Chapter 4 - 3
「……えっ ? う、後ろ ?」
とても嫌な予感を感じながらも、飛華流はそっと振り返った。
すると、飛華流の目の前に、さっきの少女が立って居た。
(い、いつの間にっ ?)
半泣き状態の飛華流の顔を、少女はじっと覗き込む。
(何だよこの子……僕をガン見してくるんだけど)
少女に恐怖を感じ、ビクッとする飛華流から彼女は全く目を離さない。
普通ではあり得ない出来事が起き、上野家は大混乱だ。全員、間抜けに口をあんぐりさせている。
目の前の少女に怯え、飛華流は泣きながらママに飛びついた。
「うわーーーー。ママー !」
言葉を失ったまま、守莉は飛華流の背を優しくさする。
少女に驚きつつも平静を装い、直志は二人にこう言った。
「うおっ……二人共、落ち着いて。ほら、小さな女の子だよ」
(普通の……女の子 ?)
直志の言葉に、二人はもう一度少女に目をやる。
艶のある桜色の長い髪に、透き通った白い肌。お人形の様に、整った顔立ちをしている。
アニメの世界から出てきた様な、どこか異質な雰囲気を醸し出す、容姿端麗な美少女……
いや、どこが普通の女の子だよっ !
そう、二人は心で突っ込んだ。
突然、少女は歩き出し、飛華流へ接近する。
「えっ ?」
自分と少女の距離がどんどん縮まっていく事に、飛華流は困惑した。そんな彼を、何故か少女は無表情でじーっと見つめる。
その同年代くらいの少女に、飛華流は見惚れていた。
(なんだか、前にもこの子と会った事がある様な、そんな気がする)
懐かしさを感じるが、飛華流はこの少女の事を全く知らなかった。それなのにそんな妙な感覚がある事を、彼自身も不思議に思った。
いや、でも……この顔、何処かで見た事が……と、何かを思い出そうとしていた飛華流。彼は、「あっ、そうかっ !」と、納得のいく答えを見つける。
飛華流は、趣味で漫画を描いている。そこに登場する姫のキャラクターに、この少女はよく似ていた。だから、彼は少女に懐かしさを感じたのだろう。
まじまじと少女を眺め、直志と守莉は顔を見合わせる。そして、大きな目を見開き、煩い顔を更に強調させた直志に、守莉は声を潜めて言う。
「ねえ、また ? ……何で ?」
「こらっ……もういいって」
不愉快そうな顔をし、直志は守莉を叱る。
すると、守莉は「あっ……ごめん」と口を押さえた。
そんな不自然な二人に、飛華流は尋ねる。
「えっ ? またって何 ? こんな事、前にもあったの ?」
「うーんとね……なんて言えばいいのかな。この女の子と……」
困った様子で何かを言いかける守莉を、直志が遮る。
「もう、この話はやめやー。……とりあえず、今はこの子をどうにかしんといかんよ」