

「カメラは?」

「カメラかぁ、いいかも知れんが、台数が用意できるか」

「そうだよね」

「状況証拠を押さえる方法は今日の放課後までに考えておく。」

「分かった」



そして、俺は校長室へ向かった。