僕が浴室から出たあと、ねえさんも続いてシャワーを済ませた。
ねえさんが僕の部屋着を着ていることに、またドキドキしてしまう。
なんでもない部屋着を着ているだけなのに、内側からにじみ出る色気がダダ漏れだ。
完全にこれは反則だろう。
色っぽすぎて、直視できない。
余計なことは考えずに、とっとと寝てしまおう。
ベッドの上の肌掛け布団を整え、枕に新しいバスタオルを巻いた。
「今日は暑かったし、疲れたでしょう。もう遅いし、そろそろ寝ましょうか。ねえさん、ベッド使って下さい」
「アンチャンは?」
「僕は大丈夫です。その辺で寝ますから」
クローゼットの中から、普段は使っていないタオルケットを引っ張り出した。
「アンチャン、明日仕事ちゃうの?」
「明日は先週の土曜出勤の代休取ってるんで休みです。ゆっくり寝てもらっていいですよ」
床に転がっているクッションを枕がわりにしようと、手でたぐり寄せる。
「電気、消しますね」
部屋の明かりを消して、ベッドから離れた場所で、固く冷たい床に寝転がった。
常夜灯のオレンジ色の灯りが、ベッドに横たわるねえさんのシルエットをぼんやりと浮き上がらせる。
ねえさんの腰の辺りのくびれとか、華奢な肩のラインがあまりにも艶かしくて、僕はそれを見ないように背を向けて目を閉じた。
結局、ねえさんがどうして帰りたくないと言ったのか、どうして一人でいたくないのかは、聞かなかった。
これで良かったのかな。
こんな時、先輩みたいな大人の男ならどうするんだろう?
優しく抱きしめて話を聞いて、添い寝でもしてあげるんだろうか。
ねえさんのことも、こんな時、女の人がどうして欲しいのかも知らない僕は、こうするのが精一杯だ。
変な気を起こさないうちに寝てしまおうと思うのに、同じ部屋にねえさんがいると思うと、緊張して寝付けない。
寝返りを打とうとしたけれど、ねえさんの方を向くのがなんだか後ろめたくて、やめる。
ねえさん、もう寝たかな。
「アンチャン……まだ起きてる?」
ねえさんが遠慮がちに小さな声で尋ねた。
どうしようか。
返事、した方がいいのかな?
迷っていると、背後でねえさんがベッドから起き上がり、近付いてくる気配がした。
なんだろう……?
眠れないのかな?
ねえさんは僕のそばまで歩いて来ると、床に座り込んだ。
「もう……寝た……?」
また小さな声で尋ねたかと思うと、ねえさんは僕の背中にしがみつくようにして横になった。
僕の鼓動が急激に速くなる。
「……眠れないんですか?」
僕が尋ねると、ねえさんは僕の背中に額を押し当てて「うん」と返事をした。
「一人はイヤや。一緒に寝て欲しい」
背中から、ねえさんの体温が伝わってくる。
「ここ、冷えますよ。それに固くて体が痛いでしょう」
「……うん」
僕は起き上がって、ねえさんを抱き起こした。
「じゃあ……ベッドに横になって。僕、そばにいますから」
ねえさんは黙ってうなずいた。
固くて冷たい床に、ねえさんを寝かせるわけにはいかない。
もしかすると、そんなことは自分に対する言い訳かも知れない。
僕はただ、今にも消えてしまいそうなほど儚げなねえさんを、どこにも行かないように抱きしめたいと、そう思ったのだから。