Chapter 5 - 4
落ち着きを取り戻した守莉は、少女に優しく話しかける。
「あら、すごく可愛い子ねー。……どうしたの ? 迷子になっちゃった ?」
「ナコゾコノハテドキコ ?」
加工された様な機械的な声で、少女は謎の言語を発した。
聞いた事のない、摩訶不思議な少女の言葉を、皆は繰り返す。
「……ナコゾコノハテドキコ ?」
辺りをキョロキョロと見渡し、少女は再び言う。
「ナコゾコノハ……テドキコ ?」
「……いや、待て待てっ ! それって、どこの国の言葉だよっ !」
思わず全員、声を揃えてそう突っ込んだ。
予想外の謎の少女の登場に、呆気に取られる上野家。
これでは、少女との意思疎通は難しそうだ。
小さく首を傾げるワンダを見て、守莉は頭を悩ませる。
「ちょっと、どうしよう……この子、うちらに何か伝えようとしてるみたいだよ。分かってあげられなくて、なんか申し訳ないなー」
「英語ではないよな……あれは、何語なんだ ?」
壁に隠れ、真誠はチラッと顔を出して少女の様子を伺っていた。
「宇宙語じゃない ?」
「異世界語でしょ」
飛華流に続き、守莉がそんな馬鹿げた事を発した。その後に、直志までふざけ出す。
「リンゴだよリンゴ」
「はっ ? 皆して、何馬鹿な事言ってんだっ ! もっと、真面目に考えろよっ !」
真誠に怒られ、守莉は真面目に考え始める。
「パパさ……新婚旅行でアメリカに行った時、話しかけてきた外人にノリとジェスチャーで返してたじゃん ? あんな感じに、この子にもやってみてよ」
「そんなん嫌だってやりたくないっ ! あれは、英語だからなんとかノリでいけたけど……これは、どこの国の言語か分からんから無理だわ」
呆れた様子で、直志は拒否する。
会話する二人を静かに眺め、少女は首をひねった。
きょとんとし、頭にクエスチョンマークが浮かび上がってきそうな少女に、守莉は引きつった笑みを見せる。
「え、えっと……日本語は分からないのかな ? どうしよう」
「……んー、困ったな。警察に相談してみるか ?」
真剣な顔つきになる直志に、守莉は質問する。
「……でも、この子は飛華流のクローゼットから出てきてるし……それを、警察にどう説明するの ?」
「この状況の説明かー。ああ……難しいなー」
「そのまま正直に……子供部屋のクローゼットからいきなり出てきましたとでも言うつもり ? そんなの、変人扱いされて終わりだよ」
「…………」
考え過ぎて、黙り込んでしまう直志に守莉は続けてこう言った。
「……いや、誘拐して監禁してたんじゃないかって、疑われちゃうかもよ」
少し間を置いた後、ふさふさの髪を掻き立てながら直志は口を開く。
「まあ、それもそうなんだけど……そもそも何で、この子が飛華流のクローゼットの中に居たのか考えないとね。こんな事、普通じゃあり得ないんだけどな……」