北川 聖

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新・青い鳥

幼い頃から過疎の村で育ってきた北久保健一はいつも山の向こうに何があるのだろうかと憧れてきた。そして大人になったら向こうの世界で成功して新聞にも載るんだと思ってきた。彼の夢はそれにとどまらず教科書にも載るんだと思ってきた。 彼はこの村で不幸だったわけではない。平均的な家庭で質素に育った。近くには宮沢由紀子という幼馴染がいていつも一緒に遊んでいた。小学校高学年になってお互いに意識し始めるまで無邪気に遊んでいた。中学校に入ると彼は野球部、彼女はテニス部に入部したので前ほど一緒にいるわけにはいかなくなった。彼女は暖かい性格でいつも向こうみずな健一を心配していた。 二人は夕焼けを見ながら夢を語った。 彼女の頬を紅が差したように夕焼けが染めた。 「僕の夢は途方もないものなんだ。由紀ちゃんにはわかってもらえると思う。僕はこの村に埋もれるような人間じゃない。何が何でも教科書に載るんだ」 彼の夢はしかし漠然としたものだった。彼は自分に何ができるかわからなかった。ただ将来への自信だけは誰よりもあった。そんな健一を由紀子は心配していた。夢だけが空回りしていたように見えたからだ。 「由紀ちゃんはあの山の向こう

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