ローマでお買い物!(第二部)

Chapter 3 - 第九章 キスの余韻

進藤 進2022/02/08 23:08
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愛らしい赤ん坊を二人抱えた聖母像を見ながら、高田が広子に説明している。


広子は楽しそうに高田の言葉に相槌を打っている。


さゆりは二人を眺めながら、昨夜のキスの余韻を思い出していた。


あの後、山本夫妻の部屋の片づけを手伝ってホテルに弁償と保険の手続きをしていたら何だかんだで、二時間近くかかり部屋に戻った時、広子はもう寝息をたてていた。


さゆりも少し興奮はしていたが、旅の疲れもあってすぐ寝てしまった。


朝起きた時、広子は昨夜の事がうそのように晴れやかな顔をしていた。


さゆりは軽い嫉妬に似た感情をいだきながら、広子を見つめていた。


「あの、さゆり・・・さんっ・・・・。」


卓也が決心したような口調で言った。


突然、現実に戻ったさゆりは改めて青年を見た。


相変わらずの原色のスーツにはだいぶ慣れたのであるが、ポマードべったりの頭とサングラスは何とかしてほしかった。


なにかマフィアとしゃべっているようで、回りの観光客も一歩引いている感じがするのだった。


高田と広子が、妙にこの男とペアにしようとしている気がするのは、考え過ぎであろうか。


「な、何ですか・・・?大西さん・・・・。」


今だに引きつった笑顔をしてしまう、さゆりであった。


「あ、あの・・・・俺・・このツアー終わってもまだしばらくイタリアにいたいので、帰りの・・・・飛行機のチケットをキャンセルしてくれ・・・・ませんか・・・。」


「ああ、いいですよ。そういえば大西さん、お金持ちなんですってね。じゃあ、チケットはキャンセルしておきます。他にホテルの予約とか何か希望はありますか?」


さゆりと行動を共にしたいとは、とても言えない卓也であった。


高田が広子から聞いた話によると、さゆりはこのツアーが終わった後、一週間ローマに滞在するらしい。


だが下手に言って、嫌われたら元も子もない。


とりあえず、卓也はローマで泊まった同じホテルの名を言った。


さゆりは自分と同じホテルで、しかも同じ一週間の予約と聞いてビックリしたが、表情には出さず了承した。


(えーっ、どうしよう。同じホテルになっちゃうじゃないの。でも、まっ・・・いいか。いざとなれば違うホテルをとればいいし。とりあえず予約しておいてあげるか・・・。いいわね、お金持ちは気楽で。いったいいくらくらい持ってきているのかしら・・・?)


「四千万円ぐらい・・・・ですって。」


バールでカプチーノを飲みながら広子が言った。


「どうせ店を継ぐから自分の貯めたお金だし、一気に使いたいんですって。」


広子が高田に聞いたらしく、卓也の事を教えてくれた。


「それに・・・。」


広子は少し顔を赤らめ、声をひそめて言った。


「彼・・・ドーテイ・・・あ、あまり経験ないから、お金も使った事ないんですって。今時、免許も持ってなくて、女の子とつきあった事もないんですって。キスすらした事ないって・・・。高田さんの言うことだから、少し大げさかもしれないけど・・・。」


「キス」と聞いて、さゆりも頬を赤く染めた。


さゆりも、よく考えてみると卓也とあまり変わりばえしなかった。


まだ処女であったし、モテタとはいえ、まともに男とつきあった事もなかった。


しかも、ファーストキスの相手が、昨夜この目の前の広子とであったのだ。


そういう意味では卓也に親近感をおぼえるのであったが、あんな堅物と一緒だと思うと少し自分が情けなくなるのだった。


「それで・・・ね、さゆりちゃんに何かプレゼントしたいって・・・。

あの人、さゆりちゃんの事、好きなんですって・・・。」


思わずカプチーノを吹き出しそうになった、さゆりはカウンターでビールを立ち飲みしている二人を見た。


又、二人でサッカー中継を見ている。


「えーっ。な、何言ってるんですかっ・・・?じょ、冗談じゃないですよぉ。」


さゆりはこんな話を、しかも昨夜酔っていたとはいえ、キスまでした広子から聞かされたのが、凄いショックであった。


「でも彼、変な格好しているけど・・・・背も高いし・・・・・。サ、サングラス取ると、けっこう・・・・ハンサムなんですって・・・。」

 

広子もさすがに悪いと思ったらしく、言い訳がましい説明をしている。


「どうせ高田さんが言っていることでしょ。あっー?・・・どうりでこの頃、やたらと大西さんと私をペアにしようとしている訳だぁ。広子さんもグルになってたんですかっ?」


さゆりはメガネを外して、広子を睨み付けた。


大きな瞳の色が、怒りで少し濃くなっている。


可愛い顔立ちがよけいに広子の胸に突き刺さる。


広子とて、この愛しいさゆりを自分の物にしておきたかったが、さゆりの幸せを考えると自分のアブ・ノーマルな想いは押さえなくてはと思っていた。


ただ、大西の事がノーマルだとは言い切れないのではあったが・・・。


「そ・・・そんなわけじゃないのよ。だって、私も、さゆりちゃんのこと・・・・・好きだもの。」


そう言うと、さゆりの白い指に自分の指をからませた。


さゆりは一瞬、ピクッとした。


広子の瞳に、妖しく吸い込まれるような感覚が再び沸き起こっていた。


「でも・・・昨日はごめんなさい。酔っていたのね・・・・。私のわがままで、さゆりちゃんの幸せを奪うわけにはいかないですもの。私の見たところ大西君って、悪い人じゃなさそうよ。極端に純情なだけみたい・・・。だから・・・あまり意識しないで、このまま四人旅を続けましょうよ。


ただ、これから行くブティックで何かプレゼントしたいって言うから・・・。私もお買い物したいし・・。これ以上さゆりちゃんも、私からプレゼントされたくはないでしょうから・・・。」


広子の指が、なまめかしくさゆりの指をもてあそんでいる。


口ではそう言いながらも、広子の瞳はさゆりを見つめ離さない。


さゆりも、いつのまにか広子の動きに指を預けていた。


(や・・・だ・・・。私・・・。広子さんの指柔らかくて・・・気持ちいい・・・。ああ、そんなに見つめないで・・・ああ・・・昨日のキス、思い出しちゃう・・・。)


「わ、わかり・・・ました・・・。でも、私別に大西さんのこと・・・何とも思っていませんから・・・。それに、変に、何かもらっちゃうと・・・。」


広子は微笑みを浮かべながら、さゆりの指を強く握り、ささやくように言った。


「大丈夫よ。もしいやだったら、私がかわりに彼にお金、返してあげるから・・・。」


さゆりはもう力が入らなかった。


声も出せず、小さくうなずくのが精一杯であった。


四人の旅は意外な方向へ向かっているようである。


フィレンツェ、二日目の午前のことであった。