Chapter 4 - 第十章 初めてのプレゼント
「私、このブレスレット好き・・・・。さゆりちゃんに似合と思うわ。」
「どれどれ・・・あーっ、このゴールドのステキィ。ポメラートですね。コロンとしたボリュームのハートが可愛い・・・・。それとこのキーがユーモラスで・・・。」
あんなに色々悩んでいたくせに、いざお店に入ると女性はゲンキンですな。
目を輝かせて選んでいる。
男達は手持ちぶたさにロビーに座っている。
もっとも、卓也の方は何でもいいから、さゆりの側にいたかった。
時間が・・・残されている時間は少ないのだ。
たまらず、ホテルの中にある貴金属店に卓也も入っていった。
「な、何か気に入るもの・・・・あ、ありました・・・・?」
精一杯落ち着いて言ったつもりだったが、唇の端が震えている。
広子は、この青年に好感を覚えていた。
「ええ・・・このゴールドのポメラートとぉ・・・・こっちのカルチェのぉ・・・。そうそう・・・・シルバーのブレスレットウォッチもいいなぁ・・・。」
さゆりはもう、すっかりさっきのことなど忘れて興奮しながらしゃべっている。
買う気等サラサラないのだが、見ているだけで楽しいのだ。
「じゃー、それとこれ・・・下さい。」
卓也は無造作にカードを出してサインしていく。
店員も日本語で十分通じた。
包みを渡されて、ハッと我に返ったさゆりであった。
「ええっー・・・?こ、こんな高いもの・・・だっ、だめですよぉ。」
慌てて返そうとするさゆりに、サングラスを取ると卓也は哀願するように言った。
「お、お願いします・・・・・じ、女性にプレゼントするの俺、初めてなんです・・・。恥・・・かかせないで下さい・・・・。」
鬼気迫るような表情であった。
さゆりもそれ以上は何も言えず、意外に涼しい瞳の青年を見返した。
太い眉は濃くキリリとしまり、目はあまり大きくはないが瞳は深く澄んでいる。
何より、さゆりを見つめる眼差しが真剣で、思わず気持ちが吸い込まれそうになる。
(何かしら・・・私、変な気持ち・・・。こんなこと、初めて・・・。私って、情緒不安定なのかしら。さっきは広子さんに感じてたのに、今は・・・。)
三人は店を出て、ロビーで待つ高田の所へやってきた。
卓也はサングラスを再びかけているが、明らかに興奮していて顔を紅潮させている。
さゆりは一度にこんなにプレゼントされるとは思ってもいず、嬉しさより戸惑いでやはり頬を赤く染めていた。
広子は高田の隣に座ると楽しそうに言った。
「すごいのよ、大西さん・・・・。さゆりちゃんがちょっとでも可愛いとか、きれいとか言うものなら、片っ端から買っちゃうの・・・。店員さんとかもさすがに驚いてて、あいつはマフィアかって私に聞くのよ・・・・。
私、笑っちゃった。でも、人事ながら気持ちよかったぁ・・・。そんなに高い物じゃなかったけど、いい買いっぷりだったわぁ・・・さすが、男の人ね。」
「そ、それで、そのぅー・・・。ちなみに全部で、いくらぐらい・・・・?」
恐る恐る、高田が尋ねてみた。
「あら、そんなに高くないのよっ・・・・。20万円から40万円ぐらいのが8個ぐらいだから250万円ほどかしら・・・。ふふっ、最後にはさゆりちゃん、恐くなって指、ささなかったもの・・・・。」
「ハハ・・・250万円・・・ね・・・。ハハ、そりゃあ、安いわ・・・。」
高田は改めて卓也を見た。
女の子に初めてプレゼントした興奮で、鼻の穴をふくらませて荒い息をしている。
(こりゃあ、ほっとくと本当に4000万円使っちゃうぞぉ・・・。ちゃんと、監視しなきゃな・・・。)
「ねえ、さゆりちゃん。せっかくだからブレスレットとイヤリングしてみなさいよ。大西さんも喜ぶわ・・・・。」
あまりの事に驚きうつむいていたさゆりであったが、広子に言われたのと、大西の真剣な眼差し・・・先程のサングラスを取った素顔を思い出して包みを丁寧に開けた。
よく見る暇もなく卓也が片っ端から買っていったため解からなかったが、改めて見ると輝くような物ばかりであった。
広子にしてみれば安い方なのだろうが。
20万円もするブレスレットなど、さゆりはした事がなかった。
カルチェのシルバーのブレスレットウォッチは可愛い四角い時計とハート、プーマ、鍵等を形どったアクセサリーがまわりについている、チャームブレスレットという特殊なものだった。
あと、シルバーのダブルハートのイヤリングを取り出してつけてみた。
「メガネも取りなさいよ。」
広子に言われ、大きな黒縁のメガネを取ったさゆりは、卓也を見つめて言った。
「ありがとう、大西さん。こんな高価な物。私、初めて・・・。こんないいもの身に付けたことなんてなかったの。すごく、うれしいわ。」
天使が、そこにいた。
潤んだ黒目がちな瞳、長いまつ毛、薄くバラ色に染まった頬、柔らかそうなぷっくりとした口唇、少し、はねあがった髪からこぼれる丸いおでこ、何よりこんなに優しい微笑みを卓也にだけ投げかけ、透き通るような声で感謝の言葉を言ってくれている。
(ああ・・・きれいだ・・・。もう、いつ死んでもいい・・・。日記に・・・いっぱい書いておこう・・・。さゆりさん・・・好きだ。)
「良かったなー大西君。こんな、きれいな子ならオジさんも・・・。いやオホンッ・・・・。250万円もないよー、俺は。トホホ・・・。」
高田の言葉に広子は声をたてて笑った。
その時ちょっとしたアイデアが浮かんだのか、広子はさゆりの耳に手をあて、小さな声で何か話している。
さゆりも笑ってうなずくと広子の耳に手をあて逆に話している。
男二人は訳もわからず、ただ女達を見つめていた。
「じゃあー、そういうことで・・・。行きますか、広子さん・・・。」
「そうですね。行きましょう・・・さゆりちゃん。」
女二人は腕を組んで、男達を促して連れだって歩いていった。
時々何か言い合っては楽しそうに笑っている。
男達は、ただ何もわからず二人の後をついていった。
フィレンツェ、二日目の午後の事であった。