進藤 進2022/02/04 05:56
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バターナイフをとろうとした手が触れると、二人は顔を赤らめた。


昨夜の余韻が指先から礼子の心にしみ込んでくる。


男は照れ隠しするように、目の前の料理を旺盛な食欲で次々と消していく。


礼子は頬杖をつきながら、幸せそうに見つめている。


「ねえ、おいしい?」

心の底からうれしさが込み上げてくる。


男の仕種の何もかもが、礼子が思い描いていた夢のワンシーンに重なっていく。


男は顔を上げると、言葉の代わりに子供の様な笑顔を見せるとコーヒーを満足そうに飲み干した。


ゆったりと時間が流れていく。


冬の季節の間、ひっそりと眠っていた芽がツボミを膨らます様に二人の愛が今、目を覚ました。


眩しい朝の光りに目をしかめながら、男はくすぐったそうな笑いを浮かべて言った。


「それじゃあ、明日・・・会社で。」


女のこぼれる笑顔に見送られて島田は帰っていった。


礼子は玄関のドアを閉めると、それにもたれる様にして口びるをキュッと噛んだ。


瞳の中に、決意の光りが宿っていた。


その日、女は出社して来なかった。


間も無く、瀬川と島田の元に手紙が届いた。