雨宿り(第二話)十年目のラブストーリー

Section 5 - 第五章 十年目のラブレター

進藤 進2022/02/06 11:55
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何日もの間待ったが、返事は来なかった。


春休みでまばらな学生食堂の片隅で、俺はボンヤリと座っていた。


テーブルの上のコーヒーはゆらゆらと湯気を立てている。


どうにも成らない事が世の中には有ると考えていた。


早めの桜が風で少し散っている。


映画のワンシーンの様だった。

きれい、だった。



列車がトンネルに入り、夢から覚めると、窓の中の俺が見つめていた。

もう、あの頃の俺では無い。


時の流れが、全てを遠い記憶の彼方へ運んでいってしまったのだろう。


ただ十年ぶりに観た映画が、俺を忘れかけていた世界に連れ戻してくれた。


あんな恋は、もう二度とできないだろう。


俺は複雑な気持ちを抱いて、家路についた。


家では妻が待っている。

俺は三年前に結婚していた。


「今日、映画を観てきたんだ。」


リビングのソファーに並んで座り、俺は妻の肩を優しく抱き寄せた。


「へぇー、どんな映画?」

少し甘えるように見上げている。


鳶色の大きな瞳が潤んでいる。


「ほら、二人で初めていった映画さ。」


「あっ、ずるーい。私も観たかったなー。」

 

妻は少し膨れた顔をした。


「フフッ・・・なつかしいな。でも、こうして二人でいるのが不思議な気がするわ・・。あの時のあなたの顔ったら・・・。」


あの日、冷めかけた俺のコーヒーの隣に、熱い湯気を立てた紅茶の紙コップが青い封筒と一緒に置かれた。


運んでくれた白い指に、花びらが一枚、そっと降り立った。


今は俺の妻となった彼女が少し、はにかみながら立っていた。


俺は口を開けたまま、ただ見つめていた。


いつもより幾分強く妻の肩を抱きながら、身体をよじってポケットから定期入を出した。

  

その中から小さな紙片を取り出すと、彼女は顔を真っ赤にして言った。


「あっ何よー、それ・・・ヤダー。まだ持ってたのー?ハズカシー・・・。」


それは彼女にあてた手紙に忍ばせた、あの日の映画の半券であった。


そこには彼女の電話番号の下に、俺の字で小さく書かれている。


「今も、愛している。」と。


そして、彼女も青い封筒の中に手紙と一緒に返してくれていた。


「私も、愛しています。」

と、俺の字の下に丸い字で続いていた。


十年の時を超えたラブ・レターは、二人に熱いキスをプレゼントしてくれた。


二人のラブ・ストーリーは十年目にして。


『セカンド・ラン』上映された、らしい。

 

雨やどり

セカンド・ラン(十年目のラブストーリー) ―完―