俺様(魔王)の新世界征服!

Chapter 1 - 第一話 とある勇者

しゃいにんぐ社員2020/08/21 16:32
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分かっている。もう分かっているから。無理矢理に朝の雰囲気を醸し出すのは止めてくれ。

俺だってその気になればお前らの10や20羽、一瞬でモーニングのメインディッシュにする事だって出来るのだ。


『それじゃあ30羽は?』


それは難しい。いや、木に止まってる状態ならできない事もない。しかし俺の魔法は特に広範囲と言う訳では無いのだ。王宮に生えてる木はそんじょそこらに自生している野良木とは見違える。根っこの先端から無数に伸びた枝、そこから生える緑々強い若葉に至るまで栄養が行き渡り、まるで大きさが違う。

もしかしたら端の方に止まっている何羽かは無傷で飛び立ってしまうかも知れない。


ああ。またやってしまった。

自問自答で自信を失うなんて「勇者」としては失格だ。こんな事じゃ今日を乗り越えるなんてとても無理だ。


「試しにやってみようか。」


ダンスパーティーでも開こうかと思ってしまう程の大きな間取りに、トロールでも横たわれる程の大きなベッドの上で、俺は弱々しく片腕を上げ、掌を窓に向けてみた。


「・・・」


魔力を練り上げる隙も無いほどに、強い罪悪感が精神を支配して行く。

今日、この後、魔王と相対する「勇者」が何の罪も無い、いや、むしろ多くの人々の心に穏やかにし、その囀りは幸福を届けるであろう小鳥たちを己の無能さを一瞬でも忘れたいが為に丸焼きにするなど、あってはならない。良識ある大人は子供に喧嘩を売らないように、良識ある勇者は小鳥を丸焼きにしてはいけないのではないか。


どうかしている。

いくら魔王討伐の当日で人生史上最も憂鬱な朝と言えど、空を自由に飛び回り、何の悪気もなく囀るだけの小鳥に対し、こんなにも敵意を向けているなんて。


いつの間にか小鳥の囀りも消え、辺りは静寂と化していた。もしかしたら自分の殺気がそうさせたのかもしれない、なんて事も思ったが、そこはあまり深く掘り下げないでおこう。惨めになるだけだ。


もう少し眠ろう。

休息が足りてないのかもしれない。

次に目覚めた時は、今よりはマシだ。


そう信じ再び目を閉じ、厚い掛け布団を頭の先まで覆い被せた。